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法事

「法事ですか…僕には無縁の行事ですねぇ」


「そりゃ死なないお前たちにはそうだろうな。あるとしても誕生日くらいのもんか?」


「いや、精霊には誕生日なんて概念もありませんよ。あの星は時間感覚も殆どありませんし、永遠を生きる精霊が歳を取ることを祝う意味なんてありませんよ」


「えぇ……精霊って生きてて楽しいの?」


「ここだけ聞いたらとんでもない暴言ですね……まぁ、楽しくはありますよ?時間も無限なのでやれることは多いです。ただ圧倒的にやることがありません」


「ふぅん……」


「なので僕みたいな若い精霊はみんな外の世界に興味を持ちがちなんですよ。特務救世士を目指す精霊の9割はそんな感じです」


「お前若いんだ……いくつなの?」


「さっきも言った通り誕生日という概念が無いので大体ですが……560歳とか、それくらいでしたかね」


「ぶふっ……!560!?」


「あ、人間の感覚で言うならまだ颯くんとそんなに変わりませんよ。そもそも暦も違いますし、宇宙として遠く離れすぎているので、果たして正確なのかも分かりません」


「それはそれでどうなの……?無駄に歳重ねすぎじゃない?」


「そうですねぇ……実際誕生してから500年ほどの時間はほぼ無為に過ごしてましたからね。それなりに楽しく過ごしていたとは思うんですけど……今思うと何が楽しかったんでしょうかね、アレ」


「いや知らないけど……」


 そう言って会話が終わると、俺は窓の外を眺める。


 窓の外には次々に風景がスクロールされていく。そのほとんどが変わり映えのしない緑と電柱だが、この風景は結構好きだ。


 俺達は今、新幹線に乗っていた。


 父方の親戚、御厨家の集まりにへと向かうためだ。今は亡きばあちゃんの家訓として、1年に1度は一族を集めて顔を合わせさせるべきだという話らしい。ここ数年は集まってもいなかったのだが。


 父さんは確か新潟だったかの生まれだと言っていたが、集まるのは関西、兵庫県である。


「兵庫県って何があるんでしょうか?」


「え…?明石焼きとか神戸牛とかじゃない?なんか、あんまり食のイメージないな。粉物はなんとなく大阪な感じするし」


「明石焼き…!神戸牛…!良い響きです!」


「神戸牛は食べれないよ」


「な、なんでですか!?」


「その土地に居ればそこにあるもの全部食えると思ってる?いくらすると思ってんのアレ」


「なら明石焼きだけでも食べて帰ります!」


「親戚がいるのって甲子園の辺りじゃなかった?」


 隣で話を聞いていた姉さんが訊いた。そういえばそうだっけ。


「んなっ…!?明石じゃない…!」


 脳内の地図と照らし合わせたのか、その表情を壮絶なものに変えている。


「颯くん。途中で抜け出せたりとかしないんでしょうか」


「えぇ……感じ悪くない?集まり抜け出してどっか行きますって」


「颯くんそう言うの気にするタマでしたか?」


「流石に身内は気にするわ。てか俺の事なんだと思ってんの」


「でも実際、私達はほとんどやることもないし、退屈だと思うわよ?」


「そうかもしれないけど……」


「颯くんがいないと何も買えないんですから!頼みますよ!」


「ヴェルザみたいに人間乗っ取って買わせるとかじゃダメなの?」


「また流華さんと戦うことになりますよ。流華さんというより、リラとですが」


「流華先輩か……あの家なら神戸牛も普通に出てくるのかな」


「……んなぁっ!?…………颯くん、やっぱり戦いましょう。リラを始末したいです」


「やらないよ」


 そうして俺達は新幹線での時間を過ごしていった。


 △▼△▼△▼△▼△


「やっと着いた……」


「やっぱり私達は飛んだ方が速かったわね」


「親の手前そういうわけにもいかないし、仕方ないでしょ」


「どうかしたのか?早く行くぞ~」


「いいや、何でもない。今行く」


 駅を降りた俺たちは、しばらく歩いた先にある家へと向かう。


 荷物がそれなりにあったこと、駅からそこまで遠いわけでなかったことから、歩いたほうがいいという話になった。バスに乗っても荷物が邪魔だろうし。


「デカいんだろうけど……」


「なんか霞むわね…」


「?」


 着いた先にあったのは、それなりに大きな木造の一軒家。日本的な家屋というよりは、和洋折衷な雰囲気の家だった。


 この間の旅行さえなければ、素直にデカいと言ったのだろうか。


「おぅ!来たな!」


「兄貴!久しぶりだな……3年振りだったか?」


 玄関先で俺たちを待っていたのは父さんの兄。だから俺の伯父だ。3年前のばあちゃんの葬儀でも会っているのだが、会うたびに初対面な感じがする。親戚ってそういうものなのだろうか。


