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ボクの名は  作者: 深海くじら
如月

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二十九話 瑞稀、立春(六)

 持ってきたレモン酒「月波」は大いに受けました。レモンの風味も甘さや苦みの具合も褒めていただき、私としては大満足です。そうそう、オリジナルのラベルも気に入っていただけたようです。

 みんなで持ち寄ったおつまみも乾き物、焼き物、漬物、スナックといろいろあって、まさにオトナの修学旅行といった楽しい時間を過ごしました。



 行きの新幹線からずっと飲んでいたという清水さんが白旗を挙げたところで部屋飲み会はお開きとなり、私も自分の部屋に戻ります。ときどきスマートフォンをチェックしていたのですが、栄さんからの連絡はありません。部屋の鍵は私が持っているから、戻ってきていれば必ず連絡が来るはず。まさか部屋の前で酔いつぶれているとか。そのような場面を思い浮かべてしまい急いで戻ったのですが、もちろんそんなことはありません。

 一日歩いて掻いた汗や髪についた焼肉の匂いを落としたいけれど、シャワーやお風呂を使ってるときに栄さんが帰ってきたら危ない格好でドアを開けないといけなくなる。女性として、それは流石に避けたいです。だから私はメッセージを投げるだけしておいて、あとはしばらく待つことにしました。


 窓側のベッドに寝っ転がってスマートフォンをいじっていたら、さっきツイートした部屋飲みの画像(おつまみやら「月波」やら)にいいねが付いていました。つけてくれたのは笠地蔵六さん。SFやマンガに詳しい学生さんですね。そう言えば蔵六さん、たしか就職試験に受かったんじゃなかったっけ。そんなツイートを見た気がします。

 ちょっと遡ってみたら、確かにありました。社長さんに肩叩かれたって書いてある。私の記憶と注意力、たいしたもんです。


 たぶん酔っぱらってたんですね。私はなぜか、ツイッターのDMを開いて蔵六さんにメッセージを送りました。



――――

月波 @tsukiandnami


就職おめでとうございます。大きな心配事が栗やになりましたね。おめでとー


午前12:21 · 2023年2月12日

――――



 こんな短い文なのに、いいねへの御礼は書いてないわ、変換ミスはあるわとめちゃくちゃなメッセージですが、判断力の鈍った私はそのまま送りました。

 そのあともタイムラインを追い続け、清水さんや谷下さん、さのさんが今日送ってた銀色少女や焼肉の画像や神戸港の夜景を眺めながらにやにやしていたら、スマートフォンが震えました。

 栄さん?! と思ったらDMの返信。



――――

笠地蔵六 @kasajizorock


こんばんは&ありがとうございます。おかげさまで新年度からの仕事先が確定しました。ホントひと安心です。

 月波さん、今は神戸ですか? 楽しそうなオフ会画像、拝見しましたよ。いいなあ。うらやましい。そのうち僕もどこか行って羨ましがらせなくちゃw


午前12:38 · 2023年2月12日

――――



 蔵六さんです。大学生ってホントヒマなのね。でもすぐに返信貰えると普通に嬉しい。この嬉しさはお返ししなきゃ。



――――

月波 @tsukiandnami


変身ありがとうございます。オフ会たのしいです。みなさんやさしいしたのしいし。明日も神戸回りますよ


午前12:42· 2023年2月12日

――――



 知能指数、だいぶ下がってますね、私。

 すると、返信とは思えない早さで次のDMが着ました。


――――

笠地蔵六 @kasajizorock


月波さんラベルのお酒、いいですね。かっこいい。アレ、前に漬けてたレモン酒ですよね


午前12:42· 2023年2月12日

――――



 お。学生さん、いい目の付け所だね。



――――

月波 @tsukiandnami


そーでーす。美味しかったですよー。余ったからお土産でやしたさんにあげちゃいました。おうちでのんでもらえるといいなー


午前12:43 2023年2月12日

――――



 投げやりな返事を送るだけ送りそのまま返信を待っている数瞬の間で、私は眠りに落ちてしまいました。





 振動音で目が醒めたら朝七時を過ぎていました。

 スマートフォンを起動させると、開きっぱなしだったツイッターに何通かDMが溜まってます。オフ会グループでは、早くもおはようが飛び交っていますし、蔵六さんからも二通ほど届いていました。

 グループに挨拶だけ返し、私はLINEを確認します。栄さんからは……二通届いていました。午前二時過ぎのタイムスタンプ。



********************************************

連絡が遅くなってごめん。今夜はこっちに泊まります。チェックアウトも気にしないでやっちゃっていいから。荷物は昨日の夕方に引き上げてるのでうちのはもう残ってないはず

********************************************



********************************************

帰りの新幹線には合流するつもりだから、瑞稀は心配しないでオフ会を目いっぱい楽しんでおいで

********************************************



 慌ててベッドの横を見ると、昨日チェックインしたときに置いたはずの栄さんの荷物はたしかに失くなっていました。

 それならそれで、もう少し早く伝えてくれればいいのに。ちょっと憤慨はしましたが、連絡するのを忘れるくらい楽しかったのであればしょうがない。そう思うことにして了解の返事だけ送ると、私はバスルームに向かいました。





 奇跡のように青い空の下、私たちは異人館通りを散歩します。具体的な目的も無い行き当たりばったりな散策。でも四人で歩いていると誰かが面白いものを見つけ、みんなでそっち行って新しい発見をする。黒いイメージなど、これっぽっちもない楽しい時間です。私も栄さんのことはひとまず忘れることにしました。



「オフ会もマッチングアプリも、結局のところ同じなのかな」


 異人館の内覧をしてるとき、谷下さんが呟くように話し始めました。さのさんと清水さんは別の部屋の調度品で盛り上がっています。


「前に知り合いが、マッチングアプリで紹介された男の人と会ったって話を聞いたのよ。そしたら、プロフの画像とは似ても似つかない人が来たんだって。もう、別人?ってレベル。なんとか話を済ませ早々にお暇した彼女、帰ったらすぐに退会したって云うの。会うのが判ってるのに、なんでそんな作り込みするのかな。もう信じられないって」


 存在はもちろん知っているけれど、自分が使ってみるなんて考えたことも無いサービス。でもたしかに、もう学生でもない私たちにとっては必要な仕組みかもしれない。私は直人との出会いの稀少さを、一瞬思い出しました。


「だからね。オフ会も一緒。次にまた逢いたくなるかどうか、そういうのを探るとこは絶対あるなって。もちろんマッチングじゃないから、相手探し目的で来てるのとはぜんぜん違うけど、ひとと繋がる段階を踏むのは一緒かなって思うの」


 しばしの沈黙。私はこの二日間を反芻しました。もう二時間もしたら終わってしまう、この至福の二日間のことを。

 他は知らない。でもこんな繋がり、こんな時間がオフ会ならば、私はもっと逢ってみたい。このひとたちのことをもっと深く、他の人たちとも今以上に繋がってみたい。私のことも、知ってもらいたい。


「谷下さんはどう思いました?」


「うふふふ。またいつかオフ会しようね。みんなで」

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