12.四人家族だけど、二人ずつに分かれていた。四人が、三人になったら、三人で固まれると思っていたの。違ったよ。三人は、二人と一人になった。
「お父さんとは話すことがあるから、帰って来てほしいけれど、明日は急過ぎる。予定を調整するから。」
とお母さん。
「どうして?お父さんが家にいるなら、話すための時間の調整もしやすいよ?」
「実月は、お父さんが大好きね。」
とお母さん。
「お父さんだけじゃないよ。お父さんもお母さんも妹も、私の家族だよ。」
「お父さんと会うための準備がいるから。」
とお母さん。
「布団を干すくらいなら、明日、私が干してから出かけるよ?
ご飯も、多めに作るよ。
なんで、明日お父さんが帰ってきたらダメなの?」
お母さんは、暫く黙っていた。
「実月は、お父さんと暮らしたい?お母さんと暮らしたい?」
とお母さん。
「お父さんともお母さんとも。なんで、お父さんか、お母さんなの?」
「くるみちゃんがお父さんと暮らすのは、無理だと思う。」
とお母さん。
妹の名前は、くるみ。
お母さんは、くるみちゃんと呼ぶ。
お父さんは、くーちゃん、と呼んでいた。
私は、お父さんの影響で、今も、妹をくーちゃんと呼んでいる。
「お母さんは?お母さんもお父さんと一緒に暮らすのは無理なの?」
お母さんは、答えなかった。
「私がお父さんと一緒に暮らしたいと言ったら、お母さんは、私とは暮らさずに、くーちゃんだけと暮らすの?」
「全部の希望は叶えられない。」
とお母さん。
「全部の内訳のうち、くーちゃんの希望は叶えて、私の希望は却下なの?」
「くるみちゃんは、夢を閉ざされたのよ。」
とお母さん。
「閉ざされた夢を引きずり続けている間、くーちゃんは、新しい道へ進む機会を失い続けるよ。」
「期待されていたのよ。本人もやる気で。才能にだって恵まれていた。」
とお母さん。
「応援はしていたよ。
家族で支えなくちゃ叶えられない夢。夢を追いかけるお母さんとくーちゃんは、楽しそうだった。」
当時を思い出すと苦い気持ちになる。
「美月は、妹の習い事で何か言いたいことがあるの?応援していたわよね?」
とお母さんは、眉をひそめる。
応援、応援ね。
妹を応援する以外、私に何ができた?
「お母さんとくーちゃんが楽しい時間を過ごしているとき、私は何をしていた?」
お母さんは、覚えている?
「するべきことをしていたでしょ。」
とお母さん。
していたでしょ、というお母さんは、私に問題が起きなければ、見向きもしない。
私に問題が起きたら、どうなっていた?
妹に費やす時間を減らされて、お母さんはイライラしただろうね。
「私がするべきことを一人でしていた後の時間。
くーちゃんは、お母さんと一緒にするべきことをしていた。」
「くるみちゃんは、実月より小さくて、手がかかって、しなくちゃいけないことがたくさんあった。
当然だわ。
実月には、お父さんがいたでしょ?
お母さんは、妹をみて。
お父さんは、実月をみる。
我が家は、ずっと、そうしてきたでしょ。」
とお母さん。
お母さんの頭の中は、都合よく、時系列を作り変える。
「逆だよ、お母さん。
お父さんが私についていたのは、私が一人だったからだよ。
お母さんは、くーちゃんにつきっきり。
お母さんは、一人でやるようにって、私に言っていた。
私は、一人でできたけど。
私だって、親の助けを必要としていたんだよ。」
お母さんは、私のことをなんだと思っていた?
「私がお母さんを呼んでも、お母さんが私のところにこなくなったのは、いつから?
お母さんと妹と三人で同じ部屋にいても、お母さんが一緒にいるのは、いつも私じゃない。
だから、お父さんは、お母さんの分も、私に構おうとした。
お父さんが私に構うようになってからのお母さんは、堂々と私を見なくなったね。」
お母さん、私は気づいていたよ。
傷ついてもいたよ。
今まで、面と向かって、言わなかったのは、なんでだと思う?
今になって、お母さんに伝えているのはなぜか分かる?
お母さん。
お父さんがいなくなった日から、お母さんが私のことを任せる人はいなくなったんだよ。
私がお母さんに頼ろうとしたら、お母さんは拒否しない。
ただし、私に関することは、最低限度の関わりに抑えようとする。
お母さんも分かっているからだよね。
お父さんがいない今、お母さんが、私と妹を見なくちゃいけなくなったんだってことは。
それでも、お母さんが希望を叶えるのは妹の分だけ?
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