9.家族といるために諦めなかったお父さんを、私が諦めることはない。絶対お父さんを連れて帰るから、お父さんは、帰ることを諦めないでほしい。
年をとらない?
「お父さんは、不老不死?」
「分からない。今のところは、不老だけど、この先は、周りに同じ経験をした人がいなくてね。
死なないのかどうかも、分からないかな。
死にたい気持ちはないから、試してもいない。」
とお父さん。
死ねるかどうかは、試さなくていいよ、お父さん。
不老でも、不死でも、お父さんは、お父さんなんだから。
私のお父さんという自信を持って、お父さん。
「家族と一緒にいるために諦めなかった成果が、家族を諦めないといけなくなるって、おかしい。
騙されていない?」
「騙されていたんだとしても、もう戻れないんだよ、きーちゃん。」
とお父さんは、寂しそう。
「私は、絶対諦めない。」
「きーちゃん?」
とお父さん。
「私は、お父さんを諦めない、絶対に。」
私は、繰り返した。
絶対は、使っていいんだよ。
医療じゃないから。
「きーちゃん。」
とお父さんは、眩しそうに私を見ている。
太陽はもう沈んだのにね。
「家族のために諦めなかったお父さんを私が諦めることはないからね、お父さん。」
「きーちゃん。」
とお父さん。
お父さん、迷っているの?
私は、お父さんを迷わせない。
「お父さんは、お医者さんから、何を言われているの?
私に理解させるようにって、お医者さんは、私に何を理解させたいの?」
「お父さんときーちゃんが、一緒に生きられない、ということだよ。」
とお父さんは悲しそう。
お父さん、悲しいことを言われて受け入れてしまうから、悲しくなるんだよ。
「私と一緒に生きられないなんて、私は、二度とお父さんに言わせたくない。」
「きーちゃん。」
とお父さん。
「私は、お父さんと生きることを諦めない。」
「きーちゃん。ありがとう、きーちゃん。」
とお父さんの目には、涙が。
「お父さん。今のは、私の決意表明。満足するには早い。」
「きーちゃん。きーちゃんは、どうしたい?」
とお父さん。
いつものお父さんだ。
私のよく知るお父さんは、いつも、私の気持ちを聞いてくれた。
「お父さん。お医者さんが、お父さんに、家族と暮らしたらいけない、と言った理由は、お父さんが、変わらないから、だけ?」
「きーちゃん。」
とお父さんは眉を下げた。
変わらないって、何が問題?
若さを維持するための努力こそが正義な世の中だよ。
「変わらないお父さんと一緒に暮らしたい。
私が、そう言ったら?
お医者さんは、お父さんが家族と暮らすことを反対する理由はなくなるよね?」
「きーちゃん。」
とお父さん。
お父さんは迷っている。
私を説得するか、私に賛同するか。
「お父さん。私と家に帰ろう。
私が、お医者さんに話す。何回でも話す。
今日は、もう時間がないけど。
明日でも。明後日でも。」
私は、お父さんといるために、お父さんの背中を全力で押すから。
「きーちゃん。」
とお父さん。
あと、一押し。
「お父さん。
お父さんから私を諦めるのは、もうなしだからね。
お父さんは、もう二度と諦めないで。」
「きーちゃん。」
とお父さんは、嬉しそう。
私のお父さんだもん。
お父さんは、家族が大好き。
お父さん、大好きなものを諦めてどうするの?
「お父さんが諦めなかったら、お父さんと私の二人で頑張れる。
お父さんが諦めるなら、私はお父さんの分も、一人で頑張らないといけなくなる。
私が、二人分頑張ることになるんだよ。
二人分頑張るなんて、お父さん、私に頑張らせ過ぎだと思わない?」
私は、お父さんに、また明日会う約束をして別れた。
今日は、振り返っても、後ろからくる人はいなかった。
今日こそは、お母さんと妹に、お父さんの話を伝えよう。
お父さんが、家に帰れないなんて、絶対におかしい。
だって、お父さんは、私のヒーローなんだから。
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。