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 「以前にもワシに『フォースの共にあらんこと』と挨拶した者がいたな」と長老。

 間違いなく地球人だ!

 「その人の事を詳しく!」と俺。

 「『賢者ヨシダヨシオ』の話か?

 ヨシダヨシオはある日突然現れて、この『ハンーガ』を集落に伝えた」

 長老はそう言うと『ハンーガ』を取り出した。

 ・・・『ハンーガ』って百均のハンガーじゃねーか!

 地球人って言うか、ヨシダヨシオって日本人じゃねーか。

 つーか、ヨシダヨシオは賢者じゃねーだろ?

 日本の小市民じゃねーか?

 ヨシダヨシオ、竜人相手に何で賢者ぶっちゃったんだ?

 「今さら凡人ですって言えないよなぁ」って、引くに引けなくなったのか?

 まぁ、それはそれとして・・・。

 「その『ヨシダヨシオ』は今、どこにいるんだ?」

 「『元の世界に帰れる方法が見つかった』と十五年前に集落を飛び出して以来、どこへ行ったかはワシにはわからん」

 使えない長老(ジジイ)だな!

 「何かヨシダヨシオは残してないのか?」

 「ヨシダヨシオはこの『ハンーガ』を我が集落に残した。

 お陰で我々は服をかける事に困らなくなったのだ」

 だから百均のハンガーの話はどうでも良いんだよ!

 つーか、ハンガー何本持ち込んだんだよ?

 『五本1セット百円』のヤツを10セットくらい持ち込んだのか?

 「他には何かないのか?」

 「物ではないが、ヨシダヨシオは集落一番の槍の使い手との間に子を成している」

 「その『槍の使い手』と面会出来ないか?」

 「残念ながら槍の使い手は集落にはいない。

 集落を飛び出したヨシダヨシオを追って、集落を出て以来、その行方はわからん」

 「手がかりなし、か・・・」

 「いや、全く足跡が残っていない訳ではない。

 『槍の使い手とヨシダヨシオの娘』がこの集落にはいる」

 「その者と面会は可能か!?」

 「可能もなにもお主はその者と既に出会っているではないか。

 集落の入り口でお主に槍を突き付けていたであろう?」

 あの女性かー。

 つーか、あの女性日本人と竜人のハーフか!

 

 「それよりお主がヨシダヨシオが預言した『伝説の勇者』じゃな?」

 「『伝説の勇者』?

 何だ?それは?」

 「賢者ヨシダヨシオは『自分は勇者ではない。勇者は別に現れる』と預言したのだ」

 テメー!集落でまつりあげられて子供まで作っておきながら、いざとなったら面倒臭くなって、存在しない勇者に丸投げしやがったな!

 とんでもねー詐欺師だぜ!

 「その預言内容って聞いても良いか?」

 「『その者、青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし』」

 パクりだー!

 ハヤオ先生、トレスどころの騒ぎじゃないですよ!?

 「お主を一目見た時に思った『青き衣を纏っている』と」

 「俺の学ランは元々紺色だったけど、スライムの吐く酸を全身に浴びたら退色して青っぽくなっちゃったんだよ!」

 「冗談だろう?

 スライムの攻撃を全身に浴びる弱い者がいる訳がない」

 「悪かったな!

 弱かったんだよ!

 今考えると震えるよ、よくあの強さでゴブリンと闘ったな、って!

 生きてる事が奇跡だよ!

 それはともかく『金色の野』に俺は降り立ってないだろ?」

 「いや、お主が通ってきたと言う道は灰が降り積もっておったらしい。

 霧が晴れ、日の光を浴びた灰はまさに『金色の野』のように光輝いていたらしい」

 あかん。

 このジジイはヨシダヨシオを全面的に信じている。

 そのせいでインチキ預言を信じている。

 目を覚ませ!ヨシダヨシオは集落一の槍の使い手を孕ませた最低のクズ野郎なんだ!

 「俺はそんなに大層な男じゃない」

 「『勇者』は『自分が勇者である事』を自覚していないのだ。

 お主は預言の勇者で間違いがない!」

 「その根拠は?」

 「お主は預言そのままの登場だった。

 そしてお主は『賢者』と同郷だと言う。

 そして最も大きい根拠は『お主は竜人でも倒せず長年の悩みの種だったスケルトンを一掃した』

 お主が勇者じゃなくて何だと言うのだ?」

 少なくとも預言は偽物だ。

 その預言、ジブリファンなら誰でも知ってるぞ?

