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幕間 沖縄旅行

 私は阿波 七海。


 生徒会で会計をしている1年生です。


 それ以外に何か言うことありましたっけ、私。


 あったのかもしれないし、無かったのかもしれないけど、どちらにせよ忘れちゃった。


 ……………………さて。


 今日私が来ているのは、白百合先輩のお宅──これ家なのかな?


 目の前に広がる馬鹿みたいに広い空間を見て啞然とします。


 白百合先輩は空港に棲んでるのかもしれない。ターミナルです。


 あぁいや、先輩の家が物凄いお金持ちなのはずっと前から知っています。


 色んな事業に手を出しては成功させていく天才的な人物が社長をやっていると聞きました。実際にどんな事業を手掛けているのかは、あまり知らないのですけど。


 でもただ一つハッキリとしているのは、私みたいな普通の人間では到底入社などできないような、とにかく凄い会社だということです。


 ロゴの色合いを見ただけでこの会社だって分かるくらい、日本に住んでいる人間なら誰でも──いや、もしかしたら世界中の人が知っているのではないでしょうか。まぁ、海外の事情はあまり知りませんけど。


 多分私も常日頃お世話になってる会社だと思います。上場とかもしてると思いますし。


 だからその、なんというか、気圧されます。


 なのでか、誰に話しているわけでもないのに丁寧語が抜けません。株でしょうか。


「待ち合わせはここでいいんだよね……違ってたらどうしよう……」


「違いませんよ。ちゃんとここで合ってますから」


「わぁっ!?」


「ふふっ、すみません七海さん。驚かせてしまいましたね」


「あ、いえ…大丈夫です…!」


「それに、もし違ってたら……こちらから迎えを出すだけですから」


 先輩がいつも通りでちょっと落ち着いたというか、私も冷静になれた気がする。


 先輩の格好は……あれ?


「私が選んだ服じゃない……」


「……ぁ、あれは七海さんが折角選んでくれた服ですから!他の人には見せたくなくて。お部屋で着させてもらうことにしたんです」


 取り繕うように、美咲は説明した。


「そうなんですか?」


「そうですよ」


 何だろう、責めてるように聞こえちゃったのかな。


 でも、人が自分の選んだ服を着てくれるというのは嬉しいと、つい頬が緩んだ。


「な、七海さん…七海さんの恰好もいいですね!可愛いです!」


 先輩が私の服を見て褒めてくれた。


 前に服屋であった時に見てはいるはずなんだけど、何も悪い気はしない。


「ありがとうございます!」


 七海が礼を言うと、美咲はその手を取って歩き始める。七海は少し緊張した。それが空を飛ぶからか、この場所に対するものか、それは分からなかったが。


「七海さん、行きましょうか!」


 2人で広い空間を歩いていると、巨大な飛行機が姿を現した。


「え…これに乗っていくんですか……?」


 七海は声を絞り出すように訊いた。


 プライベートジェットと聞いて、もう少し小さいものを想像していたからだ。


「はい!もしかして……小さかったですか?担当者には最上級のモノを用意するよう伝えたはずなのですが……」


 先輩の目が険しくなったのを見て、慌てて訂正した。


「ち、違いますから!大きすぎてビックリしただけですから…!大丈夫です…!」


 近くにいた人のうちの何人かがほっとしたような顔をしていたので、これで大丈夫だと思う。多分。


 係の人間に荷物を渡すと、美咲のエスコートで飛行機に乗り込む。


 内装はほぼ部屋、普通に部屋、生活できる。そのレベル。


 もちろん、窓を覗けば外の様子も見えるのだけど、そこに目を向けなければ、本当に豪華な部屋をそのままそこに置いたような感じだった。


 内部をキョロキョロと見回す。


 何あのデカいモニター、何このフカフカのソファ、何その高そうなライト。


 今まで画面越しでしか見たことのなかったその光景に、自分が興奮しているのを自覚した。


「写真撮ってもいいですか…?」


「はい…!いいですよ?」


 そう頼むと、先輩は右手で小さくピースした。


「ん…?あ、すみません先輩、飛行機の中の事なんですけど…」


 間違いに気が付き訂正すると、先輩は一瞬で顔を紅潮させ、その手をゆっくりと下ろした。


「…………七海さん…見ないでください……」


 当然、そんな先輩が可愛かったので激写した。


 普段恥ずかしがる姿をそう見ないので、この写真は私のコレクションの中でもかなりのレア物として君臨することになると思う。


「な、七海さん!?け、消してください!後生ですから!」


「嫌です!」


 抗議され、その結果として何故か2ショットを取ることに。


 いや、こちらとしては全然ウェルカムなんだけど。


 そうしているうちに時間は過ぎ、しばらくして離陸となった。


 空の旅とは思えないほど快適で、私は当初抱えていた空を飛ぶことへの恐怖心のようなものはすっかり忘れていた。


 ──無論、そうなるように仕組んだ美咲の配慮に気が付くことはなく。


 △▼△▼△▼△▼△


「……さん…!七海さん!」


 いつの間に眠ってしまっていたのだろう、遠くから聞こえてきた声に閉じられた目をピクリと動かした。


 ゆっくりとその目を開けると、自分の身体を控えめに揺らす先輩の姿が。


「七海さん!着きましたよ!」


 上体を起こすと、今までベッドに横になっていたことに気が付いた。


 先輩が運んでくれたのかな…?そんなわけないか。係の人が運んでくれたんだよね、きっと。


「…………?」


 そんなことを考えてクスリと笑うと、美咲はそれを見て不思議そうな顔をした。


「七海さん!」


「な、なんですか…?」


 少しぼーっとしていると、先輩の顔が意を決したようなものになった。


 その表情に若干の緊張を覚えたものの、恐る恐る聞き返す。


「お、おはようございます…!」


 言葉に詰まった。


 今の表情は何だったの……?


