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仕組み

 あの戦いの最中、気になったことがあった。


 ヴォルスロークの一件もそうなのだが、まぁそれは追々として。


「なぁ、魔族ってどうやって生きてるの?」


 という事だ。知ってどうするのかと言われればどうしようもないのかもしれない。


 しかし、戦いが終わった後もこれが存外気に掛かっていて、今日はアラームが鳴り終わるまで起き上がれなかった。


「どうやって…ですか?」


「いやさ、この間戦ってて思ったんだけど、アイツら切りつけても血とか出ないじゃん。まぁ、グロくなくていいけど」


「ああ、なるほど。そういう…まぁ、簡単に言うのであれば”魔素”ですね」


「マソ……魔力とは違うの?」


「人間だとあまりイメージしやすいものでもなさそうですけど……魔力を生命活動に使用していた場合、戦いの中で魔力を使い果たしたらそこで死ぬことになるじゃないですか」


「魔力は体力みたいなもんなんだっけ?」


「ええ。もちろん過労が命に関わる事もあるとは思いますよ。ただ、体力を使い果たして動けなくなることはあっても、その瞬間死ぬということまずはない。といえば分かりますか?」


「なるほど…」


 が、ここで疑問が1つ。


「ん?てことはアイツらは魔素がある限り死なないのか?」


「まぁ、寿命は個体差あれど存在します。魔素を全て消費し尽くせば消えますし、これまた人間では考えられないかもしれませんが、血と違って魔素は循環しません。なので、そこにある魔素が消えればその部位や存在は消滅します」


「…?」


「あまりよくわかっていないモノなので知ってもどうしようもない部分ですが…魔素はその物体を構成するパーツでしかないんです」


「血でもあるし、肉でもある…みたいな?」


 まぁそうです。と頷くエルゼ。


「ただ…死なない種もいます」


「死なない…そんな奴いんの?」


「精神生命体と呼ばれる存在です。具体的には、天使、悪魔、そして僕達精霊です」


「え?あ、お前死なないんだ。ビックリなんだけど…倒せないの?」


「いえ、倒せますよ?」


 死なないのに倒せるとはまたよくわからない。そんな俺の疑問に答えるように、エルゼは続けた。


「僕らは精神そのものですし、そういう星の元に生まれました。ですからそこにいる限りは精神そのものでいられるのですが、他の空間ではそうもいきません。何かしらの器に入らなければ存在を維持できなくなります。なのでその受肉した器を破壊すれば倒す…とも行きませんが、この世界との繋がりを断つことはできます」


「繋がりを断たれたらどうなんの?」


「元居た場所に引き戻されます…試さないでくださいね?」


 俺の事なんだと思ってんだこいつは。


 あ、違う、前にエルゼを殺せないか聞いたんだっけ。そりゃ警戒もされるか。


「じゃあお前もその身体は仮の姿なんだな」


「僕らの場合は任務で別の次元や星に赴くわけですから、その際に必要な身体はその者の本来の姿に近い形のものが支給されるんです。一応選べもするんですが、感覚の違いに慣れるのも大変ですし」


「もともとそういう見た目だったのか」


 ですが…と言葉をつづけるエルゼ。


「悪魔という存在は厄介ですねぇ。人間の心の弱いところに入り込み、支配し、その身体を我が物として受肉するので。それにアイツらは僕達と違い、強い個体だと受肉なしで別次元に渡ったりしますし」


 その違いは何なのかと問われれば、悪魔は天使や精霊と違って受肉できる素体を自分で用意しなくてはならないという点だ。


 そのため場合によっては消滅覚悟で別次元や別世界へと渡り、その憑依先とも呼べる存在を探すことになる。弱い悪魔はすぐに消えてしまうらしいのだが、強い悪魔は憑依先を吟味する余裕さえあるというのだとか。


 具体的にそれがどう凄かったり恐ろしかったりするのかは分からなかったが、エルゼがそうだというのだからまぁ、そうなのだろう。


「あれか、悪魔憑きってやつ?エクソシスト用意しておかないとダメか?」


「言っては悪いですが、あんなのじゃ太刀打ちできませんよ。完全に悪魔にその身を支配された者はもう…救えないんですから」


「殺すしかない…と?引き剥がせないの?」


 その質問に、エルゼは少し考えてから言った。


「颯くんが朝飲むコーヒーを想像してください。牛乳とコーヒーを混ぜますよね?あの牛乳も注いだ直後であれば、頑張って牛乳だけを掬い出すことも完全にではありませんが一応可能です。……ですが、牛乳とコーヒーをクルクルと混ぜてしまえば、それは不可能になります」


 かき混ぜるような身振りをしながら説明する。間があったのは例えを考えていたからだろう。


「完全に支配される前であればなんとか救うことも可能ってこと?」


「それは…」


 質問に対してエルゼは苦い顔をした。


 コーヒーの話したからかな。


「確かに理屈としては、無理ではありません。無理ではありませんが、その人が元と同じ人に戻れる保証はありません。……まぁ、そこはその人の心の強さによると思いますが、そもそもそれをどうやって行うのかという話で、結局は難しいと言わざるを得ませんね」