 でもヨシダヨシオに心酔している長老(ジジイ)には何を言っても無駄だろう。

 俺は勇者としてまつりあげられてしまった。

 竜人の方が千倍強いと思うけどなあ。

 だって俺、最近までスライムに苦戦してたフナムシ以下の雑魚だぜ?

 ヨシダヨシオは竜人にまつりあげられてて、居心地が悪くて逃げ出したのかも知れない。

 だって俺、今、居心地悪いもん。

 だったら子供なんてこさえるなよ!

 男だからしょうがないか。

 やれる、となったらやっちゃうよな。


 何か最初槍突き付けられてたのに、エラい歓待されてる。

 そして料理がマシだ。

 何でも、ヨシダヨシオの好みの味付けが研究されたらしい。

 この世界に来たヨシダヨシオは味気ないこの世界の料理が苦手だったらしい。

 『偉大な預言者で賢者であるヨシダヨシオの食べ物の好みを徹底的に研究しろ!』という事で、竜人達はヨシダヨシオの指導の元料理を発展させていったらしい。

 今では、この世界で竜人の料理の旨さがとどろいている、との事だ。

 ヨシダヨシオ、ハンガーなんかよりこの世界の料理の発展を手助けした方が、遥かに功績が大きいと思うぞ?

 料理は旨いが居心地は悪い。

 だって俺勇者じゃねーし。

 両手に鉄パイプ持ってる勇者がいるかよ?


 衛兵が女性を連れて来る。

 女性は手首を拘束されている。

 「勇者様。

 先程、集落の入り口で無礼を働いた女を連れて来ました」

 「あ、ヨシダヨシオの娘っていう・・・」

 「はい、槍使いの娘でございます」

 何か扱いが本当に偉いさんだ。

 何でこんなハナクソピーな俺に対して、仕事をこなしただけの門番の女の子が罪人扱いなんだよ?

 「ちょっと可哀想じゃない?」

 「この女は勇者様に不敬を働いたのです。

 万死に値します」

 「そんな事言ってもこの娘、集落にとって必要なんでしょ?

 集落で一番の槍使いの娘なんでしょ?」

 「今はこの娘も集落で一番の槍の使い手です」

 「だったらこんな扱いはダメだろ?

 拘束を解いてあげなよ」

 「そう勇者様が言うんであれば・・・。

 ミーナ、勇者様に感謝するんだな。

 勇者様の御慈悲が無ければ処刑されていたぞ?」と衛兵が言う。

 「そんな・・・大袈裟な!」

 俺が驚いて言う。

 「竜人の集落にとって『賢者の預言』は絶対なのです。

 ミーナは『預言の勇者』へ槍を向けたのです。

 この世界を救う、という勇者様を殺そうとしたのです」

 集落の者達がウンウンと頷く。

 「ありがとうございます!

 勇者様!

 私の残りの人生を勇者様に尽くすために使います!」ミーナが感激しながら言う。

 ミーナの言葉遣いが、俺を不審者だと思っていた時と180°違う。

 本当に居心地が悪い。


 「どこらへんが『竜』なの?」

 俺は我慢しきれずについ聞いてしまう。

 人々の耳の横にある突起が『竜の角』と無理矢理判断できなくもない。

 でも竜要素、それだけ?

 もしそうなら拍子抜けも良いところだ。

 「そう思われるのも当然じゃ。

 ミーナ、勇者殿に『竜化』をお見せしなさい」と長老(ジジイ)

