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第1話

第1話「獣を統べる乙女」


突然の強い光に、思わず目を閉じる。

体が軽くなって浮き上がるような感じがした後、しばらくしてまた重力を感じた。

おそるおそる目を開けると、そこはクロエが先程まで倒れていたはずの道路ではなく、神殿のような建物の中だった。


建物と同時に目に飛び込んできたのは、床に倒れているクロエを覗き込むように見ている4人の男たちだった。

「なに? この超絶イケメンたちは……。なんだかみんな変な髪の色だし、ウサギとかネコみたいな耳としっぽをつけて仮装してる……。それに、何故みんなそんなに驚いた顔でこっちを見ているの?」

4人のうち、フワフワの茶髪に丸っこい耳をつけた少年が、最初に声を上げた。

「伝説は本当だったんだ……。本当に、獣を統べる乙女が僕たちの前に現れた!」


獣を統べる乙女?

つい最近、どこかでその言葉を聞いたような気がする。

どういう意味か聞きたかったが、まだ体に力が入らず、うまく声が出せなかった。

「父上が、最後の力を使って異世界から転生させたんだろう。それにしても伝説の通りだ。本当に美しい……。」


今度は、ピンクがかった白髪にウサギのような耳をつけた、優しそうな雰囲気の青年がつぶやいた。

「この女を手に入れた者が次の王か……。なら簡単なことだな!」

グレーの髪にイヌのような耳を付けた、鋭い目をした青年は、そう言うやいなやクロエの手を掴んで強引に引き寄せようとした。

「痛い! やめっ……」

乱暴に捕まれた手が痛くて、クロエはやっと声を出すことができた。

「やめろ! 手を離せ!」

金髪で浅黒い肌にネコのような耳を付けた青年が、クロエを庇うように間に入った。

「こんな、何処の馬の骨とも知れない女に次の王を決めさせるなど、馬鹿げている!

今すぐ送り返せば、まだ間に合うかもしれない!」

……助けてくれたのかと思ったが、馬の骨呼ばわりされたということは、どうもそういうわけでも無いらしい。


とにかくやっと声が出るようになったクロエは、先ほどからずっと聞きたかったことを尋ねた。

「あの、ここはどこなんですか!? あなた達はだれ? 私、さっき事故にあって、記憶が混乱しているみたいなんですけど……。」

そう言いながら、改めて自分の体を見た。

そうだ、私は車に轢かれそうな猫を助けようとして事故に遭ったはずだ。

結構ひどい怪我をして、あちこちから血も出ていたはずだが、今見たところ服が多少破れているだけで、おかしなことに怪我はどこにも見当たらない。


「……っあ!それより、あの猫は!?」

助けようとした猫は無事だったのだろうか。

ずいぶん弱った様子で、フラフラと車道に飛び出したのを見つけて、慌てて駆け寄ったところまでは覚えている。

「猫? ……それってもしかして、ライオンだったんじゃないかな?」

茶髪の少年が突拍子もないことを言い出した。

「ライオン?いえ、そんな大型の獣じゃなくて、ちょっと大きめの猫だったと思うけど……。確かに顔周りの毛がフサフサで、タテガミみたいだなぁとは思ったけど。」

ピンクがかった白髪の青年が、説明するように言った。

「それはおそらく、僕らの父、ライオン族のライオネス13世だろうね。父は誰よりも強い力を持っていたけど、死ぬ間際に異世界に飛んだので、そちらの世界では元の形を保てず、猫くらいの大きさになってしまっていたんだろう。」


……この人は何を言ってるんだろう?

異世界とか王とか、しまいにはライオン族ですって?

ファンタジー小説のような単語ばかりで、うまく頭に入ってこない。

戸惑っているクロエの様子を見て、また白髪の青年が口を開いた。

「混乱させてごめんね。簡単にいうと、君は多分その事故で死んだんだけど、そのライオンの力でこの世界に転生してきたんだ。」

……簡単にと言われても、ますます意味がわからない。

死んだ?転生?この世界って?


白髪の青年が続けて言った。

「ここは獣人の国グラーディ。まずは自己紹介させて?

僕はグラーディの第1王子、ウサギ族のラヴィ。それで、こっちは……。」

グレーの髪の、鋭い目をした青年が口を挟んだ。

「自己紹介くらい自分でする。俺はオオカミ族のウォルフ。第3王子だ。」


続いて、茶髪の少年が元気よく手を上げた。

「はいっ!僕はクマ族のリンネ。第4王子だよ!ねぇ、君の名前も教えて?」

「え?…あ、黒江…です。」

「可愛い名前だね!クロエ、グラーディに来てくれてありがとう!」

リンネはニコニコと笑いながらクロエの手を取り、ごく自然な流れで手の甲に口付けようとした。

「だから止めろ!」

またしても金髪の青年が、クロエを庇うようにリンネとの間に入り込んできた。

「挨拶しようとしただけなのに……。レオンは固いなぁ。」

リンネは渋々といった表情で引き下がった。


レオンと呼ばれた青年は、クロエの方を振り返るとグッと顔を近づけて、ほとんどささやくように言った。

「クロエ、俺は第2王子でヒョウ族の……レオンだ。」

レオンは何か言いたそうな目でじっとクロエを見つめているが、クロエはと言えば、全くもって状況に着いて行けず、ただただ混乱していた。

それでなくても戸惑っているクロエに向かって、ラヴィはさらに混乱させるようなことを話し始めた。

「いきなりで申し訳ないんだけど、君には伝説の【獣を統べる乙女】として、僕たちのうち誰かを選んで、結婚して欲しいんだ。」

4人は真剣な眼差しでクロエを見つめているが、クロエは4人が話したことを復唱するだけで精一杯だった。

「えっと、私は死んで、転生して……獣を統べる乙女で、結婚……!? もう、なにがなんだか……」


次から次へと繰り出される突拍子もない話をなんとか理解しようとしてうちに、クロエはまた頭がクラクラしてくるのを感じ、そのまま気を失ってしまったのだった。



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