22.妹は、お母さんを追いかける。私は、お父さんに施術した、頭を握り潰したがる医者と話をする。医者について調べたよ。医者はね。
妹は、お母さんとの間に空いた隙間を埋めようとしている。
お母さんから聞きたいことを教えてもらうために、お母さんを見失うまい、として、お母さんを追いかけるようになった。
お母さんは、そんな妹に辟易している。
妹を依存させていたのは、お母さん。
お母さんが、妹の行動を嫌がれば嫌がるほど、妹は不安に苛まれて、お母さんを追い続ける。
いいよ、くーちゃん。
頑張れ、くーちゃん、その調子。
お母さんを逃がしたら、ダメだよ。
お母さんは、私達のお母さんなんだから。
お母さんは、どこにも行かせない。
お母さんが行くところには、皆で一緒についていくからね?
くーちゃんの後ろには、私とお父さんがいるよ、お母さん。
私達のこと、忘れさせたりしないからね、お母さん。
私は、お父さんに頼んで、頭を握り潰したがる医者と会うことにしたの。
「お父さんは、家族と生きるために諦めなかったのに、諦めなかった結果が、家族といれなくなる、なんて詐欺だからね?」
私はのっけから、戦闘態勢。
「家族というものは、今いなくなるか、いずれいなくなるか、いなくなる結末は違わない。」
と頭を握り潰したがる医者。
医者に、お父さんの体について聞いてみたけれど、症例が、医者自身とお父さんしかいない。
医者もお父さんも、自身の心身に興味がなかったから、調べていない。
お父さんの心身の健康を維持する方法は、何も分かっていないの。
医者の心身の変化を見て、その対応をしながら、その反省をお父さんに活かすことにした。
私が大事なのは、私のお父さんだから。
医者に会う前に調べてみた。
医者は、本物の医者だった。
異端の精神科医だと、かつて評判になっていた。
ネットで調べたら、この顔、この人、みたいなので、引っかかった。
何年か前の写真で、仕事をしている様子を写していた。
家族は、妻と子ども二人。
プロフィールには記載がなかったけど、写真を見た人からタレコミされていた。
急に目立ったから、たたかれたのかもね。
ネットの記事には、開業医と書いてある。
無名から突然有名になる場合、持ち上げられてから、評判を落とされるのが、定番コースみたい。
後ろ盾、というのがない人は。
頭を握り潰したがる医者みたいな、市井にいる普通の人を、守ってくれる人はいなかった。
時系列で記事を追うと、噂が作られていく過程を見ることができる。
最初は、悪評がパラパラ。
次第に、悪評とそれを打ち消す良い噂が交互に出てくる。
最終的には、悪評のみになる。
市井にいる普通の人が、短期間で悪評まみれになるなんて、どんな悪者?となったみたい。
当時はね。
私?
私は、思わないよ。
頭を握り潰したがる医者を排除したい誰かが波風を立てた。
お祭りに乗っかった人がいたのか。
仕事で、医者の悪評を流布した人がいたのか。
どっちもいたんだろうね。
頭を握り潰したがる医者は、誰かの頭を握り潰したい、とずっと思い続けている。
ネット上で。
『堕ちた異端』と頭を握り潰したがる医者についての悪評の総集編が出た後。
頭を握り潰したがる医者についての続報はない。
ゼロ。
あの人は、今?
みたいなものもない。
ネット記事にならないようにしている?
ネット上の記事をコントロールするのって、どれくらい可能?
悪評を、そのままにしてあるのは、誰の、何のため?
私は、私の頭を、医者に握り潰させる気はない。
頭を握り潰したがる医者と話をすることは、私の目的を達成するために、意味があるから、私は医者と向き合っている。
「今、医者は、家族と一緒にはいないの?
医者の家族は、今、どうしているの?」
頭を握り潰したがる医者は、憤怒の形相になった。
「家族を調べたのか?」
と頭を握り潰したがる医者。
「人は、人から生まれるんだよ?
医者にも家族がいるよね?
もういない?
いなくなった?」
頭を握り潰したがる医者は、喉の奥で唸り声をあげた。
「語るな、語るな。お前らが、語るようなものは、どこにもない。
奪うな、奪うな。
何者も奪うことなどできなかったはずだ!」
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噂の始まり。