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第19話

視察隊は時折休憩を挟みながら6時間ほど走り、日が暮れる前に野営の準備を始めた。

野営地に選ばれたのは乾燥した砂地が広がった場所で、王都周辺より少し気温が低いため、暖を取るのと明かりも兼ねて夜通し焚き火をするらしい。


クロエは、ミャオス隊長から焚き火に使う木材を拾って来るよう指示され、野営地から少し離れたところにある林でなるべく乾燥した木材を集めてきた。

木材を持って帰って来ると、野営地にはいくつものテントが張られ、すでに焚き火もいくつか起こされていた。

焚き火の上には鍋がかけられ、美味しそうな香りのスープが煮込まれて、パンとともに夕飯として兵士たちに配られた。


クロエは焚き火の側に座り、美味しいスープに舌鼓を打ちながら考えていた。

「もしかしたらみんなで地面に雑魚寝するのかと思っていたけど、ちゃんとテントがあるみたいでよかったわ……。でも、当たり前だけどテントは人数分あるわけじゃないし、自分の隊のテントで雑魚寝するみたいね……。」


一つのテントの中で大勢の兵士と雑魚寝するのは、曲がりなりにも年頃の女子としてはかなり抵抗があるし、それに何かのはずみでクロエが偽兵士であることがバレやしないかという心配もあった。

「まあ、一晩だけだし、あんまりぐっすり寝ないようにして、バレないように気をつけるしかないわね……。」


クロエがそんなことを考えていると、ミャオス隊長がきて、食事をしている隊員たちに向かって話し始めた。

「この近くの林の中に温泉が湧いているらしく、入りたい者は隊ごとにまとまって順番に入っていいということになった。うちの隊はこの後使っていいようだから、入りたい者は早めに食事を済ませて温泉に入り、1時間以内に戻って来るように。」


温泉と聞いて、クロエはものすごく心惹かれた。

何しろ今日は、荷物の積み下ろしや木材集めなどでかなり汗をかいたし、荷車に乗っている間中乾燥した風を浴び続けていたので、身体中に砂や埃がついてかゆかったのだ。

しかし、当たり前だが兵士たちの前で裸になるわけにもいかないし、残念だが温泉は我慢するしかないだろう……。


クロエは、同じ隊の隊員たちがさっさと食事を済ませて温泉に行くのを恨めしそうに見ながらゆっくりと食事を済ませると、ミャオス隊のテントに入り、隅の方にうずくまって目を閉じた。

「テントの中とは言っても、敷布団どころか掛け布団もないし、地面は硬いし。こんな場所じゃ、とても寝付けそうにないわね……。」


しかし、慣れない兵士の仕事で自分で思っているよりだいぶ疲れていたクロエは、目を閉じるとあっという間に眠りに落ちてしまったのだった。


*****


クロエが目を覚ますと、テントの中にはミャオス隊の兵士達がいて、それぞれ適当な場所で仮眠をとっていた。

寝ている隊員たちを起こさないようそっとテントから出てみると、あたりはまだ真っ暗で、見張り担当の兵士が巡回している他はみんな寝ているようだった。


「もしかして、今なら誰にも見られずに温泉に入れるんじゃないの……?」

寝汗をかいたのか、寝る前よりさらに体が痒くなっていた。

入れるものなら、今すぐ温泉に入って汗とホコリを洗い流したい。

クロエは慎重に辺りを見回して、巡回の兵士にも気づかれないようにそっと野営地を出ると、温泉があるという林の方に向かっていった。


林の中はもっと暗いかと思っていたが、月明かりがしっかり地面を照らしてくれたので、思ったより歩きやすかった。

林の奥へ進んで行くと、どこからか水の音が聞こえてきた。

「温泉の水の音かしら……?」


音を頼りに進んでいくと、音が近づくと共に木が少なくなって視界が開け、そこに本当に温泉が湧いていたのだった。

温泉はかなり広く、奥行きがありそうだ。

お湯の温度が高いのか、真っ白な湯気が立ち込めていて水面が見えない程だった。


「よかった、やっぱり今は誰もいないみたい。今のうちに、さっさと入っちゃおう……。」

クロエは温泉のそばの大きな岩の陰で静かに服を脱ぎ、ネコ耳とシッポを外すと、足先からそっと温泉に入った。かなり熱めの温泉だったが、熱いお風呂が好きなクロエにとっては丁度いい湯加減だった。


「あー! いいお湯〜! 最っ高!!」

クロエは思わず大きな声で独り言を言いながら、ザブザブとお湯で顔と髪を洗った。


「誰だ!?」

湯気の向こうから、突然男の声がした。

クロエはあまりにびっくりして身動き一つできず、息を止めて湯気の向こうから人影が近づいて来るのを凝視していた。


「なっ……、クロエ!? なんでこんなところに!?」

湯気の向こうから現れたのは、なんとレオンだった。

護身のためか、温泉の中だというのに剣を持っている。

クロエもびっくりしていたが、レオンも相当驚いているようだった。

2人はしばらく無言でお互いを凝視していたが、先にレオンが正気を取り戻し、後ろを向きながら慌てて謝った。


「す、済まない! 見てないぞ!」


……見てない?何を?

クロエはまだ少し混乱していたが、だんだんと状況を把握して行くうちに、自分が裸であることを思い出し、大きな悲鳴をあげたのだった。


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