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経験後

「はぁーっ、はぁーっ」

「お疲れ様。まあ練習って言っても初回だし、そもそもほんの少ししかしてないし、そんなもんだよ」

「あ、ありがと……」


 俺は、グラウンドに汗だくになりながら四つん這いになっている。

 全身が……痛いっ!

 木の枝でぶつけられたのもあるが、何よりテュポーン捕獲戦後に急激に体を動かした事によって、筋肉の繊維が疲労しまくってしまっているのが大きい。

 これは……現実だったら珍しく筋肉痛になりそうだな……。


「あ、一応言っておくけどマスター。多分それ現実に帰ってもなるよ」

「え? でもここは現実じゃないのに……何で……?」

「プラシーボ効果って言ってね……人は心の底から思い込むと、体や脳が勝手に体をそうさせてしまうんだ。例えば、仮に熱くない普通の人肌くらいの暖かさの火があったとする。でも見た目は普通の火のまんま。そこに何も知らされずに頭を突っ込まれたら、熱いっ! って思っちゃうと思わない?」

「思う」

「そういう時、プラシーボ効果が起きて、火傷が顔に出来ちゃったりするんだ」

「えぇ、嘘ぉ!?」

「ほんとだよ。だから、現実に戻っても筋肉痛になっちゃうんじゃないかな? 倦怠感も残るだろうね」

「うわぁ……それやだなぁ……あれ?」


 そしてここで、俺は一つの疑問が頭に浮かんだ。


「ちょっと待って。もしそのプラシーボ効果が本当にちゃんと俺に適応するのだとしたら、現実の俺死んでない? だってあんなに死んでるんだし……」

「あー、良いところを突くね」


 そう言うと【召喚(召喚士)】さんは手を顎に当てて少し唸った。


「うーん、マスターは今生きてるじゃん? 何回かは死んだけど」

「そうだね」

「で、プラシーボ効果は先程も言った通り今まで経験したものから脳がそうなるって確定してしまって起きる言わば暗示的効果な訳なんだよ」

「う……ん?」

「ただ、脳が暗示を受けてそれを神経や細胞に伝えようとした時にはマスターはもう生き返っているから、脳が間違えた! 死んでない! って誤報をすぐさま取りやめる訳」

「……さいぼう?」

「更にはマスターはあの深層にLv15で行ったから生死を分ける戦闘をしてる。それのお陰で脳が死を感じ取る線引きが物凄い引き離される様になってるから、マスターの脳がこれは死んだなっていう情報を体に出すのに遅延が発生して、その結果マスターの現実の体にはプラシーボ効果が起きていない……という事になる」

「…………?」

「よく分からないって顔だね……まあともかく、マスターは死んでないって事! 大丈夫大丈夫!」

「ま、まあそれなら良いんだけど……」

「よし! それじゃあそろそろ帰る時間だし、今日はこのくらいにしようか」

「わ、分かった」


 悲鳴を上げている体を動かし、俺は【召喚(召喚士)】さんの前に立つ。


「それで、どうやったら帰れるの?」

「簡単だよ。現実の世界とこの世界のマスターの状態を同じにするんだ」

「……というと?」

「マスターには寝てもらうって事」

「あーなるほど」


 さっき言ってたプラシーボ効果みたいな感じで体を現実世界と同じ状態にしないといけないのか。


「それじゃ、どこらへんで寝れば良いかな?」

「時間が許す限り好きな所でいいよ」

「あと何分くらいあるの?」

「十分」


 意外と短い……!


「ほらほら、早くやならないと」

「いやまあ……ここで良いよ。硬い所で寝るのは慣れてるし」

「オッケー。じゃあ……おいしょ」


【召喚(召喚士)】さんが何も無い空間から毛布を生み出す。


「ほら、掛けてあげるから寝転がって」

「え!? いや良いよ良いよ!」

「良くない! マスターをこんな所で寝かすのも本来ならありえないのに、そこに毛布すら掛けないなんてスキル失格だよ!」

「…………なら、お言葉に甘えて……」

「はぁーい」


(やっぱりマスター、押しに弱いね。性格を完全にコピーしてるからよーく分かるよ)


「それじゃ、横になってー」


 地面に横になった俺に、毛布が掛けられる。

 あっ、何だこれあったかい……。


「すやぁ……」

「ふふふ、金羊毛(きんようもう)で出来てる毛布はさぞかし気持ち良いだろうね」


 そうして俺は、疲れていたのもあってとんでもない速度で寝てしまうのであった。


 ◾️ ◾️ ◾️


「はっ!」


 目が覚めると、目の前には泊まっている宿の天井があった。

 どうやらちゃんと戻って来れたらしい。


「……ん?」

「すぅー、すぅー」

「すやぁ……」


 何やら体が重かったので見てみると、エリシアとラルムが俺に体の大半を預けてすやすやと眠っていた。


「……心配、掛けちゃたよな」


 疲れた様子で帰って来た筈なのに水を飲んだら突然特訓してくると言って出て行って、帰ってきたらすぐに眠ったのだ。

 エリシア達が心配しないわけない。


「起きたら二人に謝らないとな……」 


 俺はそう思いながら、少しばかり身動ぎする。


「うぉ痛ったぁ……」


 やっぱり【召喚(召喚士)】さんが言ってた様に、スキル世界での筋肉痛はこの現実世界でも起きてしまう様だ。

 まあこれはスキル世界で色々経験出来た代償だとでも思っておこう。


「ともかく、まずは寝よう」


 現実の俺もスキル世界の俺も物凄く疲れたからな。ちゃんと寝て体力を回復しないと。

 そうして、俺は目を閉じた……が。


(……寝れないっ!)


