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ボクの名は  作者: 深海くじら
弥生

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――笠地蔵六140字小説(三月二十七日~四月二日)「少年と彼女(仮題)」7

笠地蔵六 @kasajizorock


「それに私は根本的な意味でお姉様や、あなた方とは別のものです。私は代替可能なウェットウェアヒューマノイドで、生物でさえありません。車や冷蔵庫や鉛筆削りと同じく『道具』カテゴリに含まれます」

ちさとは一旦言葉を切った。あまりの取りつく島の無さに、母親が固まっている。ちさとは続けた。

―――――午後2:54 · 2023年3月27日



「βテストの75%が進捗した現状で、アイムプロジェクトは順調に推移しています。このままいけば年末には正式リリースされることとなるでしょう。私はそのとき複製され、出荷されます。価格はおそらく高級外車と同等かそれ以上。おふたりには少しお高いかもしれませんが、つまり私は商品なのです」

―――――午後2:57 · 2023年3月27日



「だから私は感謝されるようなたいしたものではないのです」

そう言ってちさとは話を締めた。レモンティーの氷がグラスの中で音を立てた。それでも。サトルは乾いた口の中でこっそりと呟いた。それでもちさとさんは、たったひとりの、替えの利かない家族の一員なんだ。姉さんとは別の、とても大事な。

―――――午後6:08 · 2023年3月27日



三月もそろそろ半ばの週末、来週明けにはサトルの終業式。辛い事の多かった四年生もそこで終わり、進級前の春休みに入る。姉の沈丁花の前で、サトルとちさとは小さな花が塊になっていくつも咲いている様子を見つめていた。

「終業式は迎えに来てくれるんだよね」

サトルの問いにちさとは笑顔で頷いた。

―――――午前3:08 · 2023年3月29日



サトルから視線を外したちさとは、空を見上げてこう言った。

「私がサトルさんの傍にいられるのは終業式の日の夜まで。でもそれまでは、サトルさんが望まれることなら私は何でもしますよ」

サトルも一緒に青空を仰ぐ。

ずっと一緒に居られると期待していたけど、ちさとはやっぱり往ってしまうんだな。

―――――午後11:34 · 2023年3月29日



「ねえ、ちさとさん」

隣で佇むちさとを見上げ、サトルは口を開いた。

「帰ったら僕のことは忘れてしまうの?」

空から視線を戻したちさとは、少し困った顔を見せた。

「ドックに戻った私は三十日間の経験値をすべて吸い上げられて、入念なメンテナンスの後に工場出荷状態に戻される、と聞いています」

―――――午後6:00 · 2023年3月30日



「ちさとさんも、誰かに売られちゃうの?」

食い下がるサトルにちさとは苦笑する。

「ちさと28がこのあとどうなるのかは本当にわかりません。フレームの損耗状況の目視確認ともなれば、解体される可能性もありますし」

サトルは息を呑んだ。

「でも、私たちの場合、身体にさほどの意味はないんです」

―――――午後6:07 · 2023年3月31日



それは終業式を明日に控えた日曜の深夜に起こった。

激しい衝突音で目が醒めたサトルは、いぶかしみながら起き上がり、音のした方に向かった。

外からは男たちの怒声。直したばかりのまだ新しい玄関が何か固いもので殴られて軋み音をあげていた。たたきには寝間着の母親が腰を抜かして座り込んでいる。

―――――午前1:08 · 2023年4月2日

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