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 「『小異を捨てて大同団結しよう』、という考え方を『大同団結運動』と言います」

 歴史の教師が教壇の前で言っている。

 教師の声はいつもならちょうど良い子守唄だ。

 しかし授業の内容が俺の夢を悪夢に変える。


 「ここはどこだ?」

 俺はつまらない授業の最中に居眠りをしていたはずだ。

 そのはずなのに、起きたら大草原の真ん中だ。

 大草原の真ん中に机と椅子が置いてあり、俺はそこで寝ていて、目を醒ました。

 まだ夢の中なんだろうか?

 視界の隅で何かが動く。

 同級生だろうか?

 寝ている間に何かしらのドッキリを仕掛けられたのか?

 視界の隅でうごめいていたのはゼリー状の・・・液体というか、固体というか。

 よくファンタジーもののゲームに出てくる『スライム』という形容がピッタリくる。

 ゼリー状のそれはドロドロと俺に近付いてくる。

 俺を認識しているようだ。

 確実に間合いを詰めて来る。

 「な、なんだ!?コイツ!」

 俺は慌てて一歩後退る。

 しかしドロドロは俺に近付いてくる。

 俺は座っていた椅子を振り回して、ドロドロを威嚇した。

 ドロドロは俺の威嚇に構わず更に近付いてくる。

 どうやらドロドロは椅子の木の部分は溶かすようだが、鉄の部分は溶かせないようだ。

 それがわかったからといって特に状況が打破される訳でもない。

 俺は椅子を必死で振り回すが、ドロドロにダメージを与えている様子はない。

 よく見るとドロドロの中に赤く丸い物体がある。

 ダメで元々だ。

 俺はその赤丸に椅子の足を突き刺した。

 するとドロドロが活動を停止する。

 そしてドロドロが地面にしみるように消えて行く。

 残ったのは椅子の足に刺さった赤丸だけ。

 赤丸は細胞核みたいなモノで、ドロドロの弱点みたいなモノだったのかな?

 とにかく俺は無事だ。

 どこからともなくファンファーレが鳴る。

 『レベルが2になった!

 "ちから"が3上がった!

 "みのまもり"が4上がった!

 "すばやさ"が3上がった!

 "まりょく"が2上がった!

 "かしこさ"が1上がった!

 "かっこよさ"はあがらなかった!

 "HP"が4上がった!

 "MP"が3上がった!

 "スキル"『思わせ振り』を覚えた!』


 ・・・わけわからん。

 たった一つわかった。

 『かっこよさはあがらなかった!』それだけは間違いない。

 RPGなら色んなパラメーターが上がったって事だろうが全然実感はない。

 わけはわからんけど弱くはなっていない、という事で今は横に置いておこう。

 しかし『思わせ振り』とはなんだろうか?


 ドロドロの弱点は理解した。

 この大草原には複数ドロドロが潜んでいるらしい。

 そしてドロドロはこちらに気付き次第、俺に襲いかかってくるらしい。

 何でそんな事わかってるかって?

 今、まさにドロドロに襲いかかられているからだよ!

 わかった事がある。

 ドロドロに触れられると着ている服が溶ける。

 そしてドロドロが肌に付くと何かヒリヒリする。

 酸性洗剤が手に付いた時みたいだ。

 わからん事だらけだが、ドロドロには俺に対する敵意があるみたいだ。

 だったらこちらも遠慮していたらヤバいな。

 俺は再び椅子を掴むと、赤丸目掛けて椅子を振り下ろす。

 木の部分がボロボロと朽ち落ちる。

 やべー、木はこのドロドロと相性悪いんだった。

 しかし赤丸は砕け散り、ドロドロが地面のシミとなり消える。

 今回はファンファーレは聞こえない。

 しかし前回と同じようにアナウンスは頭の中に響く。

 "スライムは薬草を落とした!"

 どうやらドロドロはスライムという名前らしい。

 そして、スライムがいたところにはほうれん草みたいな束が落ちている。

 スライムのどこに物を持っているんだ?

 手も足もなければ全身透け透けじゃんか。

 よくわからんが机にかけてある学生かばんにほうれん草(仮)を入れる。

 だって持っていて損はなさそうじゃん。

 どうしようか?