 先輩が偶に変なのは知ってるけど、そんな表情から出る言葉かな。


 でも──とりあえず。


「おはようございます!」


 笑顔でそう返した。


 必要な物以外は既に宿泊場所に送り届けているとのことで、早速出歩くことになった。


 飛行機が着陸したのは、海沿いの広大な敷地の一角。


 ここも私有地なのかなぁ……


 私はそんなことを考えながら、先輩に目を向けた。太陽が──間違えた、先輩の横顔が、太陽の光を受けてキラキラと、輝いていた。


「七海さん!風が気持ちいいですよ!」


 先輩は両手を広げて風を浴び始めた。


 夏の日差しに照らされた笑顔は、それだけで1つの芸術作品の様で。そんな姿に私は思わず見惚れてしまった。


「そうですね…」


 私も先輩と同じようにして風を浴びた。


 少し潮風の混じったその風は、その間を吹き抜けていく。


 昼食にはまだ少し早い時間で、先輩が辺りを見て回ろうと提案してきたこともあって、断る理由などなく、私は頷いた。


 先輩が歩きだすと、その少し後ろにくっつくようにして、私も歩きだした。


「七海さん!南国っぽい木です!」


「あはは…本当ですね」


「七海さん!デカい虫がいます!」


「ひぃっ…!む、無理です…」


「七海さん!サーターアンダギーが売ってます!行きましょう!」


「おぉ…美味しいですね…!」


「な、七海さん……」


「な、なんですか……?」


「七海さん…!人が飛んでます!」


「あはは……え?」


 先輩と歩いて回っていると、海の上を人が飛んでいるのが見えた。


 2人は立ち止ってその方向に目を向ける。


「…………ん?」


 黒っぽい、可憐な衣装の…男の子?


 彼は海上を飛び回り、見たことのないような生物を、聞くに堪えない罵詈雑言と叫び声を上げながら追いかけ回していた。


 あの声、どこかで聞いたことのあるような──いや、気のせいか。


 時折光を放っては、水飛沫が巨大な水柱となる。空を薙ぎ、海を割るような衝撃波が少し離れたこちらにまでしっかりと届いた。


「あれは…」


「先輩…?」


「前に一度見たことがあるんです。前に見たのは向こうででしたけどね」


 美咲は先程までの雰囲気とは一転、神妙な面持ちで話し始めた。


「どこからか現れる化物を狩ってるって人ですか?」


 聞いたことがあった。街に化物が現れると、それを潰すための人間が出てくると。その人間、とは言ってもとんでもない力を操るとか聞いたこともあったし、本当に人間なのかはわからないけど。


 私は幸運にも、実際に会ったことは──まだない。


 会わなくて済むのなら、それがいい。だってそれは、そういう状況に追い込まれたってことなわけだし。


「はい。でも、気になって調べてみても何1つ情報が出てこないんです。我が家の総力を上げさせて分かったのが、加賀浜によく現れるということだけ。不思議な人です」


 もう既にどこかへと飛び去っていたみたいだけど、先輩は海の方をじっと見つめていた。


「あれだけ派手に暴れる人がいて、写真や映像の1つも出てこないなんて……」


「気になるんですか?」


「普段、情報は欲しいと思えば手に入るのが普通だったので。分からないのが怖いんです、私」


 先輩は振り向いてそう言った。


 立ち止まり続けるわけにもいかず、歩き始めた。


 普段明るく振舞う先輩もこんな顔をするんだ……って、そう思うと、今までどこか高く、憧れでしかなかった先輩の姿が──


 ──途端に近付いたように見えた。


 私はは少し足を速め、その横に並んだ。


「七海さん!沖縄そばのお店です!行きましょう!」


「あはは…」


 建物を指を差し、私の腕を取って小走りになる先輩を見て、元から近かったことを思い出した。


 △▼△▼△▼△▼△


「待てやゴルァッ!!!よくも日本列島3周もさせやがったなこのクソったれがァッ!!」


「キャァッ、ハァァァァァァァァーーー!!」


「だぁぁぁ!!止まれっつってんだろうがぁぁぁぁっっ!!!!」


「ヒィィィィィハァァァァァァ!!!!」


「大根おろしで顔面ズッタズタになるまで磨り下ろしてやっからなぁぁぁ!!」


「ビェェヤァァァァァァァッッ!!!」


「スターライト・レイィィィィィィィッッッ!!!!」


「ビグギャァァァァァァァアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!」


「ああああああああああああああああっ!!!一撃で死ねよこの死にぞこないがッ!!屍晒して犬の餌にしてやっからなぁぁぁ!!」


「颯くん……」


「何だぁぁッ!!!??」


「──あ、いえ、頑張ってください……」


 七海と美咲を見かけ、それを教えようとしたエルゼであったが、流石に今はタイミングが違うと、それを引っ込めた。


 その魔族は何とか国境を越える前に殺処分することに成功したのだった──。

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