31.妹と私。妹の世界と私の世界は、ほとんど重ならなかった。重なるときは、私が一歩退いていた。妹の世界はお母さんと妹で、出来上がっていた。
妹は、毎日、お母さんを意味ありげに見ている。
私の前で、お母さんと妹だけに通じるサインを出している。
妹は、以前のように、お母さんの職場に突撃しなくなった。
理由?
勿論、私は知っている。
妹は、私の家族。
お姉ちゃんは、妹の成長を見守り、妹が過ちをおかすときは、過ちをただすもの。
妹は、お母さんが、色々世話を焼いて、口を出してきたから、世話を焼かれるのが当たり前だと思っている。
お母さんの子どもだから、じゃなく、妹だから、お母さんに世話を焼いてもらえるものだと疑っていない。
同じお母さんの子どもでも、お姉ちゃんの私は、お母さんに世話を焼かれる存在じゃないと妹は思っている。
子どもだから、という理由で、私に世話を焼こうとする人を見ると、妹は不機嫌になる。
「お姉ちゃん。」
と言って、私に世話を焼こうとする人に近づいていき、その人の世話を焼く対象を変えようとする。
お姉ちゃんから、妹へと。
子どもだから、世話を焼こうとした人は、お姉ちゃんの私より年下の妹が来ると妹を構う。
子どもだから、と私に構おうとする人は、妹を構いながら、お姉ちゃんの私にも構おうとしてくれる。
妹にとって、お姉ちゃんの私が構われるということは理解しがたい。
妹の世界で、構われる存在は、妹だけ。
妹は、お母さんと過ごした時間で、私の価値を図ってきた。
妹の習い事が、家族の行事の全てだった時期。
習い事を辞める一年か一年半前くらいからは、特にその傾向が強かった。
私と妹が習い事を辞めて、家にいるようになったときのこと。
私の習い事は、徒歩圏内だったから、習い事で親しくなった子とは、習い事を辞めても、学校が同じだったり、足をのばせば、話をする機会があった。
習い事に割く時間がゼロになった私は、学校での付き合いが増えた。
お母さんには構われない私だったけれど、学校の友達やその兄弟とは仲良くなれた。
学校の友達のお母さんは、私に会うと、声をかけてくれた。
私は、習い事をしない生活の方が楽しいと思っていた。
お父さんは、家の中でジメジメしていた。
浮上したくて、もがいていたんだと思う。
お母さんは、仕事が大変で言葉少なになっていた。
妹は、習い事を辞めて、学校生活がうまくいかなくなった。
妹は、習い事が一番で、習い事のお友達が一番だった。
お母さんと妹は、同じ方向を向いていた。
家族の中で、二人だけ。
お母さんと妹が決めた予定に、お父さんと私が合わせる。
妹の習い事が始まってから、お母さんは、妹の習い事を中心にスケジュールを組んでいた。
私の習い事で、親の出番があるときは、妹の用事でお母さんはこれません、と断るか、お父さんが来ることになっていた。
近所の他の生徒の親伝いで、お母さんが妹にかかりきりだと知った、私の習い事の先生は、私の親に期待しなくなった。
私の親に役割を期待はしなくても、親が静かで何も要求してこない、私自身も問題を起こさないから、習い事を続ける分には問題がなかった。
習い事を辞めることになったとき、引き止められることはなかったけど、後ろ足で砂をかけるような辞め方にはならなかったから、会えば会釈はする。
私の習い事に、お母さんはほぼ関わりがなかった。
私の習い事は、習い事を辞めるときは、子どもではなく、親が来て話すと決まっていた。
妹が習い事を辞めるから、私の習い事も辞めさせると、説明したお母さん。
『ご家庭のお考えがおありでしょうから。』
習い事の先生は、お母さんに理解を示した。
お母さんは、私の習い事の辞める手続きを済ませると、気がかりな妹の元へ先に帰った。
当時、小学四年生の妹のことで、お母さんは、妹の担任の先生とよく電話していた。
習い事のお教室に残された私に、習い事の先生は目を合わせて話してくれた。
『実月さんは、最後まで良い生徒さんでした。
誰かに言われて始めたものでも、毎日の習慣になったら、それは実月さんの財産です。
自慢できます。
実月さん自身で、実月さんの財産を守るようにしていってください。』
私は、私の財産を守るために、自分のことは自分でする、ということを止めなかった。
私が妹に合わせる必要はない、と先生は、私の背中を押してくれた。
今の私の土台となる言葉をかけてくれたのは、お父さんでもなく、お母さんでもない。
数年お世話になった習い事の先生。
家族でない、お月謝で繋がっていた先生の言葉は、習い事を辞めた後も、ふとした瞬間に蘇ってきて、私に道を踏み外させなかった。
妹は、世を恨む人のように学校の中で呪詛のような言葉を撒き散らした。
妹の境遇が哀れだと、同情し、妹の話を親身に聞いてくれる人は、妹の周りにはいなかった。
妹の境遇に哀れみを覚えたのは、妹自身と、妹と二人三脚だったお母さんしかいなかったから。
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