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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
暗躍する者
129/246

魔素

 俺は前に魚人と会った海の近くを歩いていた。


 魚人いないかなぁーって。ルミナスが魚を求めているのだが、それが最近露骨というか顕著というか。


 いい加減見て見ぬ振りもできなくなってきたので、毒のない魚を適当に捕まえてもらい、それを魔法鞄の中に入れておこうと思った次第だ。


 そのついでに、シャクジローの無事を確認出来たら、あのかまぼこも食べやすくなるし。


 ──だったのだが、探しているとなかなか見つからないものである。まぁ、前回の事もあるからな。


 不用意に外に出て置き去りを喰らう可能性を考えれば、もう会えない可能性もあるのだろうか。


 その時はリヴァイアさんに頼んで探してもらうが、しかし、また戦えとか言われても困るし、出来る事なら自力で見つけたい。


「いないよなぁ……」


「そりゃ小石ひっくり返しても出てきませんよ。いや、デカければいいという話でもなくて」


「冗談だよ」


 ホントに冗談だから疑うような視線を向けるな。別に海の底の石をひっくり返したりはしないから。


「ていうか、海には潜れないし」


「あぁ……颯くん。颯くんの身体に入って分かったんですが、颯くんの持つ魔力の総量は僕が予想していたよりずっと多かったんです」


「そ、そう?」


「はい。それも減った傍から回復していくので、一気にドバっと使うようなことでもなければ枯渇することはないと言えるくらいに」


「絶倫ってこと?」


「言い方は気になりますが、まぁそうなります」


「ほう。で?」


「前に魔族たちの身体がどんな風に構成されているかについて話しましたよね?」


「ん?……うん。魔素だっけ?」


「えぇ。あれって生命活動を維持するために使われるんですが、例えば空気の薄い場所なんかでは、魔素が酸素の代わりを務めたりすることも可能なんです」


「え?魔素って身体のパーツみたいなものって言ってなかった?」


「はい。なので生命活動を維持するためのもの、です。そして魔素は必要になれば魔力を変換することで作り出すこともできるんです」


 あ、なんとなく言いたいことが分かった気がする。


「なので颯くんが海に潜ろうと思えば、呼吸自体は魔力を魔素に変換することで補えます。もちろん効率は悪いですが」


「海の中でも活動できるってこと?」


「はい。ただ、魔力が切れると呼吸が出来なくなって死にます」


「こっわ。いや、潜るつもりもないけど」


「それならそれでいいんですが、もしもの時の為に、また今度魔素を体内で作りだす方法については──そうですね、道すがら教えましょうか。そこまで難しい話でもないので」


「あ、それは助かる」


 そんな会話がなされ、魔素変換の講義が始まった。


 曰く、体内で魔力を細かく分裂させていくだけでいいのだと。


「どうやるの?」


「そのままです。体内の魔力を細かーく分けていくんです」


「……?…………?」


 俺は体内の魔力を操作し、ああでもないこうでもないと、魔素を作ろうと頑張ってはみた。


 しかしなかなか上手くいかないそれを見かねてか、エルゼが助け船を出した。


「コツをつかむまでは体外に放出して練習するのがいいかもしれません。イメージはおにぎりです」


「おにぎり?」


「はい。おにぎりが魔力そのものだと思ってください。そうした時、それを構成する米粒が魔素になります。細かく分けていくというのはつまり、そのおにぎりから米粒を外していくようなものです」


「結構大変じゃない?お米って粘着力あるし」


「いや……イメージの話です。それを脳内でイメージしながら、魔力を操作しなおしてみてください」


「こうか……?いや、違う……んん」


 そうして練習を始めた。説明するのは簡単らしいが、出来るようになるかは本人次第だと言われたので、しばらくは意識して練習をしなくてはならないらしい。


 こんなことも、姉さんなら簡単にやってのけるのだろうか。あの人のセンスって本当に化物じみているというか、化物そのものなんだよな。


 そんな講義が終わるころ、多分このまま1日かけても見つからなさそうだと、俺はもう既に魚人探しは止めていた。


 なので今は売店で買ったチョコミント味のラテを片手に、ただ坂を上がっていた。


 右手には海と、辺りを岩壁に囲まれた小さな砂浜を眼下に見た。


「東尋坊的な感じかな。誰か突き落とされてそう」


「やめてくださいよいきなり。颯くんがそういうこと言うと……あ?」


 いつものように突っ込もうとしたエルゼが、途中で黙って何かを見始めた。


「どうした?」


「あれ、あそこの崖際見てくださいよ。人がいます」


 そのままでは見えなかったので、魔力を込めて目を凝らした。


 すると、白衣を着た医者のような男と、車椅子に座った少女が崖の方にいた。


「病人かな」


 一応落下防止のフェンスはあるが、何をしでかすか分からない。


「警察か?」


 スマホを出して構えると、エルゼに止められた。


「流石にまだそうと決まったわけではないんですから。まずは何をしているのか見に行きましょう」


 そう言われるとそうかもしれない。お巡りさんも暇ってわけじゃないだろうからな、魔物とかのせいで。


 もしもの事が起こっても大丈夫なように、なるべく早く、気が付かれないように近付いていく。


 こうしていると自分が忍者にでもなったような気がして少し楽しい。


 ……少しだ。こうやって気配を消すことができるようになった原因については、未だに納得いっていない。


 それに最近、少し思うことがあるのだ。


 それは魔界としてそうなのかは知らないが、個人主義的な魔族が多いような気がするということ。


 世界をああしたい!こうしたい!みたいなやる気のある奴がいない。


 それこそ、「自分の趣味を魔界じゃ満たせませんでしたので地球にお邪魔します」みたいな舐めた奴が多すぎる。


 そんな奴は野放しにしたところで俺の仕事を代わってはくれないだろうし、殺すしかないのだが、それが残念でならない。あんまり物騒なのが来ても困るが、もう少し骨のある奴をよこして欲しいものだ。


 で、今は目の前に集中。


 何かよくわからない石碑のようなものに身を隠した俺は、その会話を盗み聞く。


 おぉ……なんかスパイみたいな感じ?


