40.お母さんと電話中。子どもは、勝手に育つというなら?妹は何を見て学習してコピーしていったんだと思う?お母さん。
私とお母さんは、電話中。
「夫婦のことを実月が勝手に決めない。」
とお母さん。
「夫婦の問題は、お父さんとお母さんが話し合えばいいの。
私は、家族の話をしているから。
お母さんは、私の家族だから、私の行かない場所になんて行かないでね。
お母さんにはお家にいて、私を可愛がってほしいの。」
私、お母さんに、私の思いを口に出して伝えるのは初めてだよね?
聞いたよね、お母さん。
「高校生にもなって、何を言い出すの。」
とお母さんは、呆れている。
違うよ。
高校生になったから、言えるようになったんだよ、お母さん。
ずっと言いたかったけれど、今まで、言えなかったの。
伝えなくても、分かってもらえる、と思っていたから。
伝えていいのかも、分からなかったから。
やっと、伝えられた。
大人に言葉にして気持ちを伝えるのは、勇気がいるの。
大事にしてほしい、と望む相手であれば、あるほど。
今日、私の気持ちを伝えたからには、もう、ないものにはしないでね。
私の気持ちは、私の中にいつもあって、私は一人でなだめてきた。
でも、一人でなだめ続けるのを当たり前にしたくないの。
自分は変えられるけれど、他人は変えられないと諦めて、自分を誤魔化して生きたくないの。
他人は変えられないから、自分が変わらないと、本心から思える?
本音は、変わってほしいよね、他人に。
私は、自分の気持ちを否定しない。
我慢して、自分を変える生き方をしたい?
私のお母さんは、赤の他人じゃなくて、家族だもん。
赤の他人を変えるのは難しいかもしれない。
お母さんは、赤の他人じゃないから、変わってくれるよね?
私の望むように、ね?
「ねえ、お母さん。今日からは、毎日家に帰って、家族に時間をくれるよね?」
「実月、さっきから何なの。」
とお母さんは、苛々。
「お母さんの家族は、だあれ?」
「何を言いたいの?」
とお母さん。
「お母さんが一緒に生活したい人を確認しているの。
お母さんは、誰と暮らしたいの?」
ほら、チャンスだよ、お母さん。
「実月。いい加減にしなさい。」
とお母さん。
お母さんは、私に正解を聞いてからじゃないと、正解にたどり着くのが、難しいんだね。
「お母さんは、私と暮らしたいんだね。他の誰でもなく、私と。
お母さんが一緒に暮らしたいのは、お父さんでも、くーちゃんでもなかったんだね。」
お母さん、私の言いたいこと、聞いていたよね?
私の聞きたい返事、分かるよね?
「実月は、わざと言っているわね?」
とお母さんは、ため息をついた。
「何なの、あの、くるみちゃんの可哀想で可愛い子アピールは?
いつになったら、くるみちゃんは、実月みたいに自立するの。
姉妹なのに、段違いに手がかかるわ。」
とお母さん。
不倫相手に、引き合わせようとして失敗した中学生の娘の愚痴をこぼすわけにはいかないもんね。
しっかり者の姉娘の私なら聞いてくれると思っているんだよね?
私には、安心して話せるよね?
ね、お母さん?
「お母さんは、くーちゃんを自立させたくないんだと思っていたよ。」
「そんなわけないでしょ。いつまで手をかけなくちゃいけないの。」
とお母さんの本音がぽろり。
「くーちゃんを飼い殺しにして、ずっと、くーちゃんと二人で生きるつもりじゃなかったの?」
「止めてよ。中学生になっても、お母さん、お母さん、と。
いつになったら、お母さんから離れるの。
私が中学生のときは、そんなんじゃなかったわ。」
とお母さんは、くーちゃんへの不満を漏らした。
分かっていないね、お母さん。
「小学生は、中学生になって、次は高校生だよ、お母さん。
いつまでも、小さくて、お母さんの意のままに動くくーちゃんはいない。
くーちゃんにも、意思があるもん。
今のくーちゃんは、お母さんだけを見ているよ。
お母さんが、くーちゃんに余所見をさせなかったからじゃないの?
昔のくーちゃんは、今ほど、お母さん一辺倒じゃなかったから。」
「悪いのは、くるみちゃんじゃなく、お母さんだって実月は言いたいの?
くるみちゃんが、今みたいになるなんて、想像していなかったわよ。
キビキビ動き回って、お友達とも楽しく走り回っていたのに。
壁際でじっとしている実月とは違って、くるみちゃんは積極的だったわ。」
とお母さん。
お母さんは、妹の今の姿が受け付けないんだね?
「くーちゃんが、キビキビ動き回って、お友達と楽しく走り回っていたのは、お母さんの見ている場所だけじゃなかった?
お母さんの見ていない場所でのくーちゃんが、どうだったか知らないの?
お母さんといない時間の方が少なかったけれど、お母さんといない時間も、くーちゃんにはあったよ?
お母さんは、なんにも知らないの?
お母さんのいないときのくーちゃんの様子。
お母さんは、誰からも聞いたことがないの?」
「実月は、何が言いたいの?」
とお母さんの声がとがる。
「くーちゃんが屈託ない子どもだったのは、お母さんがいるときだけ。
私が大人といると、くーちゃんは大人の注意を自分だけに引き付けようとするから、私の周りにいた大人からは、不評だったよ。
私の周りにいた大人は、私の知り合いだから、くーちゃんは私に遠慮するものなのに、くーちゃんより私が構われている現象が、くーちゃんには我慢できないんだもん。」
お母さんは、電話の向こうで静かになった。
お母さんは、知らなかったんだよね。
お母さんは、くーちゃんと一緒で、くーちゃんについて話ができるほど親しい人が周りにはいなかった。
貪欲な欲しがり屋の妹とは争わずに、全てにおいてほどほどの距離を保つことが、家庭で平和に暮らすための処世術だったんだよ、お母さん。
「くーちゃんは、お母さんとくーちゃんが私にしていたことをそのまま、お母さんがいない場所でも、繰り返していた。
くーちゃんは、自分の思考や言動がおかしなことだと思っていなかったから、周りからおかしな子ども扱いされていたよ。」
「子どもなんて、勝手に学習して、大きくなるものじゃない。」
とお母さん。
「勝手に学習して大きくなったには違いないよ。
くーちゃんは、家族の中で一番長い時間一緒にいたお母さんの思考と行動をコピーしたんだから。」
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