ダンジョン内で学んだこと
「……んんっ……」
「あ、起きた?」
「はい、おはようございます。ルイド様」
あれから、多分五日が経った。
太陽に光を浴びていないので正確に何日経ったのか分からないのだ。
何層登ったのかも……覚えていない。
百層目を超えてから覚えるのをやめた。
『アォン……』
「キーちゃんもおはよ」
『クゥーン』
俺は立ち上がり、お尻に付いた汚れをパンパンと手で払う。
「それじゃあ、今日も行こうか」
「かしこまりました」
『ア゛ァォン!』
エリシア達も立ち上がって、ダンジョン内を歩き始めた。
「ルイド様」
「ん?」
「その……大丈夫なのですか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫」
何が大丈夫なのかというと、俺は見張りとしてずっと起きていたのだ。
エリシアは「召喚主様にそんな事させられません!」と言っていたが、夜更かしは女の敵、と言うので何とか寝て貰った。
まあ、この様な見張りはこの五日間で交代交代でやって来てはいたのだ。
ただ、それをエリシアかキーちゃんがずっとやっていたので、今回は俺にやらせて貰ったという感じだ。
「だ、だとよろしいのですが……」
エリシアの心配そうな顔になんか凄く罪悪感を感じた。
「エリシア、ありがとうな」
「えっ?」
「心配してくれて」
「……〜〜っ!? おっ、お気になさらず……」
『……』
なんか、キーちゃんが「ほぉ〜ん」という様な顔でこっちを見てくる……。
『アォン』
そして俺の背中を鼻で押して来た。
「ちょっ、何だよキーちゃん」
『……アォン』
「ほらほら、よしよしよしよし……」
そんな会話をしていると、上に続く階段を見つけた。
「あった、階段だ」
「では登るとしましょう!」
『アォォン!』
幸いな事に近くにモンスターはいなかったので、登るのを邪魔されたりはしなかった。
「よし、登れた」
「モンスターがいなくて良かったですね」
「本当にね」
前に、登っている最中にめちゃくちゃデカいコウモリが何十匹も襲って来た事があった。
あの時は急いで登ったので何とかなったけど……登れなかったらマジでヤバかった。
因みに、モンスターは階層の移動は出来ないらしい。
だからあのデカコウモリから登るだけで逃げれたのだ。
「さてと……壁の色は……下層のままか」
あの後、一度だけ壁の色が変化した。
暗めの黄緑色から、紺へと変色したのだ。
紺色は下層の色なので、ようやくあの深層(仮命名)から抜け出せたと二人と一匹で大喜びしたのを今でも覚えている。
でも、ずっとそれ以降ずっと下層なんだよな……。
流石にそろそろ中層に行きたい。
「まあ仕方ありませんよ。深層から出るのにも結構時間が掛かったじゃないですか」
「まあ、そうなんだけどね……」
そう分かっていても中々にクるものがあるんだよ……主に精神的に。
「取り敢えず……また探すとしようか」
「はいっ!」
『アォン!』
そうして俺らは新たな層を歩き――出そうとした。
『『『『『リピロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!』』』』』
「「『!?』」」
背後から鴨の様な見た目をした、足がものすごく大きいモンスターが大量に現れた。
「いっ、一体どこから……!?」
「分かりませんが、どうやら戦わないといけなさそうです!」
「だな!」
このダンジョンで学んだことがある。
まず、モンスターと出会ったら即行逃げてはいけないという事だ。
そりゃあ、ドラゴンとか間違いなく戦ったら負ける様なやつに出会ったら、逃げても良いが、それ以外であれば戦ったほうが良い。
何故かというと、大抵の場合俺らより向こうのほうが移動速度が速いからだ。
なので逃げても無駄に体力を消耗するだけになる。
キーちゃんに乗って逃げるという手はあるが、逃げた先にもっと強いモンスターがいる可能性も否めないので、最終手段と考えた方が良い。
よって一番良い選択は、戦うなのだ。
(まずは相手の攻撃方法を見よう……)
モンスターに直ぐ様攻撃するのは悪手だ。
相手がどんな攻撃方法を持っているか分からないのに攻めるのは危険すぎる。
『ピロロッ!』
アシデカカモはくちばしからピュッと物凄い勢いの水を発射してきた。
「うおおっ!? そっちかよ!?」
てっきりあの大きな足を使ってくるもんだと思ってた!
迫りくる水をジャンプして回避し、俺はその水を放ってきたアシデカカモに向かって短剣を構える。
背後で岩が崩れる音がした。
恐らく今アシデカカモが発射してきた水が崩したのだろう。
(さっきくらいの威力の水ならば……受け流せる!)
ダンジョンでモンスターと戦っている内に、モンスターとの戦い方が分かってきた。
攻撃の受け流し方や回避の仕方。他にも相手の癖を見抜いたりする観察力なんかの元から少しはあった力が、めちゃくちゃ鍛えられた。
今では、見るだけでその攻撃の威力が自分の受け流せる範疇内なのか分かる様になった。
「キーちゃん、左の方を頼めるか?」
『ア゛ウ!』
短剣を柄をしっかりと握り、アシデカカモを睨む。
(三……四……大体……十五匹か)
アシデカカモの攻撃を回避してすぐに全生物共通の急所である首を短剣で斬り付けられるアシデカカモの数を数えた。
「行くぞ!」
『ア゛ア゛ォン!』
『『『『『リリリピロロロロッ!』』』』』
アシデカカモ達がまたあの水をくちばしから発射してきた。
「はぁっ!」
前方にジャンプして地面に近い方の水を避け、空中から迫って来ていた水は体を捻って避ける。
そして着地した瞬間更に前に加速して、猛スピードでアシデカカモに迫った。
『リッ、リロピッ!?』
まさか自分達が発射したあの水を無傷で突破されるとは思っていなかったかったのだろう。
目を見開いて驚いているアシデカカモの首を短剣で斬り、続けて近くにいたアシデカカモの首も斬っていった。
そして十五匹目の首を斬った時、背後から高速で水が接近してきていたので、それをバク転をする事によって避けて発射したヤツを斬った。
「ふぅ、俺の方はこんなもんか」
キーちゃんの方を見てみると……
『ア゛ァォン! ア゛ォォォォン!』
とんでもない勢いでアシデカカモを倒していた。
「うわぁ……凄っご……」
あんな速度では倒せないな……。
『ア゛ォン!』
そんなことを思っていると、どうやら全部倒したようで、キーちゃんがそう吠えた。
『リピロッ!』
「! キーちゃん!」
『アォ!?』
直ぐにキーちゃんの元へ駆け寄り、アシデカカモが発射した水を短剣の腹を使って誰もいない方向へ受け流す。
『リリピッ!?』
『ア゛ア゛ア゛!』
戸惑っていたアシデカカモを、キーちゃんが右脚を振り上げて倒した。
「危なかったなキーちゃん」
『アウアウ』
短剣に付いた血を拭き、アシデカカモを三匹程掴む。
今日のご飯にする為だ。
「エリシア、怪我とかは無い?」
「心配して頂きありがとうございます。特に怪我などはありません」
「そうか、良かった」
『アォォン』
キーちゃんも、良かった〜と言っているような鳴き声を出す。
「それじゃ、探索を始めようか」
「はいっ!」
『アォン!』
そうして俺らは、上へ続く階段を探すために歩き出した。
「……そういえば、何でアイツらは足がデカかったんだろうね?」
「……なんででしょうね?」
そして、俺らの中で永遠に解けないであろう謎も生まれたのだった。