夢の世界
「ただいまー」
「「あっ、ルイド様!」」
特訓が終わって宿屋へ帰ると、二人は一瞬嬉しそうな顔を浮かべた後、ぷくっ〜っと頰を膨らせた。可愛い。
「ご、ごめん、突然出て行っちゃって」
「本当ですよ! 私達だってルイド様の練習を見たゲフンゲフン、私達とても心配してたんですよ!」
……ん?
「そうですルイド様! 一体どんな特訓をするのかこっそりのぞゲフンゲフン、一体どうなってしまったのか凄い不安だったんですから!」
「……」
エリシア達……さてはそれほど心配せずに俺の言っていた特訓を覗きに行くかどうかを悩んでたな……?
まあ、俺が勝手に飛び出したんだから、心配しろなんて事言う訳が無いんだけど。
「本当にごめん、エリシア、ラルム」
「……まあ、無事に帰って来て下さったなら、それだけで良いんですよ」
「エリシアの言う通りです!」
そう言って二人はニコッと笑った。
くそっ! 眩しすぎて直視出来ないっ!
「はは、ありがとう。俺は本当に疲れちゃったから寝るよ」
「おやすみなさいませルイド様」
「おっ、おやすみなさいませ!」
そうして、俺はベットに横たわって目を閉じ、すぐに夢の世界へと入っていったのであった――。
◾️ ◾️ ◾️
「ん?」
目が覚めるとジャングルにいた。まさに熱帯雨林とかそこら辺辺りの。
「どこだここは? まさか、誰かに連れてこられたのか!?」
いや、それなら俺自身が気付かないハズがない。第一、俺が気付かなくてもキーちゃんやヒューちゃん達が気付くだろう。
「……って、あ、あれ!?」
ポーチの中にキーちゃんとヒューちゃん達がいない!
「ど、どうなってるんだ……?」
まず、こんな熱帯雨林の様な場所があるよは、ヨロプとは真反対の方向だし……。
まさか、また転移か!?
「まあ落ち着きなよ、所有者」
「!?」
振り返ると、誰もいなかった筈の場所に一人の青年が立っていた。
というかあれ? あの顔は……《《俺》》?
「だ、誰だ君は!? どうして俺の顔をしているんだ!?」
「俺は……あー、その、なんて言うんだろ……マスターの能力ってやつなのかな? んで、俺がマスターと同じ顔なのもそれが理由」
「マ、マスター?」
な、何を言っているんだ彼は……!?
「うーん……いや本当に説明が難しいんだよな……えーっとさ、マスターは【召喚】ってスキルを持ってるだろ?」
「あ、ああ、あるが……なんで知ってるんだ……?」
「それが俺だからだ」
「……何を言っているんだ?」
「だから説明が難しいって言ったんだよ……」
……え、自分の正体は【召喚】というスキルだ……と、彼は言ってるんだよな?
…………もう一度整理してみても何言ってるか全く分からないな。
「取り敢えず、俺を早く元の場所に戻してくれ。多分エリシア達が心配している」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。マスターは今宿のベットの上で寝てるから」
「あっ、そうなのか……ん?」
という事は、これは夢なのか?
おおっ! これが明晰夢かぁ……!
まあ確かによくよく考えたらスキルが俺になって話しかけてくる訳ないしな。
そうだ、俺明晰夢を見たらやりたい事があるんだった。
「よーし……」
「あっ、ちょっ、マスター」
俺のやりたかった事……それは……!
「飛べぇー!」
空を飛ぶ事だ!
「……て、あ、あれ?」
意思とは裏腹に、落ちていく体。
「ぶふぇっ!」
そうして俺は顔面を地面に強打したのだった。
「待ってって言おうとしたのに……」
「な、何でだ!? 何で夢なのに飛べないんだ!?」
「ここが明晰夢じゃないからだよ」
「え?」
明晰夢じゃない……? じゃあ何なんだここは?
「ここはー……えーと、なんて言うんだろ。俺の家……なのかな? マスターが寝るのを見計らってここに意識だけ招待したって訳だよ」
「……こんなジャングルチックな場所が家?」
「うん」
「……」
どうやら、嘘ではないっぽいな……。
……え? って事は本当に彼は俺のスキルである【召喚】という事になっちゃうんだけど……そんな事ありえるのか?
