表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/57

33.食事会で波乱を起こすよ。私は、何でもできる長女。何でもできなきゃいけなかったから、何でもできるようになった。どうしてだと思う?

私が男の人の隣に座ったら、お母さんはご機嫌ななめになった。


美月みつき。そこには座らない。」

とお母さん。


お母さん、いつも以上に分かりやすいね。


「お母さんが、こちらの男の人の隣に来るなら、私はくーちゃんと並ぶね。」


私は、お母さんに席を譲って、男の人の向かいの席に座る。


「お母さんの席は、座席の用意がまだみたい。

早くお願いしないと。」


四人がけのテーブルで、男の人の隣だけは、セッティングがされていない。


四人がけのテーブルで、三人分のテーブルセッティングが済んでいる。


本日のお食事会の人数は何人?


この半個室には、私を含めて四人。


一人分の準備が遅れているよね?


テーブルセッティングが済んでいるのは、男の人の席と、男の人の向かい、男の人の斜め向かいの席。


「座るんじゃなく、美月みつきは外に出なさい。」

とお母さんは、席についた私を追い払おうとする。


慌てなくても、大丈夫だよ、お母さん。


「お母さん、焦る必要はないから、落ち着いて。


食べ終わったら、誰でも、店を出るよ。


私とくーちゃんの子ども組は、食事が済んだら、二人で先に席を立つことにして、大人組の二人は席に残って、お話してから帰ってきたら?ね?」


私は、てこでも動かない姿勢を見せる。


妹は、私を見てぎょっとしている。


「何を言いだすの。くるみちゃんは帰りません。」

とお母さん。


お母さんに帰らないと言われて、ほっとする妹。


お母さん、堂々と、そういうことを言っても、いいの?


「お母さん。

私は高校生で、くるみちゃんは中学生。


お母さんは、高校生と中学生の娘に、自分のデート現場を見せたかったの?」


私は、素直に驚いている風を装う。


「そんなわけないでしょう!

今日は、大切な日だから。

実月みつきは、早く帰りなさい。」

とお母さん。


お母さん、私が、どこの誰だか忘れたの?


私は、誰の娘?


私は、誰の姉?


私の家族は、今、どこにいる?


お母さん、私が何歳か、忘れていない?


私は、十七歳だよ。


「お母さんの大切な日だから、今夜は、中学生の子ども連れなの?」


私は、一人で何でもできるよ。


何でもできなきゃいけなかった。


私の居場所を作るために。


私は、私の居場所を自分で作ってきた。


自分で作らないと、私の居場所は、どこにもなかったから。


何もできない私だったら、私の居場所はどこにもなかった。


学校でも、習い事でも、私の居場所があったのは、私が幸運だったからじゃない。


私が何でもできたから、だよ?


お父さんが、仕事に行けないまま、家に引きこもるようになる前から、だよ。


お母さんに、見向きもされなくて、家族の中での位置づけが軽い長女が、人の輪の中に溶け込みたいなら、人より劣っていないだけじゃ足りなかった。


お父さんがいなくなって、妹の学校生活がうまくいかなくなってからは、姉妹なのに妹とは全然似ていない、というアピールポイントが特に重要だった。


長女がお母さんに可愛がられていないのは、ろくでもない妹がいて、妹に手がかかるから。


そういう理由が、私には必要だったんだよ。


私の周りに、私の扱いについて納得できる理由を見せないと、私に問題があるように見えるから。


私には非のないことで、私自身を悪く思われないために、私は頑張ってきたよ。


だから、今の私は、高校生のわりに、何でもできる。


だけど。

何でもできるようになった私を褒める人は、いつも、私が一番褒めてほしい人じゃない。


私は、私が一番褒めてほしい人に褒めてもらったことがない。


私が一番褒めてほしい人は、私が何でもできることを当たり前だと思っているから。


人の思いや願いは、どうして行き違うんだろうね?


私の願いは、いつも一方通行だよ。


いつまで経っても、受け取ってもらえないの。


受け取っても、コートについた花粉みたいに、丁寧に払い落としてしまうよね、どうして?


私の思いを欠片も残さず払い落として、踏んで砕いてきたよね。


私が平気な顔して、一緒に食卓を囲み、一つ屋根の下で暮らしてきたから、それでいいと思っていたの?


そろそろ、気づいてもいい頃だよ。


何でもできるようになったから、私を一人で放置しても大丈夫だということにはならないの。


お母さん、くーちゃん。


実月みつきは、何が言いたいの。」

と聞くお母さんの声は柔らかいけれど、その目は、冷ややかだった。


お母さんは、私が、邪魔なの?

楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