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2.雨の日、怖い思いをした私を助けに、ヒーローが現れた。

その日は、夕方から小雨。

傘をさすのが、億劫に感じた私は、屋根のある道を選んで帰っていた。


表通りから、一本、裏に入った道は、人通りが全くないわけじゃない。


知っている人は使う道。


自分以外の誰が歩いていようと、気にしない道。


その瞬間は、突然やってきた。


私にとっては、不幸で。


私を見ていた人には幸運な偶然。


小雨は、突然、豪雨に変わった。


私は、屋根が破れていない場所で雨宿りをした。


隣に人が来た。


違う屋根の下に行ってほしかった。

足の位置が、体の距離が近い気がする。

私から離れてくれたらいいのに。


隣に来たのは、知らない男の人。


隣にいるのが公園で会っていた、若い頃のお父さんにそっくりの男の人だったらって、期待してしまった。  


突然の豪雨に心配して、公園から追いかけて来てくれたんだったら、雨宿りを言い訳にして、私から話しかけるのにって。


私の隣に来た男の人は、どうして、わざわざ、私の隣に立っているんだろう。


私のいるところ以外にも、屋根のある場所はある。


駅のホームみたいに、二人で並んで待つような場所じゃない。


隣に立つ男の人と視線を合わせないように、私は雨に打たれている道路を見ていた。


早く、雨が止めばいい、と私は切に願った。


突然。

「今日は、ついている。」

と隣にいた男の人が話し始めた。


「いつもの道じゃないし、雨が降っていて暗いから、誰も、通りすがりの顔なんて見ていない。


毎日、暗くなるまで、年上の男と会っている女子高生が、誰といるかなんて、わざわざ詮索しない。」

と隣にいる男の人は話した。


この男の人は、危険!


雨なんて、ドライヤーで乾かせる。


私は、駆け出そうとした。


男の人の方が早かった。


男の人は、話の途中なのに、と言うなり、逃げようとした私の腕をつかみ、首に手を回してきた。


私は、助けを求めて声をあげたけど、私の声は、雨が地面を叩く音にかき消された。


私の首と腕を掴んだ男の人は、どこかへと私を引きずっていこうとする。


私は、掴まれた腕から、腕を引き抜こうとしながら、首に回された手を外そうと頑張った。


ここで、抵抗しなかったら、連れて行かれる!


絶対に良くないことが起こる!


私は抵抗した。


でも、首に回された手が苦しくて、痛くて。


なんで、今日は、豪雨になったの?


傘をさすのを億劫がるんじゃなかった。


折り畳み傘でも、手に持っていたら、武器になったかもしれないのに。


男の人の指の力は、私の指の力より強くて、腕も首も自由にならない。


このまま連れて行かれるなんて嫌なのに、どうにもできないの?


そんな風に思い始めたとき。


豪雨の中、誰かが走ってくる音がした。


「きーちゃん。」


途端に。

私の首と腕にかかっていた力が消えた。


「もう大丈夫だよ、きーちゃん。」


私を連れて行こうとしていた男の人は、屋根のない道路に倒れ、豪雨に打たれている。


男の人は、動いていないかもしれない。


私は、倒れている男の人なんて、どうでもよかった。


私は、首を撫でながら、駆けつけてきてくれた人に呼びかける。


「お父さん、お父さん、お父さんだよね?私のお父さんだよね!」


きーちゃん、という呼び方は、元気だった頃のお父さんが、私を呼ぶときに使っていた。


私の名前は、実月みつき


お母さんは、私を実月みつきと呼んでいる。


お父さんは、私をきーちゃんと呼んでいた。


みーちゃんは、お父さんが昔飼っていた猫の呼び名と同じだから、きーちゃん呼びにしたらしい。


私をきーちゃんと呼ぶのは、お父さんだけ。


私を助けてくれたのは、お父さんだ。


娘のピンチに駆けつけたお父さんだ。


私は、私を助けてくれた人を見上げる。


毎日のように会っている、お父さん似で、お父さんより十歳近く若い容姿の男の人。


豪雨の中、走ってきてくれたであろうその人は、ずぶ濡れになりながら、私の前に立っていた。


「危なかったね。もう大丈夫だよ。きーちゃん。」

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