――月波140字小説(二月二十日~二月二十六日)「エミールの旅」2
月波 @tsukiandnami
勉強を教わるようになって半月、ボクは疲れを翌日に残さなくなってきた。母さんからも、エミールは血色が良くなったと言われた。なぜか解らないけど、身体が伸びやかになった気もする。冬になって畑仕事が無くなったからだろうか?それとも、毎日勉強してるからかな?そう言えば、勉強の方も調子いい。
―――――午後6:28 · 2023年2月20日
リヒラが村に来てひと月、ようやく課題を早くできるようになったボクは、まだ半時間近く残っていたので答案を持って家に向かった。リヒラは母さんを診てるはず。
家の外には父さんが立っていた。黙って家を向き、拳を握りしめ。中から母さんの悲鳴が聞こえた。飛び込もうとしたら父さんに抑えられた。
―――――午前1:18 · 2023年2月22日
母さんの悲鳴は犬の遠吠えに似ていた。断続的に上がり、時折切なげな尾を引くように伸びて消える。
「母さんは今、注射をされている。そこには誰も入ってはならない。父さんも、エミールも」
青草広がる家の前で父さんとふたり立ち竦んでいた時、ボクは下腹部に違和感を感じた。何かが流れ出している。
―――――午後6:51 · 2023年2月22日
腰が重く倒れ込みそうなボクを抱え上げ、父さんは家の扉を叩く。母さんの悲鳴が途切れ、しばらくするとリヒラが現れた。
「ミナーシュがはじまった。リヒラ、どうすればいい?」
リヒラは父さんとボクを家へ迎え入れ、寝椅子に誘導した。
その日の午後、父さんはリヒラと一緒に風呂を沸かしてくれた。
―――――午後7:22 · 2023年2月23日
久方ぶりの入浴でボクは随分と楽になった。出血もひとまず止まっている。でも腰はまだじゅくじゅくするし、身体もだるい。寝台には藁が追加され、食事もそこで体を起こして食べた。ボクも病気になってしまったの?母さんのが伝染ったのかな?でも大人たちはみな歓んでいる。ボクにはワケがわからない。
―――――午後6:30 · 2023年2月24日
「エミリー、あなたは一人前の大人になったのよ。あの血はその徴」
母さんがボクの腰を撫でながら言う。その名で呼ばれるのは久しぶり。なんだかくすぐったい。
「体の不調はじき治る。ただこれからは、ひと月に一回これが来るから覚悟してくれ」
リヒラがそう言った翌週、母さんの体に斑点が浮いた。
―――――午後6:30 · 2023年2月25日
斑点は、最初は小さかった。墨を塗ったみたいで、数日で掠れて消えてしまった。
ボクの勉強も母さんの治療も続く中、季節は夏の盛りが近づいていた。三回目のアルハイド(ミナーシュは最初のアルハイドという意味らしい)を迎えた頃、母さんが頻繁に吐気を催すようになった。と同時に斑点も広がった。
―――――午後10:22 · 2023年2月26日




