トライアンドエラー
「っはぁ……っはぁ……」
あれから、何回か死んだ。
周囲2kmの物を全て破壊しているのを見たからテュポーンの強さは分かったと思っていたが、全く分かっていなかった。
ぶっちゃけ、テュポーンの素の力はあれの比にならないくらいヤバく、油断していた隙に殺されてしまった。
「マスター、大丈夫?」
「まだ大丈夫だ。それよりも、あと何分で捕獲準備が出来る?」
「あと……三分くらいだね」
「あと三分……」
まだそんなにあるのか。
やるしかない。やるしかないんだけど……
「ふぅー……」
既に腰から抜いていた短剣を握り締める。
(怖い)
その言葉が、久しぶりに脳裏をよぎった。
相手は神に等しい力を持ったモンスター、そんな奴からあと三分間引き寄せなくてはならない。
しかも、これまでの時間逃げきれたのは、【召喚(召喚士)】の人達が沢山いたからだ。
だが、今はもう殆どいない。大半が動けなくなる様な重傷を負ってしまった。
こんな時の【召喚】だと思ったが、どうやらこの『スキル達の世界』でスキルを使う事は出来ないそうだ。
【召喚(召喚士)】さん曰く、スキルを発動してもそのスキルの効果を発動してくれる人達は今この世界にいるから、誰も応えられなくて発動できないという事らしい。
(行けるか……?)
やるしかない、というのは分かるが、気持ちだけではどうにもならない。
「大丈夫だよマスター」
そう思ったその時、先程から俺の横でずっと戦ってくれていた【召喚(召喚士)】さんがそう言った。
「何が何でも俺らがマスターを守るから」
「え、あ、ありがとう……」
これ以上俺が死ぬと精神がヤバいと判断したのか、はたまた素でそう言ってしまったのかは分からないが、今はただ本当にありがたい限りだ。
「それじゃあもう一回行こうマスター。ここにいたら三分なんて時間テュポーンを引き付けられないからね」
「分かった」
握りしめすぎていた力を抜き、受け流しやすいくらいの力にする。
「よし、ゴー!」
その掛け声と同時に俺らは地面を駆ける。
他の【召喚(召喚士)】さん達が何とか耐えている間に入り込み、引きつけ役を交代する。
「あの構えは……マスター! 受け流しの準備!」
すぐに短剣の腹をテュポーン側に向け、直後迫ってきた岩々を受け流して行く。
「くぅっ!」
だが、ただの岩でもされど岩。
そのとんでもない質量のそれが高速で接近してくるのを受け流すと、その衝撃が少しだけ手に伝わる。
「大丈夫マスター!?」
「ちょっと、手が痺れて来た……!」
「変わろうか!?」
「いや、皆んなが俺をマスターマスターって言って尊敬してくれてるんだ、これくらいはやりたい!」
「オッケー!」
本当に危ないときは彼が守ってくれるだろう。
そう信頼して俺は必死に短剣を振る。
「よっと!」
そして飛んでくる岩が無くなると、俺らはすぐにテュポーンの近くに行き、まだ生きている事をアピールしてまだ自分達に引きつけさせる。
「またくるよ!」
『……』
テュポーンが何匹もの巨大な蛇で出来た脚を動かし、俺らを轢き潰そうとしてきた。
「横に走って!」
「――――どわっとと!?」
その声が聞こえた瞬間、俺の体は勝手に走り出していた。
今の俺のスピードでも、何とか避けられるくらいの位置だったのは本当にラッキーだった。
前転をしてすぐさま振り返り、テュポーンが目の前を通って行くのを見る。
「あ、あっぶない……」
「マスター! 油断は――」
「よっ!」
瞬間、飛んできた石を受け流す。
「大丈夫、ちゃんと警戒してる」
「な、なら良いんだけど……」
(マスター、戦いの中でとんでもない速度で成長してるな……)
「後どれくらい!?」
「残り二分くらい!」
「上々!」
もう一分経った事に内心驚きつつ、俺らはその後も飛んできたりしていた石を受け流しながら移動する。
『……』
テュポーンはまたも何も言わずにこちらを見る。
「さて、お次は何が来るのやら」
そう言って身構えたその時、テュポーンが両手を前に突き出した。
「っ!」
「……」
俺は【召喚(召喚士)】さんの事を見たが、彼は首をフルフルと振った。
つまり、完全新規の技という訳だ。
『……――――――』
そして、何かを唱えたその時、テュポーンより前の地面が……消えた。
「……は?」
消えた地面の先を見てみると、真っ暗な世界が広がっていた。
「おぉっと……まさかここまでとはね……」
「な、何なんだこれ!?」
「元々のこの世界だよ、その暗闇は」
「元々の……世界?」
「うん、元々このスキルの世界は暗闇しか無いんだ。そこ。俺らが色々創造して、今の様な世界にしたんだ」
「そ、そうだったんだ……」
いや、そんなとこまで曝け出させたテュポーンも凄いけど、この世界創った【召喚(召喚士)】の皆んなも凄いな!?
「はは、ありがと」
「あっ……」
そうだった、心の声聞かれてるんだった。
「まあ何にせよ、苦労して創った物を壊されちゃったからね……流石の俺でも怒ってるよ。これは」
そう言って彼は短剣を握りしめる。
あの握り締め方は……。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「――うん」
そう返事すると、彼はテュポーンに向かって走り始める。
(さっきの彼の握り締め方……あれは、受け流しよりも〝攻撃する事〟に重点を置いた握り締め方だった……)
でもテュポーンに攻撃したところでダメージは無いと思うけれど、何か策でもあるのだろうか?
「【空歩】! 【空歩】!」
順調に空中を跳ぶ【召喚(召喚士)】さん。
そして――
「うおあぁぁぁぁぁああああああっ!」
なんと、魔法も無しに短剣を振り下ろした。
「え!? なっ、えぇ!?」
だがその短剣は、確かにテュポーンに傷を付けた。
『……』
傷付けられたテュポーンが、俺らと地面に着地した【召喚(召喚士)】をギロリと見る。
「【召喚(召喚士)】さん……凄かったけど、ちょっとヤバくない? これ?」
「いや、大丈夫」
彼がそう言った時、テュポーンの後方から水色の巨大な鎖が何本も飛んできて、テュポーンを縛り付けた。
「時間だから」
そう、俺らは彼らが力を貯める十分という長い時間の間、テュポーンの気を引く事に成功したのであった。




