11.お父さんを連れて帰ると告げると、勝手に決めるなと言う妹。妹の気持ちを考えなさい、というお母さん。考えるのは、妹の気持ちだけ?
私がウキウキと報告するのと対照的に、お母さんと妹の反応は悪かった。
驚くこともなく。
喜ぶこともなく。
「へー、そうなんだ。」
と妹。
妹は、心底、どうでもよさそう。
お父さんについて、何も聞いてこない。
「良かったね。」
とお母さん。
お母さん。
良かったねって、私が会えて良かった、という意味?
お父さんについて、お母さんから何も言うことはないの?
元気だったかどうか、気にならないの?
お母さんと妹の反応は、私が予想していたものとあまりにも違っていた。
よく分からないモヤモヤしたものを打ち消したくて、私は明るく言った。
「明日は、私、お父さんと帰ってくるから。
明日から、お父さんと暮らせるよ。
家族四人、また一緒だね。」
お母さんと妹は、動きを止めた。
どうしたの?
嬉しくないの?
お父さんが帰ってくると聞いて。
妹は、わざとらしいため息をついた。
「お姉ちゃん、何を勝手に決めているの?お姉ちゃんだけの家じゃないよね?」
妹からは、お父さんの帰宅を歓迎している様子はうかがえない。
「勝手も、何も。お父さんは、家族だよ。私達のお父さんだよ。元々、四人で一緒に暮らしてきたよね?」
「前は、そうだけど、今は違うじゃん。今さら帰ってきて、家族ヅラされても、何様のつもり、なんだけど。」
「何様って、何を言っているの?お父さんだよ!」
私と妹の口論が始まりかけたとき。
「お父さんは、帰りたいって?
帰ってくるってお父さんが希望しているの?」
とお母さんが、静かに聞いてきた。
「お父さんは、帰れないって言っていた。私が、お父さんに帰ろうって言ったんだよ。」
「じゃあ、帰るのは待ってもらって。」
とお母さん。
お母さん?
「なんで?お父さんに早く帰ってきてほしくないの?」
私は、早く一緒に暮らしたい。
「妹の気持ちを考えてあげなさい。」
とお母さん。
妹は、お母さんの隣で、いつも通り。
ぷつん、と私の中の何かが切れた。
「妹の気持ち?
考えるのは、妹の気持ちだけ?
私達は、家族だよ。
四人いるんだよ?
お母さんの気持ちは?
お父さんと私の気持ちは?
家族の中で考えるのは、妹の気持ちだけ?」
妹は、箸を置くと自室に向かった。
お母さんは、妹が席を立っても何も言わない。
お母さんは、お父さんが家にいるようになってから、食卓で喋らなくなった。
お父さんが家からいなくなってからは、妹と喋るようになった。
私と喋るのは、必要なときだけだよね、お母さん。
お父さんが仕事に行っていたとき。
お母さんは、うるさいくらいに、妹の行儀について指摘しては、直すようにと言っていた。
妹に、うるさいくらいに言わなくなったのは、妹が習い事を辞めてから。
お母さんは、妹が可哀想なの?
妹だけが可哀想なの?
違うよね?
妹が可哀想なら、姉の私も可哀想だよ。
お母さんだって、可哀想だよ。
うちの元祖可哀想は、お父さんだよ。
お父さんは、望んで可哀想になったわけじゃないんだから。
妹とは違う。
妹は、可哀想になろうとしている。
妹は、可哀想にならなくても、生きていけるのに。
だから、私は、妹に言うんだよ。
可哀想に浸るなって。
お母さんが、言わなくなったから。
お母さんは、生きていくことに疲れているよね。
「お父さんは、私達と一緒にいることを諦めないために頑張ったの。」
私は、お母さんに伝えた。
「実月は、お父さんと暮らしたいの?」
とお母さんは、ゆっくりと息を吸って吐いて、した後に聞いてきた。
「私は、四人で暮らしたい。」
「じゃあ。先に、お母さんの話を聞いて。」
とお母さん。
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