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ボクの名は  作者: 深海くじら
弥生

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――月波140字小説(三月十三日~三月十九日)「エミールの旅」5

月波 @tsukiandnami


雪の溶けた草地で白い花がつけた蕾を見つけた翌日、ようやくリヒラが言った。

「二日後にここを発つ。明日はみなに別れの挨拶をしてきなさい」

その言葉を聞いてボクは動揺した。母さんの薬を買いに出かけた筈なのに、ひと冬共に過ごしただけのここの人たちと別れるのがこんなにも寂しく感じるなんて。

―――――午後8:31 · 2023年3月13日



裁縫仲間の人たちは、ボクにパッチワークのチョッキをくれた。各々が縫い込んだ刺繍入りのパッチが、一枚ずつ編み込まれている。

炊事場の女主人は片手鍋を持たせてくれた。

妊婦さんは手づくりの首飾りをくれた。何も返すものの無いボクは、お腹の子のために愛用のタオルで即席のぬいぐるみを縫った。

―――――午前1:48 · 2023年3月15日



まだ風は冷たいが、足元の地面には確実に春の訪れが感じられた。ボクとリヒラは黙々と歩いた。冬の間に少し太ったカリは車輪が小さい橇を引くのに難渋していたので、ボクらは交代で後ろを押してやった。

「またどこかの村に寄るの?」

尋ねるボクにリヒラは応える。

「もうひとつだけ。街はその先だ」

―――――午後6:00 · 2023年3月15日



道の先で煙が上がっていた。村?と聞くボクに、リヒラが決然と言った。

「まだ早い。エミール、お前はカリと林の陰に隠れて、いいと言うまで出てくるな」

ボクの返事を聞く前にリヒラは駆け出した。道を外れて灌木に隠れるようにしながら。カリを引いて言われた通り隠れたボクは煙の方に目を凝らした。

―――――午後6:32 · 2023年3月16日



リヒラはなかなか帰ってこなかった。煙は少し前に収まっているのに。心配になったボクが樹々の陰から顔を出そうとしたら、カリがボクの服の裾を咥えて引っ張った。リヒラに言われたことが解っているのか。ボクは座り直す。でも、待てるのはあと少し。暗くなる前に寝場所をつくらないと、凍えてしまう。

―――――午後10:15 · 2023年3月17日



陽が沈み切る前、ボクがとりあえずの野営準備を済ませたところでリヒラが戻ってきた。

「よく準備をしておいてくれた」

見ると服のあちこちが裂けており、血の匂いがした。緊張の糸が切れたボクは、待ちぼうけさせたリヒラを感情のままに詰ってしまう。すまない、と応じるリヒラの後ろに人影がいた。

―――――午前7:05 · 2023年3月19日



「とりあえず、何か暖かいものをつくってくれ」

リヒラに言われ、ボクは火を熾して腸詰と野菜の塩スープを準備した。つくりながら横目で男の子をのぞき見していた。たぶん同い年くらいの男の子。上等そうな服を着てるけどなんか汚れてる。頬に泣き跡があった。ずっと黙ってる。なにがあったんだろう?

―――――午前0:21 · 2023年3月20日

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