 ミーナは「え?私?」とイヤそうな顔をしている。

 どうやら『竜化』はかなり面倒臭いようだ。

 「無理にやれとは言わないよ。

 ふと疑問に思っただけで」俺は慌てて言う。

 「ミーナ、お前の『勇者様に尽くす。残りの人生を捧げる』と言う誓いは偽りだったのか?」

 長老がミーナを責める。

 少し、正しい事を言っている風だが『だったらお前が竜化しろ。お前も面倒臭いんだろうが!』と言う話である。

 「・・・わかりました。

 では『竜化』をご覧下さい。

 ・・・ですが、少しだけ準備に時間がかかるのをお許し下さい」とミーナが俺に頭を下げる。


 ミーナは精神集中して全身に力を入れているようだ。

 『竜化』は準備だけでも面倒臭い。

 なんせ身体のサイズが変わるみたいで、広い場所でしか出来ない。

 『竜化』した竜人は重さも変化するみたいで、広いだけじゃなく地盤がしっかりした場所でしか出来ないらしい。

 場所をあらためて、集会所みたいな場所でミーナは『竜化』する事になった。

 集落から全ての竜人が集まり、集会所は竜人でごった返している。

 「竜化を見るのは三年ぶりかなー?」なんて野次馬のざわめきが聞こえる。

 後で聞いたが『竜化は無茶苦茶痛い』との事だ。

 どんな痛みかと言ったら『成長痛の数千倍の痛さ』だと。

 バルキリープロファイルのエイミみたいに「身体が熱い!力が目覚める!奥義『ドラゴンドレッド』!」って感じで竜化するんだと思ってた。

 エイミを竜化させたらフリーズする事が多いからあんまり竜化はさせちゃダメって話だったから、あんまり竜化させた事ないんだけど。

 ゲームの話はおいといて・・・。

 ミーナは巨大な竜に姿を変えた。

 『竜化』と言ったらもっとトカゲチックなモノを想像したいたのだが、ミーナが変化した竜の身体はクリスタルガラスのように透明で輝いていた。

 『どうですか?』と言うように巨大な竜が俺を覗き込む。

 どうもこうも、こんな強そうな竜になれる種族が俺みたいなウジムシに毛がはえた程度の男を勇者って呼ぶのはおかしい!

 お前らが世界を救う勇者になれ!

 俺の言ってる事変ですか?

 俺、何か間違ってますか?

 でも竜人の力の片鱗を見た今、『お前らなんて知らないよー』って突き放すような事言える?

 俺にはそんな勇気はないよ?

 ヨシダヨシオも賢者って言われながら、本当は突き放して逃げたかったんじゃない?

 まぁ、子供を作ったのは自業自得だけど。


 しかし本当に綺麗な身体だよな。

 どこまでも透き通っている。

 俺は『竜化』したミーナの尻尾をなでながら思う。

 周囲から『おお!』と歓声が上がる。

 何が起こったのか、俺は理解出来ていない。

 長老が言う。

 「我々竜人が竜化するのは生涯の内、何度もある事ではないのです。

 我々は『大きな闘い』がある時、竜化します。

 それ以外では『婚姻』の時、『プロポーズ』の時に竜化します。

 竜人は『プロポーズ』の時、相手の尻尾を撫でるのです。

 勇気殿か今、ミーナの尻尾を撫でたように・・・」

 そんなアホな!

 俺は今、知らず知らずのうちにミーナにプロポーズをしていただと!?

 「婚姻は二人の意思でしょう?

 片方がプロポーズをしても、片方にだって断る権利がある。

 ミーナの意思は?」

 「断る意思があるなら尻尾は撫でさせん。

 尻尾ではらわれているだろうな。

 『尻尾を撫でさせた』と言う事はミーナが『プロポーズに応じた』と言う事だ」

 俺はミーナにプロポーズして、ミーナはそれに応じた。

 頭の中でアナウンスが流れる。

 「スキル『重婚』が発動した!」

 やかましい!


 勇者を歓待していたパーティーは結婚披露パーティーとなった。

 「いやーめでたい!

 ミーナが勇者殿の妻になるとは!」長老(ジジイ)ははしゃいでいる。

 「しかし思い出すのう。

 賢者様がミーナの母親にプロポーズした時の事を!」

 え?

 ヨシダヨシオって、ミーナの母親にプロポーズしたの?

 「その話をちょっと詳しく聞かせてよ」と俺は長老(ジジイ)に言う。

 「賢者様も昔、『竜化が見たい』と言ったのだ。

 だからミーナの母親が賢者様に竜化してみせたのだ。

 その時に賢者様はミーナの母親の尻尾を撫でてプロポーズしたのだ」

 何てこった!