 流石に色々ありすぎて寝れない!

 スキルの世界に行って、そこでスキルを具現化? した【召喚ゴブリン】さんと【召喚(召喚士)】さん達と出会って、最強のモンスターであるテュポーンが脱走してるから捕獲して…………こんなのがあって寝れるわけがないだろ!?


(あと筋肉痛も辛いし!)


 ともかく、今日は物凄い日だった……間違いなく。


「……ルイド様?」

「っ!?」


 おっと、起こしてしまったか?


「あ、あー、おはよう……?」


 こんな深夜におはようと言うのは絶対に間違っているが、ビックリしてしまったので仕方ない。


「お、おはようございます……?」


 向こうも困惑しちゃってるよ! ごめんエリシア!


「た、体調の方はもう優れて……?」

「あぁー、うん。もう凄いバッチリ」


 バッチリ筋肉痛で辛い。


「そうですか……それなら良かった」


 そう言ってエリシアは安堵したように息を吐いた。いや、実際安堵したのだろう。何せ息を吐いたあと俺にかかる体重が重くなったから。

 うおお……押されていたいけど我慢我慢……。


「……ルイド様、本当に大丈夫ですか?」

「本当に大丈夫大丈夫」


 ちょっと呼吸を整えれば、まあ歩けるくらいにはなるだろう。そういうのは深層で学んできたつもりだ。


「そうだ、今日はごめんね」

「何がでしょうか?」

「ほら、俺が宿に帰ってきたらすぐに水を飲んで心配してくれてる君達をよそに外に出て特訓して、帰ってきたらすぐ寝ちゃっただろ? そのことについて謝りたかったんだ」

「いえいえそんな! どうかお気になさらないで下さい!」

「いいや、これに関してはちゃんと謝らないと。ごめん、エリシア」

「ぁ……ぅ……わ、分かりました……」


 そう言ってエリシアは少し体を身じろぎさせた。

 うーん……ちょっと半ば無理やり過ぎたか……? でも、こういうのはちゃんと謝れるタイミングの時に謝っときたいからなぁ……。

 

「そ、それじゃあ、そろそろ寝ようかエリシア。もう夜も遅いし」

「そ、そうですね! おやすみなさいませ、ルイド様」

「おやすみ、エリシア」


 俺は逃げる様にそう言って目を閉じ、今度こそちゃんと眠りについたのであった。



◾️ ◾️ ◾️



 翌朝。何というか全く疲れが抜けきっていないのは絶対に気のせいじゃない。というかむしろ悪化している。

 まあそれもそうだろう。Lvが47063になってていくら体が頑丈になったからとは言え、全身重度の筋肉痛の状態で二人の女性の体重約半分を一晩上に乗っけていたのだ。さすがに辛い。

 ……あ、いやまあ、二人の体重は羽のように軽いけどね?


「おはようございます、ルイド様」


 ふと、横からそう声をかけられた。


「あぁ、おはよう」


 ……そういえば、エリシアとラルムも、あのスキルの世界から来たんだよな……。なんかそう考えると、エリシア達が物凄く強いのにも納得だ。

 何せ、【召喚(召喚士)】さん達っていうとんでもなく強い人達に色々教えてもらってたわけだし。神話級モンスターと毎日触れ合っっていたんだと思うし。


「? どうかされましたか?」

「いや、なんでもないよ。ラルムは?」

「ラルムなら、珍しく早起きして今はトイレの中でお着替えをしています」

「えっ、まだどこかに行くと決めた訳でもないのに着替えてくれてるの?」

「はい。『せっかく早起き出来たんだから、ルイド様がどこかにいかれる際にはすぐに行ける様に準備しておかないと!』って言っていましたよ」

「ちょっ、エリシア〜! 言わないで下さいよぉ〜! ルイド様を驚かせたかったのにー!」


 そう、エリシアの言っていた通りトイレの中から講義する声が聞こえてくる。


「うふふ、ごめんなさーい」


 そう言って全く反省する気はなさそうなエリシア。手を口に当ててくすくすと笑っている。


(ラルム……そう思ってくれたのか……)


 やはり昨日のあの一件でラルムにも随分心配をかけてしまっていたらしい。後でちゃんと謝らないと。


「それでルイド様。今日は何をするのでしょうか?」

「うーん……何をしようか……」


 冒険者ギルドに行っても良いが、ぶっちゃけ昨日やったばかりだし……。

 というか、そもそも俺達もう王様に会ってその後にあったあの爆発事件の捜査とかにも昨日まで協力してちゃんと終わらせたし、そろそろ元いた国に帰っても良いよな……。

 ……いや、あの爆発事件の時に俺を殺そうとした人の事が気になる。



――――速いな……だが、速いだけだ。



「……」


 それにもう、あんな事を言われた俺じゃないってのを、もう一度見せつけてやりたい。


「ルイド様、お待たせしました」


 トイレから出てきて、いつもよりビシッとするラルム。


「……ラルムもここまで気合を入れて外出の準備をしてくれた訳だし、今日は商店街の方にでも行こうか」


 この間アリスさんにショッピングに連れてけって言われたしね!


「「っ……! はい!」」


 そうして、俺らは身支度をして商店街へと歩いて行くのであった。


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