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ボクの名は  作者: 深海くじら
弥生

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六十三話 瑞稀、春分(八)

 あーーー、つっかれたあ。


 と、思わず大声で弱音を吐いてしまうくらい、今週は疲れました。もう、へとへとです。

 半年分の部署売り上げを案件ごとにまとめて、営業さんたちが一年間後小大事に貯め込んでた名刺の束を入力した上にグループ分けまで指導して、そういうのも全部込みの引き継ぎ文書を個人別に作って、年度末時点での継続案件と残すべき資料と破棄するものの仕分けを済ませて……。みたいなこと全部を毎晩十時近くまでやってたら、いつの間にか金曜日の夜になってました。

 今まで四年間ずっと、うちはホワイト企業だって思ってましたけど、やっぱりブラックなとこもちゃんとあるんですね。なんか変なとこで感心しちゃった。こんなのがあと数日でも続くなら、私、新しい仕事先探さなきゃ。


 それにしても帰り際に投げられた営業部長の言葉にはイラっとしましたよ。かなり、いや相当。


「お疲れ様。週末は彼氏に癒してもらって、しっかり充電してきてね」


 悪気が無いのはわかってる。でもデリカシー無さ過ぎでしょ。考え方も古臭過ぎ。そんなんだから、うちは営業が弱いとか言われちゃうのよ。なぁにが彼氏に癒されて、よ。そんなのいないし、必要ありませーん。


          *


「よかったやなか。もう来週からはそんオヤジとは会わんでよかやろ」


 カウンターの内側で閉店作業中の栄さんが相槌を打ちました。


「そう! それだけが救いですよね。ホント、あのセクハラおやじに毎朝挨拶しなくてすむと思ったら、せいせいします」


 瑞樹も相当溜まっとぅなぁ、と呟く栄さん。

 そりゃ溜まりもしますよ。三月、めちゃくちゃハードでしたもん。そう返した私は、最後に残しておいた揚げ団子を口に放り込む。


「で、来週からは、いよいよ光陽(ミツル)ん下でチーフさん」


「そーなんですよぉ。そっちはそっちでめちゃめちゃ緊張します。てゆーか栄さん、灰田さんって苦手なものはなんですか?」


 最後の皿を取り上げて手洗いする栄さんに、私は気持ち詰め寄ります。


「そう言われたっちゃ、うちの知っとぅとはもう十五年以上も前んことだけやけん参考にはならんばい。それよりも、今日はもう帰りんしゃい。瑞稀ここんとこ酒量ば増えとぅと。明後日(あさって)は久しぶりに壁捩るっちゃけん、少しは体調整えな」


 たしかに。この前ここで酔いつぶれた辺りから、お酒の量は増えてるかも。

 ミツルんごたぁそんときでも話しちゃるけん、という声に送られて、私はおとなしくパークライフを後にしました。

 夜空を見上げると、西の空に右頬だけ腫れたお顔のお月さまが黄色く光ってる。

 うん。明日からは四月だ。

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