 俺にヨシダヨシオを責める権利はない。

 ヨシダヨシオも竜化したミーナの母親の見事な竜の姿に感心しながら尻尾を撫でた。

 そうしたらいつの間にかミーナの母親との間に婚姻が成立してしまっていたのだ。


 どうせバレるなら早い方が良い。

 今なら半殺しぐらいで許されるかも知れない。

 俺は覚悟を決めて長老に言う。

 「俺、言わなきゃいけないことがあります!

 実は、俺、もう結婚してるんです!

 しかも二人も奥さんがいるんです!」

 「なんと!二人とな!」長老(ジジイ)が驚きながら言う。

 そりゃ驚くよな。

 驚くで済むならいくらでも驚いてくれ。

 「しかし二人とは思っていたより少ないな」

 「確かに」

 「考えてたより二桁少ないよな」

 そこらじゅうから野次馬の声が聞こえてくる。

 「昔から『英雄色を好む』などと言う」と長老(ジジイ)

 あ、その諺、日本にもある。

 「『風雲児、ウッフンが大好き』とも言う」

 あ、その諺、日本にはない。

 「勇者殿に奥方が少ないからと言って何なのだ?

 『少なくて申し訳ない』と言いたいのか?」と長老(ジジイ)

 「私も気にしません。

 少ない分、可愛がってもらえると思いますし」といつの間にか人の姿に戻ったミーナ。

 いじらしいな、オイ!

 集落の入り口で俺に槍を突き付けてきた時の凄みはどこに行ったんだよ?

 竜人の女性ってこんなにいじらしいの?

 そりゃヨシダヨシオも子供つくるわ。

 よく一人で子供おさまったな。

 俺だったら大家族スペシャルに取材されるくらい子供作るね。

 俺の隣をピッタリ離れないミーナ。

 婚姻パーティーは終わる雰囲気はない。

 衛兵が二人の女性を連れて来る。

 何か見た事あるぞ?

 見ると二人は腕に黒い腕章をしている。

 女性の一人が俺を見て叫ぶ。

 「ジン!?」

 見ると俺に声をかけてきたのはイリスだった。

 で、もう一人の女性はリーリエだった。

 二人は俺を捜索しながら旅を続けていたが、俺を見つける事が出来ず、竜人の集落についてしまったそうだ。

 「何で俺がいないのに竜人の集落に来るんだよ?」と俺。

 「捜索しても見つからないし、こんな山の中でジンが一人で生き残ってる可能性はゼロだと判断した」

 確かに俺は三人の中でずば抜けて弱いもんなー。

 一人で山道を生き残れるはずはなかった。

 俺は竜人の集落への近道に迷い込んだ。

 近道はスケルトンだらけで、そのせいで他のモンスターがいなかった。

 しかし『スケルトンは回復魔法に弱い』というこの世界では誰も知らないゲームの知識のお陰で、俺は無双出来た。

 近道を通ってきたせいで、俺はイリスとリーリエより早く竜人の集落にたどり着いた。

 『死者の森』を一人で通り、森のスケルトンを全て退治した俺は英雄視される存在だったらしい。

 そして俺が集落に現れた『賢者』ヨシダヨシオと同郷だという事が発覚する。

 それだけでもお祭り騒ぎなのに、俺がヨシダヨシオの残した預言『青き衣の勇者』と姿が一致していた。

 それで俺は『勇者』だと竜人達に決めつけられた。

 その勇者が集落の娘にプロポーズした。

 集落は飲めや歌えやの大騒ぎだ。

 そこに遅れてイリスとリーリエが登場。


 「生きてた!良かった!」

 「もうダメだと思った!」とイリスとリーリエが俺に抱きついてきて号泣する。

 「エルフの一生は長い。

 ジンと夫婦でいる期間は私にとっては瞬きの時間と変わらない」とか言ってたクセにイリスは俺が生きていて、嬉しくてボロボロ泣いている。


 「ところでその腕章は何?

 つけてなかったよね?」と俺。

 「これは『未亡人』の印だ。

 喪が明けるまで亭主が死んだ妻はこの腕章を付けるんだ。

 この腕章を付けている女に男は絶対に手を出してはダメなんだ」とリーリエ。

 へー、そうなんだ。

 喪章みたいなモンか。

 ・・・つーか、勝手に殺すな!

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