33.食事会で波乱を起こすよ。私は、何でもできる長女。何でもできなきゃいけなかったから、何でもできるようになった。どうしてだと思う?
私が男の人の隣に座ったら、お母さんはご機嫌ななめになった。
「美月。そこには座らない。」
とお母さん。
お母さん、いつも以上に分かりやすいね。
「お母さんが、こちらの男の人の隣に来るなら、私はくーちゃんと並ぶね。」
私は、お母さんに席を譲って、男の人の向かいの席に座る。
「お母さんの席は、座席の用意がまだみたい。
早くお願いしないと。」
四人がけのテーブルで、男の人の隣だけは、セッティングがされていない。
四人がけのテーブルで、三人分のテーブルセッティングが済んでいる。
本日のお食事会の人数は何人?
この半個室には、私を含めて四人。
一人分の準備が遅れているよね?
テーブルセッティングが済んでいるのは、男の人の席と、男の人の向かい、男の人の斜め向かいの席。
「座るんじゃなく、美月は外に出なさい。」
とお母さんは、席についた私を追い払おうとする。
慌てなくても、大丈夫だよ、お母さん。
「お母さん、焦る必要はないから、落ち着いて。
食べ終わったら、誰でも、店を出るよ。
私とくーちゃんの子ども組は、食事が済んだら、二人で先に席を立つことにして、大人組の二人は席に残って、お話してから帰ってきたら?ね?」
私は、てこでも動かない姿勢を見せる。
妹は、私を見てぎょっとしている。
「何を言いだすの。くるみちゃんは帰りません。」
とお母さん。
お母さんに帰らないと言われて、ほっとする妹。
お母さん、堂々と、そういうことを言っても、いいの?
「お母さん。
私は高校生で、くるみちゃんは中学生。
お母さんは、高校生と中学生の娘に、自分のデート現場を見せたかったの?」
私は、素直に驚いている風を装う。
「そんなわけないでしょう!
今日は、大切な日だから。
実月は、早く帰りなさい。」
とお母さん。
お母さん、私が、どこの誰だか忘れたの?
私は、誰の娘?
私は、誰の姉?
私の家族は、今、どこにいる?
お母さん、私が何歳か、忘れていない?
私は、十七歳だよ。
「お母さんの大切な日だから、今夜は、中学生の子ども連れなの?」
私は、一人で何でもできるよ。
何でもできなきゃいけなかった。
私の居場所を作るために。
私は、私の居場所を自分で作ってきた。
自分で作らないと、私の居場所は、どこにもなかったから。
何もできない私だったら、私の居場所はどこにもなかった。
学校でも、習い事でも、私の居場所があったのは、私が幸運だったからじゃない。
私が何でもできたから、だよ?
お父さんが、仕事に行けないまま、家に引きこもるようになる前から、だよ。
お母さんに、見向きもされなくて、家族の中での位置づけが軽い長女が、人の輪の中に溶け込みたいなら、人より劣っていないだけじゃ足りなかった。
お父さんがいなくなって、妹の学校生活がうまくいかなくなってからは、姉妹なのに妹とは全然似ていない、というアピールポイントが特に重要だった。
長女がお母さんに可愛がられていないのは、ろくでもない妹がいて、妹に手がかかるから。
そういう理由が、私には必要だったんだよ。
私の周りに、私の扱いについて納得できる理由を見せないと、私に問題があるように見えるから。
私には非のないことで、私自身を悪く思われないために、私は頑張ってきたよ。
だから、今の私は、高校生のわりに、何でもできる。
だけど。
何でもできるようになった私を褒める人は、いつも、私が一番褒めてほしい人じゃない。
私は、私が一番褒めてほしい人に褒めてもらったことがない。
私が一番褒めてほしい人は、私が何でもできることを当たり前だと思っているから。
人の思いや願いは、どうして行き違うんだろうね?
私の願いは、いつも一方通行だよ。
いつまで経っても、受け取ってもらえないの。
受け取っても、コートについた花粉みたいに、丁寧に払い落としてしまうよね、どうして?
私の思いを欠片も残さず払い落として、踏んで砕いてきたよね。
私が平気な顔して、一緒に食卓を囲み、一つ屋根の下で暮らしてきたから、それでいいと思っていたの?
そろそろ、気づいてもいい頃だよ。
何でもできるようになったから、私を一人で放置しても大丈夫だということにはならないの。
お母さん、くーちゃん。
「実月は、何が言いたいの。」
と聞くお母さんの声は柔らかいけれど、その目は、冷ややかだった。
お母さんは、私が、邪魔なの?
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。