 今の気分はジェームズ・ボ────


 △▼△▼△▼△▼△


 死を望む少女がいた。


 彼女には光が無い。いつか巻き込まれた事故の所為で、視力を失ったのだ。


 かつては動き回るのが好きだった彼女だったが、それ以来めっきり、活力を失っていた。


 今は盲目でも歩けるよう訓練をしなくてはならず、それ故に病院にいるのだが、それさえやる気力を失ってしまっていた。


 彼女を担当することになった医者も、初めこそは彼女を元気づけ何とかしようと頑張っていたものの、口を開けば死にたいとしか言わない彼女に嫌気がさしたのか、もう励ますようなことは言わなくなった。


 それでも言えば大体の事は手伝ってくれる。それでいつものように、病院からは少し離れた海のよく見える崖に来ていた。


 潮風が鼻孔をくすぐる。しかし、それと同時に泣きたくなる。


 彼女は昔から、ここから見える景色が好きだった。


 フェンス越しに見た青い海が。それを輝かせる眩い太陽が。髪をべたつかせるこの風が。


 でも今となってはそんな景色を見ることは叶わない。


 唯一感じられる風と、それに乗った匂いが、そんな景色を思い起こさせるのが精一杯だった。


 そんな景色が脳裏によみがえるたび、彼女は泣きたくなる。だから今は、この場所が嫌いだった。


 それでも来てしまうのが、自分でも分からない。


 きっとここを死に場所にしたいのだろう。


 あの景色を完全に忘れてしまい、思い起こすことさえできなくなる前に、好きだったというこの感情が完全に消えてなくなってしまう前に、この崖から落ちて死にたかった。


 何度もこの医者に頼んだ。ここで死なせてほしいと。


 当然、医者は拒んだ。曰く、死にたければ自分で死ね。だそうだ。


 死にたいと願う彼女には、それでいて死ぬ勇気がなかった。だから殺してほしかった。


 もちろん、それではその相手を犯罪者にしてしまうだけだということも理解はしていたが、若くして光を閉ざされ、この先一生真っ暗闇を歩んでいかなければならないという事実を前にして、そんなことを考えている余裕もなかった。


 だから今日も彼女は請う。


「──殺して」


 と。


 答えは知っている。


「死にたいなら自分で勝手に死ね。手首でも切断すれば死ねるだろ」


 いつもとは違うが、大体こんな感じで断られる。医者のセリフとは思えないが、彼をこうしてしまったのは自分だと、内心反省もしている。


 この後は黙って波の音を聞き、元居た籠の中に戻るのがいつも通りの流れだった。


 しかし、その日は違った。


 近くにいた別の誰かが声を張り上げたのだ。


「お前それでも──!」


 自分と同じか、あるいは少し歳下くらいのその声の持ち主は、こちら目掛けて進んでくる。


 その足音で分かった。これは怒っている人の足音だと。


 そして一定の距離まで来て止まると、言い争いを始めた。


 自分が言ったことが原因だと申し訳なくも感じたが、それ以上に不思議な感じがした。


 そう思って何も言わずにいると、自分をここまで連れてきた医者は自分を置いてどこかへ行ってしまった。


「…………え?」


 △▼△▼△▼△▼△


 何で出てきちゃったかなぁ……言い争いをしながら思った。


 医者かどうかも分からなかったが、会話の流れとしてそうだろうと勝手に認識し、その口から出た言葉になぜか強い怒りを感じて飛び出してきてしまった。


 これはあれだ、精神にエルゼが混ざったせいだ。でなきゃここで俺が出てくる理由はない。


 俺はただ、事件的なことが起きなければそれでよかったハズなのだ。


 だというのに、飛び出してしまった。


 ボーっとしてたから相対的にエルゼの方の精神が強く出てきたのか?


 どっちでもいいが、振り上げた拳はそう簡単に下ろせない。


「何だいきなり……こいつが死にたいというから死に方を教えてやっただけだろう」


「医者が死に方教えてどうするんだ。人を生かすのがあんたの仕事じゃないのか」


「死にたがる奴をどう生かせと?」


「そりゃ病人の言うことだろ。そんなもん真に受けてどうするんだよ」


「こいつはリハビリを受けているだけだ。いや、受けてないけどな」


 リハビリを受けることもせず、ここに来たいと言ったのだという。


「こちらが頑張れと言えば死にたいと言う。すこし甘やかせば死にたいと言う。親の励ましに死にたいと返した。こんな者をどうやって生かせと?」


「…………」


「こいつは患者だとしても子供じゃない。不貞腐れてぐちぐち言ってれば何かが変わるのか?」


「治すのは何も病そのものだけじゃないだろ。それに俺と同じくらいだし」


「はっ。十分大人だ。それに俺はカウンセラーじゃない」


「だとしても言い方があるだろ」


「……だったら、お前がこいつの面倒でも見てみろ。どうせ俺と同じことを言う」


「え?」


 そう言ってスタスタと、どこかへ歩き去ってしまった。車椅子に座ったままの彼女を置いて。


「えぇ……?」

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