未到達階層
「……ここは……?」
全く見たことも無い場所に転移させられてしまった。
というか、こんな壁の色をした階層なんて聞いたこともない。
『グオアァァァァァァァ!』
『ギシャェェェェェェ!』
「!?」
な、何だ今の鳴き声は!?
めちゃくちゃ野太い声だった……。
絶対に相当強いモンスターだろう。
あっちの方向には行かないでおくとしよう。
「ひとまず、どうやって上に戻るか……」
自分が今何層目に居るのかすら分からないから、後どのくらいで地上っていうのがないのは精神的にキツイなぁ……。
だが、移動しないことには始まらないし、取り敢えずこの階層を探索してみよう。
「【召喚】、【召喚】」
自分の護衛用に二体のゴブリンを召喚する。
二体もいれば、上下の方向以外からの攻撃から守ってくれるだろう。
「そういや置いてきちゃったゴブリン君は大丈夫かなぁ……」
生きてくれているといいのだが。
まあまず自分が生き残らないと何だけどな!
「それにしても、本当に何層目なんだここは?」
ダンジョンは、とある部分を境に、壁の色が変わる。
その変わるまでの部分を、俺らは上層とか、中層とかいう感じで呼んでいる。
俺が先程までいたオレンジに近い赤色の壁をした所は、上層に当たる部分だ。
だが今は……暗めの黄緑色の壁だ。
だが、先程も言ったようにこんな壁の色は聞いたことがない。
つまり……
「もしかして、俺未到達階層に来ちゃった?」
未到達って事は、冒険者ランクがSの人ですら行けなかった場所って事だよな?
…………俺、想像以上にピンチじゃね?
『グガガガギゴグガガァァァ!』
「うおっ!?」
横から猛スピードで突っ込んで来たモンスターを、既のところで避ける。
『ギガガグゲ……』
巨大なカメレオンの様なモンスターが、涎をダラダラと垂らしながらこちらに顔を向ける。
目がビクビクと動いて、色んな方向を見てからこちらを見据える。
『ギギッ!』
『ギギギッ!』
ゴブリン君達が俺の前に立って棍棒を構えた……が、デカカメレオンにとってはそんなの何でもないようで、一瞬にしてゴブリン君達は吹っ飛ばされて、壁にぶち当たってぺちゃんこになった。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
無理だ! あいつには勝てない!
絶対に死ぬ!
デカカメレオンがいる方向とは真反対に必死に走る。
『ゲガギグゲゲェ!』
変な鳴き声を上げ、後ろからデカカメレオンが猛スピードで追いかけて来た。
「【召喚】! 【召喚】! 【召喚】! 【召喚】! 【召喚】! 【召喚】! 【召喚】!」
無我夢中で【召喚】を発動し、計七体のゴブリン君が召喚された。
『ギギッ――』
一体のゴブリン君が、召喚された瞬間に、デカカメレオンがピャッと伸ばした舌に捕まり、食べられた。
『プゥウェ!』
不味かったのか、地面にペッと吐き出される。
「くっ、くそ! 【召喚】! 【召喚】!」
さらに【召喚】を二回発動した事により、ゴブリンの合計数は八体となった。
もう一体召喚出来なくは無いが、MPが尽きると数時間は気絶してしまう為、今ここでやるのは自殺行為だ。
つまり……この八体で何とかするしかない。
「行くぞ皆んな!」
『『『『『ギギィー!』』』』』
短剣を抜き、構える。
『ガガガガゲゲゲ!』
デカカメレオンが俺を狙って舌を伸ばして来たが、幸い少し距離があったので見てから避けることが出来た。
「あっぶね!」
ゴブリン君達が舌を戻すまでの間に攻める。
だが、デカカメレオンが舌で薙ぎ払いを行ったため、ゴブリン君達が吹っ飛ばされる。
「1、2、3……よしまだ全員生きてる」
死者がいなくて良かった。
この状況での死者は本当にキツイ。
『ゲゲゲゲゲゲゲゲ!』
デカカメレオンが鳴いたその瞬間――姿が消えた。
「なっ!?」
『ギギッ!?』
どこからか出てきたデカカメレオンの舌によって一体のゴブリン君が引っ張られ、捕食された。
『プゥウェ!』
そして上の方からゴブリン君が吐き出されて、ボトリ、と落ちてきた。
「嘘だろ……」
無理だ。
ゴブリン七体で、あんなヤツに、勝てるわけが無い。
くそっ、なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!