 むやみやたらに動くのは得策じゃない。

 だってホラー映画だって『こんなところにいられるかー!』ってヒステリーを起こすヤツがだいたい第一被害者だ。

 しかしここにはスライムがいる。

 スライムを倒さないで、ここにじっとしている訳にもいくまい。

 とにもかくにもここら辺のスライムを駆除しよう。

 そうすりゃしばらくここら辺は安全な空間・・・のはずだ。

 俺は自らスライム狩りを始めた。そう時間をかけずにスライムは見つかった。

 やっぱり俺の行動は正しかった。

 一匹ずつ確実に駆除するのには子供の頃、石をひっくり返した時にムカデがワラワラいた事を思い出したからだ。

 放置しておいたら、スライムをまとめて相手しなきゃいけない事になりかねない。

 そうなったら勝てる保証はない。

 倒せる時に一匹ずつ倒しておこう。

 どうやら逃げ回っても事態は好転しないみたいだ。

 逃げる場所が決まっているなら、そこまで逃げれば良い。

 でも今逃げ回っても疲れて力尽きる未来しか待っていない。

 だったら訳のわからん『レベルアップ』に希望を託そう。

 ドラクエでもレベルが上がった状態でアレフガルドに一人でいても全く危険はない。

 要はレベルが上がったらスライムなんてハナクソになる可能性も微粒子レベルで存在する。

 だからスライムを倒して回ろう。

 もしかしたら『スライムは逃げ出した!』ってくらいレベルアップするかも知れない。

 うーん、俺って天才。

 はっ!もしかしたら"かしこさ"が上がったから?

 って言っても1しか上がってないもんな。

 そんな事を考えていると次のスライムを見つけた。

 スライムに椅子を叩きつけると、椅子はバラバラに砕け散った。

 元々、そんなに強度は高くなかったようで、溶接してある部分が取れたのだ。

 仕方なく俺は椅子の部品である二本の鉄パイプを両手に持つ。

 足の部品の鉄パイプとか、背あての部品の鉄パイプの方が長いんだけど、その部分の鉄パイプは真っ直ぐじゃないから使いにくそうだ。

 二本の鉄パイプを持った俺は"二刀流"宮本武蔵の気分だ。

 『スライムに苦戦してる宮本武蔵とかどないやねん!』とか言うな!

 バラバラになった椅子の残骸を見て思う。

 もったいねーな、何かに使えないかな?と。

 いかん、いかん。

 考え方がゴミ屋敷の住人だ。

 『いつか使えるかも』とモノを溜め込み、しまいにゃモノだらけで身動き取れなくなる。

 机も椅子の残骸も、ここに置いて行こう。

 荷物は鉄パイプ二本と、学生かばん。

 取り敢えずはそれだけで充分だ。


 スライムを通算三匹倒した時にまた、どこからともなくファンファーレが鳴る。

 『レベルが3になった!

 "ちから"が2上がった!

 "みのまもり"が3上がった!

 "すばやさ"が4上がった!

 "まりょく"が3上がった!

 "かしこさ"が1上がった!

 "かっこよさ"はあがらなかった!

 "HP"が6上がった!

 "MP"が2上がった!


 "スキル"『流し目』を覚えた!』


 まただ。

 また意味不明のレベルアップだ。

 本当に身体能力が上がっているんだろうか?

 そして今回も"かっこよさ"は上がらなかったようだ。

 そして今回もクソの役にも立たないスキルを手に入れた。

 大体、一体誰に『流し目』を送るんだよ?

 スライムにか?

 ・・・次、スライムが現れたら試してみるか。


 スライムがあらわれた。

 俺はスライムに流し目を送ってみる。

 頭の中にアナウンスが流れる。

 『スライムに流し目を送った!

 スライムは驚き戸惑っている!』

 アナウンスはそういうが俺には通常のスライムと"驚き戸惑っている"スライムの見分けがつかない。

 俺はスライムの赤丸を鉄パイプで叩き壊す。

 やはりスライムは息絶える。

 『流し目』に何か効果があったんだろうか?

 少なくとも悪い効果はなかったみたいだ。

 しばらくスライム相手に『流し目』を使ってみよう。

 この調子でスライムを六匹倒す。

 ようやくレベルアップした。

 どうやらレベルアップすると次のレベルには沢山のスライムを倒さなきゃ到達出来ないらしい。

 段々とレベルアップしにくくなるシステムのようだ。


 『レベルが4になった!

 "ちから"が4上がった!

 "みのまもり"が2上がった!

 "すばやさ"が3上がった!

 "まりょく"が2上がった!

 "かしこさ"が1上がった!

 "かっこよさ"はあがらなかった!

 "HP"が8上がった!

