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38/57

38.姿が見えないのに、お母さんの名前を呼ぶ、お父さんの声が聞こえるよね?幻聴なんかじゃないよ。お母さんを恋しがる私の思いが届く音だよ。

お母さんは、最初、毎夕、妹の帰る時間に顔を出していた。


一週間後には、二日に一回。


二週間後には、一週間に二回。


三週間目に入った今週は、まだ、家に帰ってきていない。


お母さんが完全に家に帰らなくなる前に、決行しないとね。


今朝早くから、お父さんは、私のお願いを聞いてくれている。


お父さんには、一定の場所に留まらずに、お母さんに呼びかけ続けるように伝えてある。


お母さんは、どこにいてもお父さんがお母さんを呼んでいる声を聞く。


お母さんだけじゃなく、他の人にも聞こえるから、幻聴じゃない、と分かっていいよね。


お母さんに、幻聴かどうかを確認する手段はない。


お母さんが、通りすがりの人に、今の聞きました?なんて聞ける内容じゃないもん。


「なる、最初は、家に帰ってきたのに、今週はまだ帰ってきていない。今週は、家に帰って来ないのか?」


「なる、子ども達は、毎日、お母さんの帰りを待っている。」


「なる、僕が気に入らないのが帰らない理由なら、僕の気に入らないところを話してほしい。」


「なる、毎日、少しでも家に帰ってきてほしい。家に帰らないことを普通にしないでくれ。」


お父さんは、お母さんの名前を呼んでから、台詞を言う。


お父さんの声は、お母さんに届いている。


でも、お父さんの姿をお母さんは探し出せない。


一日目、お母さんは、周囲を警戒しながら、不倫相手と合流。


不倫相手と合流してからは、何も起きない。


二日目、お母さんが、不倫相手にいってきます、を言って、仕事に出かけていくと、お父さんの呼びかけが再開する。


お母さんは、顔を引き締め、足早に職場へ向かう。


逃げたい?


ねえ、逃げたいの?


お母さん、逃さないよ。


逃さないからね、お母さん。


お母さんは職場の行き帰りと、不倫相手がいない外出時には、必ず、お父さんが呼びかける声を聞く一週間が過ぎて。


四週間目に入った。


三週間目の一週間、お母さんは、家に一度も戻らなかった。


不倫相手がいない外出中は、お父さんがお母さんに呼びかける声が、どこからともなく聞こえてきて、終わらない。


お母さんの周りにいる人にも聞こえている。


「なる、家に帰ってきてくれ。僕は頼りない夫だけど子どもと待っている。」


四週間目からは、三週間目のメッセージの最後に、新しいメッセージを追加した。


最後のメッセージを初めて聞いたとき、お母さんは、ビクッとした。


お母さんが帰ってこない家にお父さんがいるというメッセージ。


四週間目の最終日。

お母さんは家に帰って来なかったけど、私に連絡してきた。


連絡先が、妹じゃなくて私なのは、お父さん絡みだから。


お父さんと仲良い私なら、お父さんについて、情報を持っている可能性が高い。


お母さんは、よく分かっている。


お母さんは、お母さんに呼びかけるお父さんの声を聞き続いていても、お父さんの姿を確認できていない。


せっかく、疑似再婚生活を楽しんでいるのに、私になんて、連絡したくなかったよね、お母さん。


お母さんが、私に連絡するためには、不倫相手から離れて一人で電話するんだろう、と私は予想していた。


アタリだね、お母さん。


私といっぱいお話しよう。


お母さんの不倫相手は、これから外せないご用事があるからね?

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