10.お父さんがいたの。連れて帰ってきてもいいよね?お父さんの居場所は、我が家だもんね?我が家は、四人家族だもんね?
私は、お母さんと妹にお父さんの話を切り出した。
お父さんが家を出てから、お父さんの話題は、食卓に出ない。
お父さんがいたときの食卓は、妹がお父さんに働いてほしい、と言い、お父さんは、妹にごめんねと繰り返す。
お母さんは、話さない。
私が、妹をたしなめ始めると、お父さんは黙って、私と妹の一騎打ち。
お父さんがいなくなった後の食卓。
いなくなってすぐから。
お母さんは、喋るようになった。
妹も、お父さんをなじる以外で口を開くようになった。
私は、あまり話さなくなった。
お母さんと妹の日常会話を聞いている。
私の日常には、お母さんも妹もあまり感心がないみたい。
妹が話し手のときと違って、会話が弾まない。
へー。
そうなんだ。
良かったね。
大変だったね。
お母さんの返しは、だいたいこの四つ。
妹は、黙っている。
用件を伝えると、お母さんは、定型句ではない、用件に即した答え方になる。
私の話題が途切れると。
妹が話始める。
最初のうちは、妹の話題にのって、私も会話に加わっていた。
私が何かを言うと、妹は、必ず言う。
『そういうの、求めていないから。』
妹は、妹の会話で私が発言すると、私に噛みつくようになった。
『お父さんに八つ当たりできないからって、姉の私に八つ当たりしないで、イライラは自分の中で処理したら?』
私は、発言するたびに、妹に八つ当たりされて、嫌な気分になる。
妹は、お母さんには八つ当たりしないから、八つ当たりは、全部、私にくる。
『お姉ちゃんの意見なんか聞いていないのに、お姉ちゃんが勝手に色々口出してくるから悪いんじゃない。』
と妹は言う。
『お母さんにだけ話したい話なら、お母さんと二人だけでやりとりできるよね?家族で、話せない話題を食卓で出すのを止めたら?』
『お姉ちゃんが、黙っていれば済む話じゃん?いちいち私に突っかからないで。』
と妹。
『最初から、私に聞かせたくない話は、お母さんと二人で済ませておいてよ。』
『なんで、私がお姉ちゃんに気を使わなくちゃいけないの?
お姉ちゃんと話したいとか、ないから。
私とお母さんの邪魔しないで。』
と妹。
『私がいるときに、お母さんと二人だけで話そうとしないで。気分が悪いから止めて。』
『お姉ちゃんにいてほしい、なんて頼んでいない。お姉ちゃんが、黙っていれば済む話なの!私はお母さんと話をしながら食事したいの。』
と妹。
私と妹は、どこまでいっても平行線。
私達姉妹の話を聞いていたお母さんの出した解決策は。
「お母さんと妹、お母さんとお姉ちゃん、の組み合わせで会話すること。」
だった。
お母さんと私の会話は、私が一方的に話すから、すぐ終わる。
最近の食卓の会話は、九割方、妹とお母さんの組み合わせだ。
でも、今日の話題は、お父さん。
三人での会話になる。
食卓での会話が、久しぶりに楽しみになっていた。
「二人とも、聞いて。大事な話をするから。
私、お父さんに会ったよ。
見た目は、すごく若くなっていた。
昔のお父さんそのままだった。」
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。