4.お母さんと妹には、お父さんの話ができなかった。次の日の放課後。公園でお父さんを待っていたら、私の頭を握り潰したがる男の人が。『ヒーローは間に合うかな?』
昨日。
お父さんを見つけた、と伝えたかったのに、お母さんにも妹にも伝えることができなかった。
私が帰るのがいつもより遅くなって、時間がおしたせいもある。
私が話そうとすると、肝心のお父さんのことを話す前に、別の話に切り替わってしまった。
妹やお母さんの話が始まってしまう。
二人に話すのは、お父さんに話を聞いてからにしよう。
私は、明日を楽しみにしながら、眠った。
怖い人は、お父さんがもう会わないようにしてくれるって、言っていたから、大丈夫。
学校の授業と部活を終えて、お父さんと会える公園へ急ぐ。
早すぎたみたいで、お父さんはまだ来ていなかった。
お父さん。
来てくれるよね?
私は、お父さんと話すベンチに座った。
公園をキョロキョロしていても、お父さんの姿は見えない。
時間、決めておけば良かった。
お父さん、まだかな?
私は、スマホを見ていた。
下を見ていた私の視界に、男モノのスニーカーとデニムのズボンが入ってきた。
誰か、私の前に立っている。
「そこの、ベンチに座っている女子高生。」
昨日のことがあるので、びくびくしながら、私は顔をあげた。
私に声をかけてきたのは、お父さんの見た目より五歳くらい下に見える男の人だった。
その男の人は、私と目が合うと、満足そうに笑った。
顔を見られると嬉しい?
変な人。
また怖い人だったら、嫌だな。
お父さん、早く来て。
「誰かを待っているの?」
とその男の人は聞いてきた。
これが、噂に聞くナンパ?
お父さんとの約束があるから、私はここから動きたくない。
この時間なら、人がいる。
断って変な動きをされたら、助けを求めよう。
「間に合っています。」
と私は、スマホに視線を戻した。
「何が間に合っているのか知らないけれど、誰を待っているの?」
柔らかい話し声なのに、拒否したらダメな気になる。
「私のお父さん。」
全然、関係ない人なのに、私はポロっと話してしまったら。
「お父さん?ふーん?」
と男の人は、つまらなそうにしている。
聞いてきたのは、男の人なのに。
失礼じゃない?
「待っている間、話し相手になってあげる。」
と男の人。
「いりません。」
お父さんが私を見つけられなかったら、どうしてくれるの?
早く、私の前からどいて!
「女子高生は、真正面から、食い気味に断ってくるんだ。」
と男の人。
男の人は、じっと私を見てくる。
男の人が私に向ける視線には、全く温度が感じられない。
多分、この男の人は、私に興味がない。
なぜ、絡んでくるんだろう?
暇だから?
私は、公園の入口にお父さんを見つけた。
私が、お父さんに手を振りかけたとき。
「やっと来た。」
と男の人は言った。
男の人の視線は、真っ直ぐにお父さんを見ている。
「お兄さんの知り合いなんですか?」
私のお父さんと、という言葉を私は飲み込んだ。
個人情報は、知らない人に伝えてはダメ。
お父さんは、急ぎ足でこちらに向かってくる。
この男の人、お父さんの知り合いでも、良くない知り合いだったりする?
私は、ベンチからいつでも、腰を浮かせるように、浅めに座り直した。
「ねえ、女子高生。ヒーローは、遅れてやってくる話を知っている?」
男の人は、笑いながら私の頭に手を乗せてきた。
私は、首を振って、頭に乗った男の人の手を振り落とそうとした。
「暴れない方がいいよ。頭を握り潰されたくなければ?」
男の人は、私の頭の上にない方の手をベンチに伸ばした。
ベキっ。
私は、音がした方に、視線だけを向けた。
ベンチの背もたれの一部が、男の人の握力で、握り潰されていた!
ベンチは、プラスチック製じゃない。
まだ新しい木と金属でできている。
木も金属も、脆くなっていない。
私が視線だけで、ベンチの背もたれの惨状を確認したのを認めた男の人は、ベンチの背もたれを掴んでいた方の手を、私の目の前で、グーパーグーパーしてみせた。
「さあ、女子高生。ヒーローは、間に合うと思う?」
と笑いながら。
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