 "MP"が3上がった!

 "スキル"『土下座』を覚えた!』


 ここまで来るとレベルアップの傾向が見えて来る。

 ①あんまり"かしこさ"は上がらない。

 ②もしかしたら"かっこよさ"は上がらないのかも知れない。

 ③"スキル"は漏れなくろくでもない。

 でも、生き残る上で、"ちから"とか"みのまもり"とか"すばやさ"が上がったら役に立つに違いない。

 アホでもブサイクでもこの際仕方がない。

 レベルが上がらなくなるまで、スライム狩りをここでやっておこう。

 しかし俺のアホでブサイクは決定事項なんだろうか?

 いやいや"晩成型"という事も有り得る。

 後から死ぬほど"かっこよさ"が上がるかも知れない。

 "かしこさ"は別にそんなに上がらなくても良いや。

 だって、脳ミソの中身が変わっちゃったら何か『俺じゃなくなっちゃったみたい』じゃない?

 自分じゃなくなるくらいなら、アホのままでも良いや。


 やっぱりレベルアップしにくくなってる。

 レベル5になるのにスライムを12匹倒さなきゃいけなかった。

 「スライムが近付いて来なくなったかな?」

 俺は実感し始めた。

 簡単にスライムを倒せるようになった・・・ような気がする。

 素早く動けるようになった、これは絶対気のせいじゃないだろう!

 上がったと言っても元の数値も知らなきゃ、どれだけ数値があれば一般的なのかはわからない。

 だがレベルアップが無駄じゃない、とわかっただけでもモチベーションになる。

 でもまだスライムが逃げ出しはしない。

 本当に逃げ出すものなのかは知らないけど。

 でもスライムには俺の『強さ』が見えているんだ。

 だから近寄って来なくなった。

 つまり強さを視覚化出来る技術は必ずある。

 それを手に入れれば危機察知になる。

 以前、こんな事を考えていただろうか?

 やっぱり『かしこさ』が微妙に上がっているんだろうか?