「で、ここにマスターを招待した訳なんだけど……」
そう言って彼は少し押し黙って、意を決した様に口を開いた。
「お願いだ! 俺らの危機を救ってくれ!」
「……危機?」
「ああ、今【召喚(召喚士)】が育成しすぎて溢れかえりそうなんだ!」
「…………ごめん、今までの中で一番訳の分からないのが出てきた」
育成しすぎで溢れかえりそうって、何だ?
「まあ、マスターが訳分からなくなるってのは分かってたよ。だから、俺に付いて来て欲しいんだ」
「……うーん……」
本当に付いて行っても良いのだろうか?
もしかしたら俺は今何らかの魔法でこんな事になったりしているんじゃないか? いやでも本当に困ってたらどうしよう……。
「…………!」
彼が俺に信じてくれという目を向ける。
「分かった、付いて行くよ」
「っ! ありがとうマスター!」
これが罠でも、全て受け流すだけだ。
そうして俺は、歩き出す彼に付いて行くのであった。
◾️ ◾️ ◾️
付いて行ってジャングルを抜けると、ガラッと景色が変わった。
物凄く未来的な都市があり、小型の馬車? の様な物が空を浮いて移動している。
「す、凄い魔法だな……」
「ははは、マスター、あれは魔法じゃないよ」
「え?」
「あれはちょっと先の未来の技術の乗り物だよ」
「の、乗り物……?」
「あぁ、えぇっと……馬無しの馬車みたいな感じ……かなぁ……?」
「何それ凄!?」
そんなのが未来にはあるのか……というか、何でその技術がここにあるんだ?
「ほらほら、こっちだよマスター」
「あっ、ああごめん」
まあ後で聞くとするか。
「よし。マスター、ここが【召喚(召喚士)】がいる所だよ」
「うおぉ……」
彼が手を差した方向には、物凄く大きな半球があった。
(ここ……この場所に来てから一番目立ってた建物だったから気になってたんだよな……)
この半球は全てガラスで出来ていて、中を覗いてみると、沢山の大きな建物が建っていた。
「このドームの中の……多分今の時間ならば畜舎にいるんじゃないかな?」
「分かった。畜舎に行ってみるよ。どこ?」
「あの建物だよ」
見てみると、普通では考えられない様な大きさの畜舎が建っていた。
「……あれだよね?」
「うん、あれ」
「大きすぎない?」
「あれじゃなきゃ入らないんだよ」
「あれじゃなきゃ!?」
あれでようやく入る生き物って……何なんだ……!?
「ともかく行って【召喚(召喚士)】と話して来て欲しいな」
「あ、ああ。じゃあ行ってくる」
そうして俺は超デカい畜舎へと入った。
「あぁーっと……ヘカトンケイルはもうリカペの子になったから……あれ? ピュトーンとゲリュオンは?」
「ピュトーンはアラルルに、ゲリュオンはまだ決まってない」
「分かった。じゃあ次はゲリュオンの育成と保持者の選定だな……」
「だね」
「…………」
なんか、俺がいっぱいいる!
「あっ、おい」
「ん? ……あっ!」
話をしていた二人がこちらに気付き、近寄って来た。
「マスターですよね?」
「た、多分……そう」
「多分?」
この状況に付いて行けてないんだよ!
畜舎の中に五人くらい俺がいるって本当にどういう状況なんだ!?
「あぁ、まあ確かにこの短時間でマスターと同じ姿の人が沢山いるっていうこの状況の整理は出来ないか」
「あれ? 俺声に出てた?」
「俺らはマスターの能力なんだから、マスターの心の声くらいは聞けるんだよ」
「マ……マジか……」
「ともかく、【召喚】から俺らが召喚士を育成し過ぎてピンチだってのは聞いてるよね?」
「うん」
「じゃあ、今何が起こってるのか具体的に説明するよ……」
ス、スキルにとっての危機……一体どんななんだ!?
「それは……」
「ゴクリ」
「…………召喚士を育成しすぎた結果、モンスターもそれに伴って増える訳だけど、まずそのモンスターがもうこの畜舎には収まり切らないこと。そしてこっちの方が問題で……その……育ててるモンスターの中でも最強格の、テュポーンが逃げちゃった」
「……え?」
こうして、俺の夢の中? でのちょっとした波乱が始まったのであった。




