3.絶対に、お父さんだ!お父さんは、私のヒーロー。お母さんと妹に、お父さんにまた会えるって伝えたら、どんな顔をするかな?
お父さんだ、絶対にお父さんだ!
「きーちゃん、危ないから、もう帰りなさい。
この道は、もう使ってはいけないよ。」
と若い姿のお父さんは、私の頭を撫でた。
小学生のときの私とは違う。
私は、もう高校生。
親に言われた通りに家に帰る年齢じゃない。
「お父さんだよね?お父さんも、一緒に帰ろう。」
私は、私の頭を撫でているお父さんの腕をつかんだ。
お父さんは、困ったように私を見下ろしている。
お父さん、私と一緒に帰る気はないの?
私の頭を撫でていた手は、頭の上に乗せられたまま。
逃がしてなるものか!
「お父さん、またいなくなる気じゃないよね!
明日も、明後日も、これからずっと、私と会う約束をしないんだったら、手は離さないから。」
お父さんが帰ってこない、と帰りを待ちながら、帰ってこないことを受け入れていた娘は、もういないから。
見つけたんだから、絶対に離さない。
「きーちゃん。今日は帰りなさい。もう遅いからね。大丈夫。また、明日もお父さんはいるよ。」
「本当に?
もういなくなったりしない?
明日も、同じ公園で会える?」
「会えるよ、きーちゃん。だから、今日はお帰り。
もう夜の時間だ。
怖い人は、もうきーちゃんの近くには現れない。」
豪雨は、ぴたりと止んでいた。
時間を確認する。
帰宅予定より、遅くなっている。
「絶対!絶対だから。」
私は、濡れた道を走って、駅に向かった。
お父さんだ、お父さんだった!
私のお父さんだった。
お父さんかも、と思っていたけど、やっぱりお父さんだった。
どうして若くなったんだろう?
美容整形?
お父さんの変わりたいって、若返りたいっていう意味だった?
私も妹もお母さんも、外に仕事に行ける精神を取り戻したいという意味なんじゃないか、と思っていた。
意外。
お父さんは、見た目から変えたい人だったんだ。
薄暗くなってから公園にいたのは、夜に仕事をしているからって聞いている。
元のお父さんを知っているから、最新技術で若返ったのか、と、私は思った。
見た目は若返ったけれど、お父さんの中身は変わっていなかった。
でも、お母さんに、なんて話そう?
お母さんとお父さんが並んだら、年の離れた姉と弟に見えるかも。
妹は、お父さんについて、私よりも複雑な思いを抱いている。
私は、学校と部活を楽しめたけど、妹は、学校や部活に楽しみを見いだせないタイプだった。
私も妹も習い事を続けたかったけど、お母さんの負担と家計の緊迫から、続けることはできなかった。
大舞台を夢見ていた妹は、強制的に夢を断たれた、と思っていて、今もその思いを引きずっている。
妹の習い事は、家族の応援が不可欠なものだった。
家族の応援というのは、金銭的なものだけじゃなく、お母さんの献身も含まれている。
妹の習い事は、妹の送迎だけじゃなく、お稽古に関して、先生や他の保護者とのやりとりも重要だった。
姉だった私が、自分のことは自分で出来ていたから、お母さんは、妹にかかりきりになれた。
お母さんが妹にかかりきりになる分、お父さんは、妹より私を気にかけるようにしていた。
妹が生まれてから。
姉の私はお父さん、妹はお母さん、の組み合わせが、我が家の普通だった。
妹が、イライラして、お父さんにあたり続けたのは、妹の普通が、あっけなく消えたからかもしれない。
私の普通も消えたわけだけど、私はすぐに順応したから、平気なように見えたのだと思う。
お母さんにも、妹にも。
お父さんは、どうかな?
お父さんは、私には、ごめんね、と言わなかった。
私も、お父さんが謝るのは違うと思っていた。
私とお父さんの間に、荒波はなかった。
妹は、自分の失ったものの大きさを理解されたかったんだろう、と今の私なら、想像できる。
きっと、妹の内側は、昇華できない悔しさで満杯になっていた。
私達は、妹を家族で応援していた。
コンクールは、無理でも、大人になってから趣味で再開したら?と妹に話したことはある。
『趣味にするくらいなら、二度とやらない。練習して極めて、コンクールに出たかった。』
つまらなそうにしている妹が、情熱を注げそうなものはまだない。
お父さんがいたよ、お父さんに会えたよ、お父さんにこれからも会えるかもよ、とお母さんと妹に伝えたら。
二人は、どんな顔をするだろう。
お父さんのことを早く二人に話したい。
びっくりするよね?
私は、そんな風に、ウキウキしながら帰った。
明日も、お父さんに会えるんだ。
怖かったけれど、お父さんが助けてくれた。
お父さんは、いつだって、私のヒーロー。
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