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51.夫婦としては分かり合えなかった私の帰る家と家族。育っていく我が子と見た目が若いままのお父さん。頭を握りつぶしたがる医者に、限界がきた。

夫は、私が我が子を抱いて家を出るのを止めなかった。


止めていたところで、もう私と夫は、歩み寄りができなかったと思う。


私達は、結婚する前に、徹底的に話し合いをしないといけなかった。


結婚したら、何を大事にしていきたいのか。


結婚しても、譲れないものは何か。


私と夫は、互いを家族として、親になって生きていく話し合いで、相手に譲歩させるやり方しか選べなかった。


どうしても譲れないものが、ぶつかりあった。


好きだからという感情だけで、付き合っている段階で終われていたら、問題がなかった。


でも、家庭を築くには、問題にしかならなかった。


私は、見知らぬ土地にいつまでも立ち尽くしているわけにはいかない、と思った。


赤ちゃんを連れて、どこへ行く?


私は、赤ちゃんを抱っこして、荷物を肩にかけて、新居までの道のりを思い出しながら駅に向かった。


土地勘がなさすぎて、バス停を見つけても、どのバスに乗ればいいのか、さっぱり分からない。


タクシーに乗るほどの現金も手元にはない。


私は、まっすぐに家を目指した。


住み慣れた家に着いて、休んでから、考えようと思った。


家の玄関にたどり着いた私は、呆然としていた。


空き室になっていた。


私が帰ろうとした、出産前まで住んでいた家は、既に夫によって解約されていた。


私は、出産前の家を解約したことも、新居を決めて引っ越ししたことも、夫から何も知らされていなかった。


赤ちゃんのお世話用品は、全部、出産前の部屋に合わせて用意していた。


夫が、赤ちゃん用品の梱包をとかなかったのは、赤ちゃん用品を置く場所を考えていなかったからかもしれない。


いつまでも、外にいるわけにはいかない。


私は、家に電話した。


「今日が退院ね、おめでとう。」

と電話口に出たお母さんに、私は。


「全然、おめでたくないの。」

と言ってしまった。


「何があったの?」

とお母さんに聞かれたけど、私は、何も説明できなかった。


私が言えたのは、ただ。


「私も赤ちゃんも限界なの。私達、帰る家がなくなったの。」


お母さんは、お父さんと一緒に車で迎えに来てくれた。


赤ちゃんは任せて休みなさい、と言って、お母さんは、代わりに動いてくれた。


出かけていた妹は、帰ってきたら、私と赤ちゃんがいて、驚いていた。


「彼とはやっていけない。」

と言う私に。


「お姉ちゃんが、ダメだと言うなら、本当にダメなんだよ。

お姉ちゃんは、懐が深いけれど、お姉ちゃんが苦しくなるまで受け入れなくてもいいんじゃない?」

と妹は軽やかに返し、赤ちゃんの顔を見にいった。


私とお母さんの関係は、私が結婚する頃には改善していた。


私は、お母さん、お父さん、妹に甘えて、産後の体を休ませることにした。


お父さんは、17歳の私が再会したあの日からずっと変わらない。


お父さんは、若い見た目を活かしたり、活かさなかったりする仕事をしていた。


お父さんは、にこにこと、孫の面倒を見ていた。


昔、私がそうしてもらったように。


我が子と色々な遊びをしてくれた。


私と夫は、離婚に向けて話し合いをした。


夫は、離婚に協力的だった。

「俺でなく、親を選んだ実月みつきには失望した。二人でやっていくのは無理だから、離婚には賛成だ。」


私と夫は、結婚して初めて、互いに意見を出し合って、離婚した。


「別れるときは、言いたいことを言うんだな。」

と夫は、私に言った。


「私は、私が好きな人の望みを叶えてあげるのが、楽しかったの。

でも、私が好きなものを私から取り上げる人を好きでい続けて、その人を支えようという気にはなれないの。

私の心が、拒絶しているから、私は、あなたの妻としては生きられない。

あなたが子どもを思っているなら、あなたと私は、子どもの親としてと生きることにしない?」


私が離婚してからは、お父さんお母さんと私で、我が子を育てた。


大きくなった我が子は、結婚して家を出た。


我が子は、成長するにつれて、私のお父さんから、少し距離をおくようになった。


離婚してからも、夫と我が子は、頻繁に会っていた。


私と元夫は、夫婦としては暮らせなかったけれど、親として、二人とも、我が子を幸せにしたいという考えは一致していた。


我が子の幸せのために、私と元夫は、親であることは止めなかった。


元夫は、別の縁があって、再婚した。


私は、再婚しなかった。


結婚は、もうしなくてもいいと思った。


長ずるにつれ、私のお父さんという存在を、我が子なりに考えることがあったんだと思う。


元夫の新しい家庭と、我が子の環境の違いが何であるかを。


『ママは、パパより、お祖父ちゃんを選んだんだよね。

どうして?

お祖父ちゃんが可哀想?

同情?義務?憐憫?洗脳?


ママの気持ちはどれ?


パパは、ママがお家の犠牲になっているから、助け出したかったって言っていた。


ママは、どうして、パパに助けてもらうのを拒否したの?』


私は、我が子の問いに首を振った。


『ママは、ママを攻撃する人じゃなく、ママの味方をしてくれて守ってくれる人といたい。


パパは、ママの味方になる気がなかったと分かったから、ママは別れることにしたの。


ママは、味方を支えたいとは思っても、敵に塩は送らない。


ママを責めて、ママが頼りにしているお祖父ちゃんを悪者にして、自分の気持ちだけが正しいと思っているなら、パパ、そのままでいればいい。


パパは、我が子を味方に引きずり込まないと、自分の心に自信が持てない、とママは理解したよ。


ママは、パパの、パパファーストな心の持ち方に嫌気がさして別れたの。


別れる前も今も、パパが変わっていないなら、ママは、パパと離れてよかったと思う。


パパと別れたことで、ママとパパは、今以上に互いを傷つけ合うことなく、生きてこれたから。』


私が、夫だった人に対する気持ちを詳しく話したときは、我が子も結婚する年齢になっていた。


我が子の中で、結婚する子どもの気持ちも含めて、咀嚼できたみたい。


結婚してからの我が子は、お父さんがいないときに、お母さんと私に会いに、孫をつれて顔を出す。


私の産んだ我が子が、幸せに暮らしているなら、我が子の選択がどんなのでもいい。


我が子にも孫にも、それぞれに心があるから。


私は、一人一人の心の在り方を否定しない。


私の心の在り方を肯定されて、今の私がある。


大きな口にね。


私は、私のしたいことをする。


大きな口と私の関係も変わらない。


医者は、相変わらず、セラピストとして、大きな口と仕事をしている。


私の心は、変わらずに、黒いらしい。


そういう日常が続けばいいと思っていた。


私よりも若く見えるお父さんとの二人暮らしは、明るく穏やかに過ぎていった。


穏やかな気持ちでお父さんと家で過ごす時間を私は大切にしていた。


私とお父さんは、どこをとっても、そのへんの家族でしかなかった。


私とお父さんは、褒められることはしてこなかったけれど、悪いこともしてこなかった。


でも、そうも言っていられなくなった。


お父さんは、最近、外出して帰らない日が増えた。


頭を握りつぶしたがる医者の施術は、全てが永遠に保たれるものではなかったらしい。


お父さんより先に、頭を握り潰したがる医者自身が、限界を迎えた。


お父さんは、創造主の医者の生活の世話や介護のために、家をあける時間が多くなった。


私の心は、十七歳の頃から黒さを極めている。


「大きな口。話があるの。」


私は、行動に移すことにした。

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