47.愛は代用できないの。愛を無償でもらってきた人じゃないと、いらない、迷惑なんて言えないよ。だって、受け取っていないんだもん。
お母さんの不倫相手は、お父さんがいるからか、お父さんが出した条件が魅力的だからか、お母さんに対して高圧的に、別れを迫っている。
「俺とは他人だ。家に帰って家族と暮らせ。」
「私は、あなたと。」
とお母さん。
出番がきた。
「はい、残念。失敗。お父さんが出した条件を理解していない人は、お父さんに慰謝料を払ってね。」
私は、お父さん、お母さん、お母さんの不倫相手に近づいていく。
私の登場に嫌そうな顔をしている人を尻目に。
私は、お母さんに、要望を出した。
何の要望か分かる?
不倫して、私のいないところに行こうとした代償だよ、お母さん。
「お母さん、私はもう十分待ったから、これからの二十年。愛情いっぱいに私を可愛がって。」
「高校生にもなって、実月まで子どもみたいにならないで。
実月は、もう大人になるでしょ。」
とお母さん。
分かっていないよね、お母さん。
「お母さん、私は、高校生になったからこそ、行動できたの。
くーちゃんの次に、と順番待ちをしていても、私の順番は来なかった。
これからは、私が順番待ちしなくてもいいようにするから。
いつも私が一番だよ。」
「高校生にもなって、親に構われたくなんかないでしょ。親の存在がうるさくなる年頃よ。」
とお母さんは、うるさそう。
「お母さんは、愛を無償でもらってきたから、愛情が迷惑だとか、愛情がうるさいからいらない、と言えるんだよ。
私は、愛をもらえるのを待って、待って、今まで、待ち続けたよ。
私は、欲しくて欲しくて、渇いたまま、十七歳になった。
もう待たないよ。
私は、待っていてももらえない。
だからね。
私が愛をもらえるように変えるの。
変わってね、お母さん。」
「お父さんがいるじゃない。」
とお母さん。
私は、グズグズと泣き出したくなる心を慰める。
根本的なところが、分かり合えていないよね。
愛は、代用できないんだよ、お母さん。
「お父さんは、お父さん。お父さんとお母さんは違うよ。
お父さんは、お母さんの代わりにはならないよ。」
「お父さんじゃ不満だったの?」
と聞いてくる妹は、愛が欲しくて泣いたことがない。
「お父さんの愛を疑ったことはないよ。お父さんと私の絆に、私が不満を抱えたこともない。
私は、お母さんの愛がほしいの。
お母さんに愛されたいの。
なんで、お父さんがいるから、お母さんに愛されることを私は諦めないといけないの?
なんで、お父さんが私を構っているから、お母さんが私を構わなくてもよくなるの?
全然良くない。
一つもよくない。
私は、お父さんからも、お母さんからも、愛されたいの、可愛がられたいの。
くーちゃんは、お母さんに構われていたけど、お父さんに構われていなかったわけじゃなかった。
お父さんは、私にもくーちゃんにも、お母さんにも、誠実で優しかったよ。
くーちゃんが、お母さんにわがままを言って、お父さんにヒドい態度をとれたのは、お母さんに甘やかされて、お父さんに愛されているという確信があったからだよ。
お父さんにも、お母さんにも、見捨てられない、嫌われないって、くーちゃんは、分かっていたから、自分勝手に振る舞えた。
私だって、くーちゃんを見限っていなかった。
くーちゃんがどれだけ、情けない姿をさらしても、傍若無人に振る舞って、私を傷つけても。
私は、くーちゃんを妹だと認識して、家族の中から省こうとはしなかった。
じゃあ、私はどうだった?
お父さんは、私を見ていてくれたよ。
私を愛してくれたよ、お父さんはね。
お父さんだけはね。
お母さんとくーちゃんは?
私には、お父さんだけ。
くーちゃんは、家族の中で一人だけ、お父さん、お母さん、私の家族三人分の愛情を十五年間注がれてきた。
家族の中で、お父さん一人の愛情しか確認できない私のことを、三人分の愛情を余すことなく注がれてきたくーちゃんは、どんな風に扱ってきたか、忘れていないよね?
くーちゃん、これから十五年は、私の妹として、家族でいるんだよ。
絶対に逃さない。
くーちゃんは、十五年経ったら、三十路だね。」
私はね。
後回しにされているんだ、と思ったの。
妹がいるから。
だから。
順番がくるのを待つことにした。
じっと行儀よく待っていたら、きっと私の順番がまわってくると思った。
ずっと、一人で、何も言わずに待っていたら、誰も気づがなかった。
私が、順番待ちしていたことに。
だから、私は、私の家族を、私に一番愛情を注ぐ家族に変えることにした。
今日から、私の家族は、生まれ変わるんだよ。
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