 ・・・そんな事を考えている時間はない。

 昼と夜で敵の強さが変わるのはお決まりだ。

 昼の内に強くなって、この大草原から移動しなきゃならない。

 そのためには、ひたすらスライムを倒してレベルアップしなきゃいけない。

 スライムが近付いて来なくなったから、スライムを探すのに時間がかかるようになったが、慣れとステータスアップで戦闘時間が半分以下になったから

結果的にスライム一匹を倒すまでの時間はそれまでよりも短縮された。

 「しかしもう二十匹倒してるのにレベルアップしないな」

 そう呟きながらスライムにとどめを刺す。

 思えば随分、余裕をかますようになった。

 最初のうちはスライムが出てくるだけでチビりそうだったが、今はスライムを探しながら鼻歌を歌っている。

 「腹が減ったな」

 そりゃ数時間動きっぱなしだ。

 今まで空腹を感じなかったのは緊張感からだ。

 緊張が和らいだら腹の虫も黙っちゃいない。

 「・・・とは言っても、食い物ってないぞ?」

 と学生かばんの中を漁る。

 薬草だらけだ。

 そういえばスライムが落とす薬草をかばんにとにかく詰め込んでいたんだった。

 机の上にかばんの中身の物を出す。

 教科書の類いが一切出てこない。

 学校の教室に勉強道具全てが置きっぱなしなんだ、筆記用具さえも。

 学生かばんから出てきたのは薬草と焼きそばパンとメロンパン。

 俺の血の気が引く。


 その日、早く目が覚めた。

 いつもなら遅刻ギリギリに校門に飛び込むがその日は余裕を持って登校した。

 いつもと違う光景。

 いつもならたまにすれ違う学生も遅刻しないように死に物狂いで走っている。

 今日、すれ違う学生達は笑顔で楽しそうに談笑している。

 30分早く起きるだけでこれだけ牧歌的な光景が広がっているのか。

 でも、学生にとって『30分余分に寝る』というのは、その後の地獄のような時間を覚悟する充分な対価となるのだ。

 時間には余裕がある。

 今日は正門の前のパン屋に寄ってみよう。

 どうせ昼休み、正門の前のパン屋は学校にパンを売りに来る。

 それを俺たちは『在庫処分』と呼んだ。

 店で売れ残ったパンを学校に売りに来る。

 だから、売られているパンは不人気全開だ。

 中には『わさびパン』『からしパン』みたいな罰ゲーム用のパンとしか思えないようなパンもある。

 しかし弁当を準備出来ずに遅刻ギリギリで校門に飛び込んだ生徒は自業自得、血の涙を流しながら『ジョロキアパン』などを買う。

 微妙に食べれる、毒じゃないパンを売るので質が悪い。

 かく言う俺も血の涙を流す側の生徒の一人だ。

 昨日は『ゴーヤパン』が買えた。

 『ゴーヤパン』はハズレパンの中ではまあまあ当たりと言われるパンだ。

 しかしもう一つのパン『イワシのたたきパン』が地獄だった。

 とにかく生臭い、生臭いなんてモノじゃない。

 そんな地獄の光景を思い出す。

 「今日は寄って行こう」

 俺はパン屋の門をくぐった。

 パン屋のお姉さん(おばさんと呼ぶとフランスパンで殴る)がこちらを見て驚いた顔をする。

 「アンタがこんな早くに店に顔を出すなんて!」

 昇降口横のパン売り場で、群がる生徒達をゴミを見るような目で見下して「さあ、選べ」としか言わない『お姉さん』が初めて俺を『人間』として見る。

 「パンを買うよ『おばちゃん』」

 俺はわざとらしく言う。

 『お姉さん』がパン屋で客相手に学校で(ゴミむし)を相手するような態度が取れないのは予想通りだ。

 『パン屋で"お姉さん"を"おばさん"扱いした命知らずが次の日から一週間、昼休みにフランスパンで殴られて、鮒寿司パンを買わされた。今に至るまでソイツは"お嬢様"と呼ばされている』と専らの噂だ、『お姉さんには逆らうな』と。

 そんな事はどうでも良い。

 俺は一時の快楽を選ぶ。

 『イワシのたたきパン』を買わされた恨みは小さくないぞ?

 『お姉さん』のこめかみには青筋が立っている。

 噛み締めた唇からはうっすらと血が流れている。

 「どうしたの、おばちゃん?

 顔色悪いよ?」

 内心、『俺、死んだわ』と思いながら『お姉さん』を更に煽る。

 実は『お姉さん』は『おばさん』というほど年齢は高くない。

 女子高生に彼氏を取られてた時に『じゃあね、おばさん』と言う捨て台詞を吐かれたのがトラウマになっていて、それ以来『おばさん、おばちゃん』と言う単語にナーバスになっている。

 それ以来高校生を敵対視していて、男を敵対視している。

 男子高校生ときた日にはまるで不倶戴天の敵だ。

 そんな『お姉さん』が男子校にパンを売りに来て、まともなパンを売る訳がない。

 『シュールストレミングパン』とか仕入れ原価だけで100円でおさまる訳がない。

 高校生に、男に嫌がらせが出来たら金儲けなんてどうでも良いのだ。

 その執念深い性格だから男に逃げられたんじゃねーかな?なんて誰もお姉さんには言えない。

 俺は焼きそばパンとメロンパンを乗せたトレーをレジの上に置き「これなんぼや、オバハン」とお姉さんに聞く。

 なんちゃって関西弁を話すがユニバにすら行った事はない。

 「・・・220円です」

 お姉さんの背後の空気が殺気で歪んでいるような気がする。

 「アンタ、私にこんな事言って・・・覚えてなさいよ」お姉さんが小声で呟く。

 「アカンなー、オバハン。

 お客さんにそんな凄んだら!」俺はお姉さんに煽り散らす。

 俺は勝ち誇ったように焼きそばパンとメロンパンが入った紙袋を学生かばんの中に入れてパン屋を出たのだ。

 でも早起きした俺はすぐに睡魔に襲われた。

 ・・・で、授業が始まったらすぐに机に突っ伏して寝たんだ。

 で、起きたら大草原の真ん中だ。

 『これは夢だ、夢に違いない』という考えはどこかに常にあった。

 でもスライムに攻撃されたら痛い。

 痛いのは嫌だ。

 それに万が一、夢じゃなかったら?

 夢の中で死んだら現実に戻れないんじゃないか?

 そう思ったら手を抜く気にはならなかった。

 『焼きそばパンとメロンパン』

 このふざけた世界が現実と続いている証拠が目の前にある。

 もう認めざるを得ない。

 『これは夢ではない』と。

他に投稿してる小説が『一週間に一回』の無理をしないペースです。

そうすると暇をもて余しちゃうんですよね。

・・・で、他にも小説を書き始めたりして。

でも空いた時間で書いてるだけだから、かなり不定期更新ですけど。

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