20.変わらないままでいてほしいと願えるのは、その人のことを思い出にして、その先の人生に立ち入らせない、と決めているから。
お母さんのイライラは、日に日に増していく。
お母さんは、妹の言動にイライラさせられていることを妹には言わない。
お母さんは、妹に何も言わない私を呼んで話をするようになった。
私一人を呼ぶお母さん。
妹は呼ばないお母さん。
気づいていないお母さん。
お母さんは、お母さんに呼ばれない妹の顔を見ていない。
私を呼んだお母さんの主張は、一つだけ。
妹に言い聞かせなさい、とお母さんは繰り返す。
最初は、一週間に一回、一分くらいだった呼び出しは、間隔が狭まり、今は毎日になって、呼び出してから解放までの拘束時間も長くなった。
お母さんがイライラしている時間、妹は何をしているんだろうね?
ジリジリしているんだよ。
聞き耳を立てても、聞こえないから。
お母さんは、妹に聞かせないために、私を呼び出している。
妹は、聞きたくて仕方がないんだよ。
今までは、お母さんが進んで、妹に話しを聞かせていた。
妹から、お母さんに話を聞きにきたことはない。
妹はね、お母さん。
お母さんが、私に何を話しているのかを知りたがっている。
私は、話さないよ。
お母さんとの会話の内容を私が妹に話したことなんてないの。
いつも通りじゃなくなったから。
妹は、ジリジリしながら、待っている。
お母さんは、いつ話をしてくれるのか、と妹は待っているよ、お母さん。
お母さんは、いつ気づくんだろう。
ねえ、お母さん。
気付かないままでいたら、どうなると思う?
お母さんの用事で、お母さんに呼び出されるときの私は、何の感慨もない風に対応している。
お母さんに呼び出されているけれど、特に話すことがない私。
でも、お母さんが話したいというから、付き合って、聞いてあげているの。
お母さんにも、妹にも、そういう風に見せている。
見せている、というより、ありのままなんだけどね。
受け入れがたい事実を見せられると、とりあえず否定したくなるのは、人の性?
お母さんは、私を呼びつけておきながら、私の顔を嫌そうに睨んだり、ため息ついたりしている。
「実月、いい加減にしなさいよ。妹に甘えないの。」
とお母さん。
「妹には甘えないで、お母さんに甘えるから、楽しみにしていてね、お母さん。」
「くるみちゃんを何とかしなさい。実月が何も言わないせいよ。」
とお母さん。
「くーちゃんが、何かしたんだ?」
「学校に行かずに、職場に来ているのよ。」
とお母さん。
「お母さんが大好きなんだね。ずっと仲良しだね。お母さんとくーちゃんの仲は、いつまでも変わらないんだね。」
「もう中学生よ。あんなの、どうかしているでしょ。」
とお母さん。
「くーちゃんは、お母さんが育てたように育ってない?育てた甲斐があるよね?」
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