『プゥウェ!』
また一体、ゴブリン君が食べられて吐き出された。
残り六体。
どうする、どうやってあいつから逃げる?
……いや、逃げる方が駄目だ。
地形も何もわからない場所で逃げまわれば、相手が有利な場所に誘導されてしまうかもしれないし、何よりアイツの方が速いからすぐ追い付かれる。
つまり……戦わないといけない。
行けるか? ゴブリン君六体だけで。
『ギギッ』
俺を見て、一体のゴブリン君がそう鳴いた。
まるで「大丈夫だ、やれる」とでも言うような声で。
ふぅー、と息を吐いて、気分を落ち着かせる。
ゴブリン君の言うとおり、大丈夫だ、やれる。
「やるぞ!」
決意を固めてそう言った。
『ガガゴゴギガゲェ!』
短剣を握り直す。
周りを注視し、いつでも攻撃できるようにする。
「……そこだッ!」
ゴブリン君達と共に攻める。
『ギェギェ!?』
そう、デカカメレオンの擬態は完璧では無い。
一秒未満ではあるが、ズレが起きるのだ。
つまり、少しだけ動いている壁を攻撃すれば、ヤツはそこにいる。
『ギェーッ!』
舌が物凄いスピードでデカカメレオンの口から飛び出す。
「ふっ!」
それをギリッギリのところで躱す。
間違いなくあと3cmほどズレていたら当たっていた。
「行けぇぇえー!」
ゴブリン君達が棍棒でデカカメレオンをポカポカと殴る。
『ガ、ガギゲェ……?』
ゴ、ゴブリン君達の攻撃が弱すぎてデカカメレオンが困惑してる……!
「おらぁ!」
困惑している隙に短剣でデカカメレオンを斬りつける。
『ガガガガガガガガガギギギギギグゲゲゲゲゲゲゲゲゲェェェェェエエエエエ!!』
攻撃された事により激しく怒り狂ったデカカメレオンの攻撃をバックステップで避け、まだ暴れているデカカメレオンを見て、攻撃が当たらないように接近して再度斬りつける。
『ギガグゴゴギギギガゴゴグゴゴゲゥガガガガガガァァァァァ!』
数体のゴブリン君達が攻撃に当たったが、俺らを狙った攻撃ではなくただ暴れているヤツの攻撃なので死にはしなかった。
が、恐らく骨折したりしている。
「大丈夫かゴブリン君!?」
『ギギィ!』
右腕がグニャとなったゴブリン君が元気良くそう返事してくれた。
絶対痛いだろうに……。
だが、それでも大丈夫だと言ってくれたんだ。
それに応えなければ。
「棍棒を捨てて、鋭利な石を持って攻撃するんだ! デカカメレオンの攻撃に当たらない様に気を付けてくれ!」
『『『『『ギギィッッ!』』』』』
ゴブリン達がデカカメレオンに対して棍棒を投げつけ、近くの鋭利な石を拾う。
そして暴れるデカカメレオンの攻撃を掻い潜り、鋭利な石で体を斬りつけた。
『ゲガグゴゲガギグゲギグゲガゴォォォォォ!』
実は意外とゴブリンって身体性能高いんだよな。
ただ頭が悪すぎるってだけで。
「ナイスだ皆んな!」
俺は怒り狂ったデカカメレオンの尻尾の攻撃を避け、揺れまくる背中によじ登ってジャンプする。
『グゲガギゲ!』
デカカメレオンはグルンと顔をこちらに向けて、舌を伸ばそうとしてくる。
「くっ……!」
『ギギィ!』
だがその時、横から石が飛んできてデカカメレオンの目にブッ刺さった。