「そうか……」


 多少なりとも混ざってしまった後だと、完全なコーヒー……じゃなく、完全に元の人格に戻すことは出来ないのか。


「それも含めて颯くん。1つだけ覚えておいてください」


「何を?」


「これまでの戦いでもそうですが、颯くんの安全が第一優先だということです。立ち向かってくれるのはいいですが、死んでしまっては何の意味もありません。たとえ相手がどんな人間であっても、もう救えないと判断したら──」


 エルゼが神妙な顔をしたのを見て、俺は笑った。


「お前やっぱ俺のこと分かってないな」


「え?」


「誰があんな姿で最期を迎えるってんだ。死装束がアレは嫌だ」


 確固たる意志であった。


 というかそもそも、あの恰好で死んだら俺だと認識してもらえないんじゃないだろうか。認識されても困るが、身元不明の死体が転がるというのもかなり問題だろう。


「あ、あんな姿って…でもまぁ、それならいいんですが…」


 少し落ち込んだような顔をしつつも、納得はしてくれた模様。


 この間気になったことに関しては今の会話でだいたい分かったし、それ以外にもいろいろと収穫はあった。


 それでだ。今更でもあるんだろうが、前々から気になっていたことがある。


「で、エルゼ、”アレ”はどうやって確認するの?」


「アレ?アレって何ですか?」


「いやだから、レベルとかステータスとかそういうの」


「?」


「今まで敵倒してきたわけじゃん?てことはもうそろそろ結構レベルも上がってると思うんだけど…どうやって確認するの?」


「は?何がですか?」


 前々から思っていたことだ。


 魔法とかを使えるようになったんだからそういうのがあってもおかしくないだろうと。


 ただこれまでレベルが上がった感じなんて一切しなかったし、能力が上がったっていう実感もなかった。魔力が体に馴染んだことで戦いやすくなったりはしているのだろうけど、もう少し目に見える形で実感できた方がいいと、そう考えていたのだが、このエルゼの反応を見るに……


「え、ないの?」


「えっと…ゲームとかのアレですか?そんなものありませんけど…」


「えぇ…なんでないの?醍醐味じゃないの?レベルアップとともに能力が上がったりとかさぁ!新しいスキルを手に入れたりとかさぁ!そういう楽しみみたいなものはないの!?ロマンじゃん!!」


 ロマンというか、せめてそれくらいはあってもいいんじゃないかと、ただでさえあの格好なだけに思う。


「能力…は戦っているうちに力の扱い方などに慣れていけば実感もあると思いますが…スキル…ですか?」


「そう!魔法とかの威力が上がったり、敵の攻撃を軽減したり、受けた傷を自動で治癒したり!なんかそういう──」


「あぁ、そういう感じのならもう既に付いてますよ?」


「──へ?あんの?」


「力を与えたあの日、どさくさのおまけとして颯くんが苦労しないように色々魔法をかけたんですよ。まぁ、スキル?とは違いますけどねぇ」


 本人の知らぬ間に魔法をかけておいたという情報が今になって判明し、驚きも喜びもできずただ呆然とした。今更聞いた俺もアレだが、そういうことは先に言っておくべきことじゃないのか…?何で聞かないとこういう情報が出てこないんだ……?


「魔法ってどういう魔法?」


「状態異常の無効化とか精神異常の無効化、魔力効率の最大化に全ての魔法に対する軽減や身体能力の向上、それから運気上昇、健康促進、美肌効果…まぁその他色々ですかね」


「なんか温泉の効能みたいなの混ざってたけど…マジか、マジかよ」


 そんな便利な魔法があるのか。俺の使える魔法一覧にはなかったが、そういう魔法もあるなら使いたいな。


「精霊特有の補助魔法です。颯くんが扱えるものではないですねぇ」


 そんな心情を読んだのか、先回りで否定された。悔しい、悔しいけど使えないならしょうがない。エルゼが俺に魔法を使えるようにしたのは、地球を救うとかそう言うことが目的なわけで、俺の生活の利便さがどうとかというのは目的ではない訳だ。そんな、戦闘に役に立たない魔法を与える意味は無いというのは、俺からしてもただただ当然の話である。


 ただ、こうして色々言葉を交わして思った事、というのがある。


 それは別に今日ここで、この会話を交わしたことで今に始まったことではなく、前々から思っていたことではあったのだが。


 それは、エルゼという生物ついて。精霊というものが生物に分類されるのかは不明だが。


 なんとなく、地球を救うという名目で俺を振り回し、その傍らで己の欲望を満たしているだけのように考えていた部分が内心あったのだが、実際こうして戦うようになって初めて、こいつはこいつなりに俺のことを考えていたりもするのだなと、そう感じられて、少し見る目が変わった。


 当然、俺をこんなことに巻き込んであんな姿で戦わせていることの落とし前はキチンと付けて貰うつもりだが、それはそれ、これはこれである。

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