34.疑惑も、疑念も、口に出した途端に、真実と比べようがなくなる。一度芽生えると、なかった状態には戻らない。誤解って、建前のためにある言葉?
機嫌悪そうだね、お母さん。
意中の男の人が、隣にいる手前、私を排除したい気持ちはあるけれど、男の人にどう思われるかが気になって、行動を決めかねている?
そうだよね?
私は、お母さんの隙をつくよ。
お母さんは、隣の席の男の人に、高校生の娘を連れて来る話をしていなかった、という、私の認識は間違っていないよね?
「高校生の私じゃなくて、中学生のくーちゃんにお洒落させて、大人の男の人に会わせるのが、この食事会の主旨なんだ?
お母さん、こちらの男の人に中学生のくーちゃんを紹介して、くーちゃんに何をさせようとしているの?
そんな話を聞かされて、中学生のくーちゃんを置いて帰れるわけないよね?」
私は、真面目くさった顔で抗議する。
疑惑、疑念。
生じなければ、とらわれないもの。
一度、芽吹いてしまえば、決して、何もなかった状態には戻れない。
「何を考えているの!
謝りなさい。
あなたの考えているようなことは、あり得ないわ。」
お母さんは、まなじりをけっした後、小声になった。
私のいいたいことが、お母さんに正確に伝わっていて、私は満足。
「誤解をときたい。お母さんと妹さんと一緒に食事をする約束をしただけだ。」
と男の人。
甘いよ?
誤解であると言葉にして説明するだけで、誤解だと納得させることができる、と本当に思っているの?
私のことを、どれだけとんまだと思っているの?
誤解だよ、そうですか、が通用するのは、どちらにも誤解という建前が必要な場合だけ。
私は、建前を必要としていないの。
誤解どころか、曲解であったとしても。
口に出した言葉だけが、残るの。
「会う娘を、しっかり者の高校生の姉の私じゃなく、お母さんの言うことは全部正しいと信じている純粋な中学生のくーちゃんに限定している、というのが、信用ならないです。
私と違って、家族以外の知り合いが少ない中学生のくーちゃんの場合。
お母さんが騒がない限り、問題が発覚しにくいんです。
お母さんが騒ぐときは、中学生のくーちゃんに問題が起きてしまった後です。
問題が起きても、知らんぷりよりはマシですが、くーちゃんに問題が起きないのが一番です。」
私が直球で、問題点を指摘すると、男の人は、険しい顔になった。
そんな指摘は、想定していなかったから、返す言葉に困っているんだよね?
お母さんは、男の人の隣で慌てている。
私が、懸念点を具体的に物申しているからね。
男の人にも、お母さんにも、私が何を想像していたか、正確に伝わっていて何より。
私の真の狙いは、まだ、明かさない。
楽しみにしていてね、お母さん。
「実月、失礼なことを言わないの。
ここは、これから、新しい家族になる人だけでの食事会なの。実月は帰りなさい。」
とお母さん。
お母さん、今、新しい家族って言ったね?
今の発言は、禁句だよ。
「お母さんが、男の人と付き合うのは、否定してこなかったけれど、男の人のために、家庭を犠牲にするのは止めて。」
「実月、言っていいことと悪いことの区別がつけて。いい加減にしなさい。」
とお母さん。
お母さんは、新しい家族なんて作ったらいけないの。
お母さんは、私のお母さんなんだもん。
私の家族は、お父さん、お母さん、妹がいればいいの。
お母さんは、まだ分からないの?
分からないなら、私が分かるまで教えるからね、お母さん。
私を置いては、どこにも行けないということを、お母さんには是非自覚してもらわないと。
私は、お母さんを追いかけ続けるより、お母さんに追いかけてほしいし、待っていてほしい。
お母さんには、一人でどこにも行ってほしくない。
私の見えるところにいて、私と生きようとして。
一生だよ?
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。