 違うな、俺が人の顔を覚えないからだ。


 ばあちゃんが亡くなって以降は色々ごたついていたということもあり集まる機会もなかったのだが、皆それぞれ落ち着いたということで、今回こうして集まることとなった。


 その命日に合わせて。


 母さんや俺たちも挨拶を済ませると、早速家へと上がった。


 障子だったり襖だったりドアだったりと、部屋によって入り口が違う。窓際の廊下を歩いて行き、その途中にあった障子の貼られた部屋に案内された。


 荷物を置き、来る途中に買って飲み干したジュースの空き缶を捨てようとゴミ箱を探していると、後ろから声をかけられた。


「待てや」


「あ?」


 肩を掴まれ振り返ると、何かよく分からん男がアホ面下げて突っ立っていた。ツンツンとした短髪で、背格好は俺と同じくらい。傑ほどではないにしても多少は筋肉がついているからか、少し俺よりも大きく見えた。


 しかし、こんな奴は知らない。


「誰……?」


「誰って──自分、忘れたん!?」


「忘れたも何も……知らないと思う」


「俺やって!前もこうして会うたやんか!」


 必死に思い出させようと絡んでくる謎の男。通報しても良いかな。


「……もう思い出せないから早く名乗って欲しいんだけど」


「噓やろ……俺は億斗、御厨 億斗や!」


「へぇ……奇遇。俺も御厨って苗字なんだけど」


「……いや、そら当たり前やろ…従兄弟やぞ」


「へぇ……従兄弟……」


「いや、だから!前にも会うとるって!」


 そう言われて必死に記憶を辿っていく。最後に会ったとしたら、3年程前まで遡ることになる。


 俺が中学1年の頃、その年の7月ごろから危篤だったばあちゃんが、8月の半ばに他界した。


 それから葬儀に行ったが、どこか他人事の様に感じていたのを覚えている。


 しかし、その記憶に出てくる人間の顔が、姉さん以外親含めて全然はっきりしない。目の前で思い出してもらおうとしているこの男には悪いが、俺はこんな奴、やはり知らないのだ。


「なんかキッカケがあれば思い出せるんちゃうかな…」


 などと言って色々試し始めたが、どれもピンとこない。


 ただ、そのうちの1つが鍵になったのか、だんだんと思い出せてきた。


「もしかして……葬儀場で決闘挑んできたバカ?」


「…っ!ぐっ……そ、そう……や……」


 …………変わりすぎやしないだろうか。


 前に会ったあのバカな奴は、俺よりもずっと小さかった気がするのだが。


「そらアンタはこの3年でえらい大きなったんやから、颯君が分からんでもしゃーないやろ」


 驚いていると、今度は横から声をかけられた。


「あ、唯香さん」


「久しぶりやな、颯君。元気しとった?」


 歩いてきたのは従姉妹の唯香さん。記憶が確かなら、姉さんより1個上の大学生のはず。あのちっちゃいバカが決闘をしかけてきた時も、それを横から拳骨かまして止めてくれた人だ。


「おい、ちょっと待てや」


「……?」


 色々と記憶が蘇ってきたので思い返して感傷に浸っていると、億斗が低く震える様な声を出した。


「何で姉貴の事覚えとるくせに俺の事忘れとんねん!おかしいやろが!」


「今言うたん聞いてへんかったん?姿形が変わりすぎて分からへんのやって」


 俺が戸惑っていると、宥める様に助け舟を出してくれた。やっぱりこの人いい人だ。


「いや、それでも納得いかへん。颯!俺と決闘しろ!」


「え、嫌だ」


 殺しちゃうし。


「そ、即答!?何でやねん!逃げんなや!」


「するメリットがない」


「それでも受けるもんやろ!男やないんか!」


「まず決闘って何すんの。法律で禁止されてるはずだけど」


「えっ……そうなん……?」


 億斗が唯香さんの方を見ると、せやでと頷いて見せた。そのせいでどうすればいいのか分からなくなってしまっているが、決闘なぞするまでもなく力の差を見せつける方法はある。


「ねぇ、空き缶ってどこに捨てればいいの?」


 持っていた空き缶を片手で握り潰し、小さく纏めていく。


「……へ?あ、あぁ……そこの、ゴミ箱に……」


 完全に怯えた様な表情でゴミ箱を指差す億斗。


「ありがと」


 完全に魔力を得たことによるドーピングの賜物だが、こんな力でも俺の力の一部みたいなものだ。潔く退いてくれてよかった。


「3年の間に変わりすぎやろ2人とも…」


「………唯香さん?」


「ん?んーん。何でもないよ。……アレやな、男子三日会わざれば刮目して見よっちゅうヤツやな」


 3日じゃなくて3年だけど、それだけ開けば性格も変わるわな。

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