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53/57

53.頭を握りつぶしたがる医者は、医者の家族が住んでいた家へ、透けた体で現れた。食後の娘夫婦がいて。現れた医者を見た娘は。

医者の失踪は、誰にも騒がれなかった。


失踪する少し前から、医者は、セラピストの予約を入れていなかった。


きっと、医者は、自身の未来を予想していた。


自分自身の限界がきていて、セラピストとして、患者に全力を尽くせなくなる前に、自ら、廃業したんだと思う。


私は、大きな口に、医者と医者の家族を見に行ってもらった。


医者は、まず、家族と住んでいた家に帰っていった。


妻の姿はなく、娘夫婦が住んでいた。


『食事は済んだのか。何を食べた?』


食後の娘夫婦は、頭の先から足の先まで、透けてはいるけれど、生前の姿そのままの医者が現れて、飛び上がらんばかりに驚いた。


『『何?幽霊?話している?』』


娘は腰を抜かしていた。


『お父さんだよ。ずっと会いたくてたまらなかった。これからは一緒だ。』


医者は、透けた体で、自身の見た目よりも、はるかに年老いた娘の頭を撫でた。


『お義父さんですか?』

と持ち直した娘婿。


娘婿から、医者の妻が老健で元気にしている、と聞いた医者は、娘夫婦に妻の元まで、案内させることにした。


医者の娘は、復活するなり、医者に塩を投げつけてきた。


医者は、食べ物で遊ぶな、と娘を叱った。


『悪霊、退散!』

と娘は言いながら、お守りやらをかざし始めた。


医者は周りを見て、娘に笑いかける。

『悪霊は、どこにもいない。

安心したいなら、持ち歩くといいだろう。』


医者は、娘夫婦の運転する車に乗って、妻に会いにいった。


老健の受付から、老健の中を歩いて、妻のいる部屋に向かう途中。


医者は、透けたまま、職員や、他の利用者に挨拶しまくった。


医者の姿が認識できるのは、自分達だけだと思っていた娘夫婦は、固まっていたけれど、途中から、なるようになれ、と悟ったらしい。


医者は、透けているけれど、誰にでも見える。


声も聞こえる。


医者の魂は、医者が触ろうという意思を持って誰かに触れた場合のみ、触られた側に、触られた感触が残る仕様だと、大きな口は説明してくれた。


大きな口によれば、医者へのサービスだそう。


『303にいる者の夫です。お世話になっています。

僕が迎えに来るまで、妻の面倒をよろしくお願いします。』

と医者は言って、頭を下げる。


『僕は、透けていて、妻のお世話を焼けないので、皆様の手がとてもありがたいのです。』


透けた医者は、老健内で愛想を振りまいた。


老健にいた妻は、ぼんやりしていた。


医者は、妻の頬を何度かつねって起こす。


『僕の寿命が来たら、迎えにくるから、それまで頑張れ。』


医者は、にこにこと笑いながら、妻の頬を掴んでいる状態で話しかけたとき。


医者の妻の意識は、急激に覚醒し、叫んで、ベッドから逃げ出そうとして、落下防止の柵に阻まれた。


『はうわあ。来たあ。』

と叫ぶ医者の妻。


医者は、満足そうに微笑んだ。


『来たよ。これからも来るよ。寿命が来るまで、楽しく過ごそう。


僕は、寿命まで娘夫婦の家に住むから、これからは、いつでも会いたいときに会えるようになった。』


医者の妻は、助けて、死にたくない、と叫んだ。


娘夫婦は、医者が一緒に住む、と聞いて、ぎょっとした。


『お義父さんは、思い残したことがあるから、出てきたんじゃないんですか?』

と娘婿。


『僕の余生は、家族と過ごすと決めている。

息子のところにも案内してほしい。

家族のいるところには、どこにでもいく。』


医者は、にこやかに返事をして、その日は、娘夫婦の車に乗って、老健から娘夫婦の家に帰った。


娘夫婦の家に着いてから、医者は、娘夫婦にたくさん話しかけて、娘婿との会話を楽しんだらしい。


魂だけになった医者に、肉体の疲労はない。


医者がにこにこしながら、娘夫婦について回るので、落ち着かなくなった娘は、もういや、と叫んで寝てしまった。


翌日の朝早く、娘夫婦は、息子夫婦のところに、医者を連れて、特攻した。



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