表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクの名は  作者: 深海くじら
睦月
7/95

――笠地蔵六140字小説(一月一日~八日)「無題」

笠地蔵六 @kasajizorock


求めよ。さらば与えられん。

きみはこの言葉を教会で聞いた。夏休みの帰省先。弟と二人、四つ年上の従姉に誘われて。マタイ伝の七というのがゲームの呪文みたいだったけど、小二のきみにはよく意味はわからない。ただ、ステンドグラスに照らされた従姉の横顔を見て、来てよかったって思ったんだよね。


午後6:00 · 2023年1月1日

笠地蔵六 @kasajizorock


いつからだろう。きみが弟と遊ばなくなったのは。

きみらは小さな頃から一緒だった。寝るのも一緒、起きるのも一緒。好きな食べ物もゲームの好みも。だって双子だからね。

最初に変わったのはあのとき。小二の終業前にきみは車に跳ねられた。ふた月遅れで進級したきみが見たのは、クラスで人気者の弟。


午後5:58 · 2023年1月2日

笠地蔵六 @kasajizorock


転校生が教室に馴染んできた。ピンクのデニムスカートがトレードマークの涼しい目をした女の子。身長普通で脚も早くないきみは、勉強こそできるけどモブのまま。彼女はあっという間にカースト上位。自信が無いから告白なんて夢の夢。中学になったら勇気出すと決め、きみは密かにパワーリストを買った。


午後10:15 · 2023年1月3日

笠地蔵六 @kasajizorock


今日の体育は水泳。きみは苦手じゃないけど得意でもない。でも背泳ぎならいけるだろ。温水プールで特訓してたから。

「今日は平泳ぎでタイム測るぞ」

あれ、話が違う。結果は散々。ジタバタするきみの隣を蛙のように過ぎていく双子の弟がプールサイド女子の声援をひとり占め。むろん、あの娘の賞賛も。


午後10:06 · 2023年1月4日

笠地蔵六 @kasajizorock


卒業式。ピンクのデニムも今日で見納めだ。結局、小学校にきみのステージは無かったね。噂を耳にして受験に挑戦したきみだけど、満開の彼女をよそに、きみの桜は散り終えた。まあ元気出せよ。別に人生終わったわけじゃない。冬の計測でも、千五百なら悪くないタイムが出てたじゃないか。次行こう、次。


午後5:15 · 2023年1月8日

笠地蔵六 @kasajizorock


油絵の道具って大人な気がする。木製のカチッした箱を開けると、十二色のチューブと薄黄緑色の油が入った小さなガラス瓶、堅くて白い毛先の絵筆が太いのと細いの何本か。友だちの薦めでなんとなく入った美術部だけど、敷地の端っこにある木造校舎はきみの趣味に合ってる。イーゼルの横の窓を開けよう。


午後9:57 · 2023年1月5日

笠地蔵六 @kasajizorock


クラスの女子に呼び出されたきみは、どきどきしながら校舎裏に回る。きみが好きな人形みたいに可愛いあの子と仲良しの子たちだったし。

「彼女のことじろじろ見るの止めて。気持ち悪い」

いきなりそんなこと言われると思ってなかったきみは、何も言い返せなかった。悪意に触れると立ち竦むしかないね。


午後9:17 · 2023年1月6日

笠地蔵六 @kasajizorock


「双子のお兄ちゃん、三年女子で人気だよ。がんばってね」

「お前に一票入れるから、道場の控室を良くしろよ」

見知らぬ上級生が擦れ違いざまにそんな声を掛けてくる。クラスでは地味なきみも、周りから見たら期待の星なのかもね。あの万能王子のお兄ちゃんだし。ひとの褌でもいいよ。選挙に勝てれば。


午後8:49 · 2023年1月7日



https://twitter.com/kasajizorock/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