捕獲作戦開始
「それじゃあ、皆んなよく聞いてね……」
【召喚(召喚士)】の内の一人が、他の【召喚(召喚士)】達にそう言った。
「これから例の、逃げ出したテュポーンの捕獲作戦を開始するんだけど、知っての通り、マスターが加勢してくれる事になった!」
彼がそう言うと、周りから拍手が巻き起こる。
「あ、あはは……どうも……」
恥ずかしいなぁこれ……。
「という訳で、マスターも作戦に入れて実行する。マスターには悪いけど、死んでも復活するから斥候の役割をして貰うよ」
「わ、分かった……」
お、俺これから死ぬかもなのか……いや生き返るって分かってても怖すぎるな……。
出来る限り死なない様に立ち回ろう。
「それで、君達はこの場所から――」
そこから、【召喚(召喚士)】の人が作戦を説明していたけれど、緊張と精神を安定させるのに必死で殆ど聞くことは出来なかった。
「よし、それじゃあ作戦開始! マスター、頼むよ!」
「あ、ああ!」
と、とにかくテュポーンの近くに行って周辺の地形とかそういうのを皆んなに教えれば良いんだよな……!?
よ、よし、何とか行けそうだ。
俺は移動する皆んなに付いていき、出来る限り前へと出る。
「あの奥にテュポーンがいるはず……だから、マスターは皆んなを連れて辺りの様子とかを見てきてくれ」
「分かった」
周辺は所々木々が生えていて、色のついた谷や崖がある場所だった。
これなら、バレずに観察する事も出来そうだ。
「マスター、これを」
「ん? おおっ」
【召喚(召喚士)】の一人が渡して来たのは、望遠鏡だった。
これでテュポーンなんかを良く見れる。
「ありがとう」
「気にしないで」
さて、これでちょっと遠くを覗いてみるか。
「えーと……え?」
その時、遠くの山が動いた。
本当に遠くて分からなかったが、雲を悠々と突き抜けるほどの高さがあるその山が、みるみる内に形を変えていく。
「な、何だ……!?」
山は次第に人の形になっていったが、脚の膝から下は何かウネウネとした触手の様な何かで出来ていた。
「も、もしかしてあれが……」
「うん。あれが、テュポーン」
あ、あんなの……捕獲出来るのか……!?
「何とかするしかないよマスター。ともかく、もう少しテュポーンに近付こう。この距離だと周辺の地形なんかも分からないし」
「そ、そうだね」
ぶっちゃけ、俺はダンジョンでも経験した事の無い寒気に見舞われていて、足が少しだけ竦んだ。
この距離でも分かる。ほんの少しでも距離を見間違えたら即死だと。
「マスター、大丈夫?」
「な、何とかね」
「ははは、まあ無理もないか。マスターがあんなどデカいモンスターを見るのは初めてだろうし」
「それに物凄く強い奴だしねー」
俺らはそんな会話をしつつテュポーンの近くに行き、再度望遠鏡を使って周囲の調査をした。
「ここから東には結構木々が生えてるっぽい……けど、多分テュポーンを連れ戻す際には更地……いや谷になってるだろうね」
「それもとびきりデカくて深いね」
「だね」
や、やっぱそんな化け物なのかテュポーンって……。
「よし、それじゃあ念の為作戦をおさらいしておこう。テュポーンを捕獲する手順は、まずマスター含めた第一隊がテュポーンの気を引いて俺らから離れる。その間に第二隊と第三隊が力を込めながら背後からゆっくりと接近。そして第一隊がテュポーンを上手くクルッとこちら側に引き寄せられたら、その力を放って第四隊を経由して当てて、テュポーンを捕獲。オーケー?」
そう彼が言うと、皆んながゆっくりと頷いた。
「言葉にするのは簡単だけど、この作戦を実行するのは難しいと思う。でも、やらなきゃこの世界が壊れてしまうだけだ。だから、絶対に成功させよう。それじゃあ、作戦開始!」
そうして、俺らはテュポーンへと駆け出した。
「マスター! テュポーンは今俺らの事を認知してない筈だから、まずは認知させないと!」
「に、認知させるって……どうやって!?」
「こうするんだ!」
そう言うと、彼はスピードを上げてテュポーンへズンズンと進んで行く。
「【空步】!」
「なっ!?」
今、彼……《《魔法を発動した》》!?
「おらぁっ!」
そして彼は空中を踏みしめ、テュポーンの足? 元へと行き、短剣で先っぽを切りつけた。
『……』
「やっぱりこれじゃあ気付かないよな……【空步】! 【空步】!」
何度も何度も同じ箇所を切りつけると、とんでもない大きさの頭が俺らを向いた。
「気付いた!」
その言葉を皮切りに俺らはテュポーンから距離を離す。
さあ、何をしてくる……!?
『……』
テュポーンは、ただただ静かにゆっくりと右手を体の半ばまで動かした。
「――ッ!?」
その瞬間、とてつもなく強力な暴風が俺らを襲った。
(嘘だろ!? あの速度でこんな暴風を起こせるのか!?)
俺らは吹き飛ばされないように近くの岩や木にしがみつきながらテュポーンを睨む。
(これは……想像してた百倍はヤバい……!)
そうして、風が止んで地面に足を付けた俺は、覚悟を決めるのだった。