『ゲェェェェェェェェェ! ギガグゲギゴゴグゴ……!』
飛んできた方向は向けないが分かる。ゴブリン君がやっってくれたのだと。
「ありがとうゴブリン君!」
短剣を頭上に構え、激痛に悶え苦しんでいるデカカメレオンの脳天に向かって突き刺す。
「おらぁぁぁ!」
力を更に込め、デカカメレオンの硬い皮膚に刃が刺さっていく。
『ゴガゲグゴゲガギゴグゲガギガゲギィィィィィィィィ!』
ド、ザッ、という音と共にデカカメレオンが倒れる。
「はぁ……はぁ……やった……のか……?」
足で何度か蹴り、死んでいる事を確認する。
「よっ……しゃぁぁぁぁぁ!」
『『『『『ギギィィィィィ!』』』』』
倒せた! 倒せたんだ! 未到達階層のモンスターを!
「やったなゴブリンく……ん……」
ボタボタと、ゴブリン君達の血が垂れる。
「あ……あ……」
周りには、戦闘音に釣られて来たのであろう大量のモンスター。
そいつらが、ゴブリン君達の心臓を貫いていた。
『ゲギギャギャギャギャ!』
『ガギゴゲギガギゴゲェェェェ!』
死んだゴブリン君達の死体を嘲笑うの様な鳴き声を上げる。
「じゃあ……さっきの……鳴き声は……」
喜びの歓声なんかじゃなく……心臓を貫かれた事による悲鳴……。
「う……うあああああああぁぁぁぁぁああああああ!」
『ゲゲゲッ♪』
嘲笑いながらジリジリと距離を詰めて来るモンスター達。
くそ……俺は、ここで……死ぬのか?
召喚はもう出来ない。
つまり、為す術が無い。
ギュッと目を瞑り、死を覚悟したその時――
『レベルが、50になりました。スキル【召喚(召喚士)】を獲得しました』
と声が聞こえた。
「っ! マジかよ今か!?」
今の声は先程の様にレベルが上がったり、なんらかのスキルを獲得した時に聞こえる声だ。
いきなり過ぎて何て言っているか聞き取れなかったので、急いで冒険者カードを見る。
『名前:ルイド・アッカーサー
Lv:50
職業:召喚士
冒険者ランク:D
所属パーティー:無所属
HP:45/350
MP:10/400
スキル:【召喚】消費MP:10 【召喚(召喚士)】消費MP:10』
しょ、召喚士を召喚? どういう意味だ?
『ギゴロロロロロロロロロロロロロ』
『グップォァラパァッポゥォォ』
『ジャグウェェェェルチョロルレレレレレ』
あぁーくそ! もうこれに賭けるしかない!
ゴブリン君を召喚しても一瞬でもやられるのは目に見えてるし!
この状況を打開出来るスキルであれ!
「【召喚】!」
そう唱えた瞬間、ドクン、と心臓が跳ねた。
「かはっ……」
しまった……MPを使い切ってしまった……。
細くなっていく視界に光り輝く白い魔法陣が見えるが、瞼がどんどん重くなっていき、俺はそのまま目を瞑ってしまった。
※お知らせ※
このエピソードの123行目と275行目と329行目(空行も含めて)の、ゴブリン君達が鳴いた時の『』の数が、五体以上いるはずなのに十個(片方だけだと五個)になっているのは、表示がバグってしまう可能性があるからです。
これからも、五人、または五体以上のキャラクターが一斉に同じ事を言う場合は、「」の数が五個以上には増えない事をお知らせしておきます。