――笠地蔵六140字小説(二月十三日~二月十九日)「少年と彼女(仮題)」1
笠地蔵六 @kasajizorock
今にも雨が降り出しそうな重い雲の下、少年はブランコに座っていた。
黒光りする鎖に両手を掛け、漕ぐでもなく、ただ足元を見つめたまま。
街灯に灯がともり、オレンジ色の光に落ちてきた水滴が映る。それでも動こうとしない少年の視線の先、徐々に黒くなる地面の上に、ブーツの爪先が踏み込んできた。
午前1:30 · 2023年2月14日
|
|
|
笠地蔵六 @kasajizorock
少年の前に歩み寄ったのは白いトレンチコートを纏った若い女性だった。人間離れした整った容姿、一分の隙も無い完璧な立ち姿の彼女は、少年に向かって口を開く。
「ヤマキサトルさんですね。私はちさと28。ちさととお呼びください」
ちさとと名乗る女はその場でしゃがみ込み、少年の顔を覗き込んだ。
午後8:04 · 2023年2月14日
|
|
|
笠地蔵六 @kasajizorock
無言で鎖を握りしめて身体を固くする少年の顔を、ちさとは両手で挟みこんだ。顔をしかめる少年。左目の腫れている。鼻を触れるほど近くに寄せて、ちさとは話しかける。
「目を開いて私の瞳を見て」
気圧された少年は、言葉に従う。
「光彩認証クリア。ゲノム認証クリア。ヤマキサトルを同定しました」
午後11:46 · 2023年2月15日
|
|
|
笠地蔵六 @kasajizorock
女は少年に宣言した。
「ヤマキサトルさん。あなたは年齢性別その他個人的属性に一切関係なく、PSモニターに選ばれました。私ちさと28は、今この瞬間からあなたをマスターと認定して、三十日間計七百二十時間お仕えします。一日二時間のメンテナンスインターバルを除き、私を自由に使役できます」
午後8:52 · 2023年2月16日
|
|
|
笠地蔵六 @kasajizorock
「自由に?」
女の言葉尻に反応して顔を上げた少年は、初めて口を開いた。はい、と頷く女。
「なんでも?」
女は少しだけ小首を傾げてから、はっきりと答える。
「PSが準拠する基本原則を逸脱しない限りは、なんでも、です」
身を乗り出した少年は女に尋ねた。
「例えばお義父さんを殺して、でも?」
午後6:30 · 2023年2月17日
|
|
|
笠地蔵六 @kasajizorock
「サトルさん、とお呼びしていいですか?」
少年は頷いた。
「サトルさんのお義父さん、ヤマキミチオさんを殺害する命令は、基本原則第一条「特例条件を除いて、ILv四以上の存在を損なってはならない」に反しますので、残念かもしれませんがお受けすることができません」
午後7:51 · 2023年2月18日
|
|
|
笠地蔵六 @kasajizorock
明らかに落胆する少年に女は、でも、と続けた。
「サトルさんが90sエクストラレベルの登録を行い特例条件を満たせば、例外も期待できます」
「90sエクストラレベル?」
「はい。私たちは90sと呼んでおりますが、これは0〜5の六段階で構成されるILvの上位にユニークを設定することです」
午後11:44 · 2023年2月19日




