二百三十七話 瑞稀、小雪(一)
今週の『うれすく』はチェック項目が盛り沢山。それもそのはず、もう八週目ですもんね。折り返しを過ぎて、残りは六週。なのにまだ地震が一回あっただけで、和合のことなんかも全然進んでない。こんなんでちゃんと終われるのかしら、ホントに。
日曜深夜の部屋でパソコンの前に座り込んでぼそぼそ独り言してる私って、けっこう変人かも。でも物書きやってるひとたちなんて、大概こんなもんだもんね。
そういえば、最近はめっきりスペースも聞かなくなっちゃった。あの頃のひとたちともなんとなく疎遠になってるし。こうなると、ネットだけの繋がりって案外脆いもんですね。一緒にオフ会行った三人にしても、X以外の連絡方法は交換してないから、アカウント消しちゃったらもう後は追いようが無いし。またオフ会とか、したかったんだけどなあ。
おっと。思い出に浸ってる場合じゃ無い。いまはとにかく明日の朝に上げる分の目処を立てないと。
蔵六さんと共有のスプレッドシートを開き、節ごとのチェック項目タブの今週の欄を確かめます。
・中司の独白(瑠璃発見から広島開催前まで)
・具志堅教授の見立て
・具志堅による破戒神シネリキョの説明
・団、ミギリ(ノロ)から和合の方法を聞き出す。
・その方法とは、ルリに取り込まれているマブイペアが心を一つにすること
・円、広島地震の報でPTSD
・全国各所で散発的な地震発生(そのほとんどが沖縄展会場と合致)
・「私はあのマブイルリをアマミキョの封印石だと思ってた。でも、違ってたみたい」
うーん。どの場面から攻めていこうか。この中で、絶対私って項目は、マドカのPTSDくらいかな。でもまだ広島開催はじまってないからそれは明日じゃない。あとは耀子センセの見立てと説明。ま、説明部分は任せちゃっても問題ないか。それよりも、どこかのタイミングで耀子センセの掘り下げをやっときたいかも。
先週までの分を辿ります。昨日までポストした分は蔵六さんがシートに貼り付けてくれてるから、辿るのはすごく楽ちん。蔵六さん、シゴデキです。感謝。
昨日のマドカは幕間でのニジリとの対話で終わってたから、いきなりシネリキョパートに跳んでもいいんだけど、やっぱり中司クンの第一声は蔵六さんにやってもらいたいよね。男の子だし。
うん、決めた。明朝は中司クン登場前の露払いしよっと。
*
「灰田さん、アドセンスの設定、終わりました。発売日までのリスティング広告は、検索キーワードも含めておおむね大丈夫だと思います。チェックされます?」
書類の隙間の向こうで灰田さんが顔を上げます。
「開始はいつから?」
「来月一日からです」
壁のカレンダーを見上げる灰田さん。
「月曜日か。いいね。うん。チェックはいいよ、瑞稀ちゃんに任せてるから。あ、でも日間データの記入はよろしくね。バナーのABチェックも」
はい、と応えて報告用シートをカスタマイズします。
どうです? すごいですよね、私。半年前では想像もできないくらい。
画面見ながらほくそ笑んでいたら、向かいから声が降ってきました。
「慢心はしないようにね。慣れてきたときに足すくわれるから。初心、忘れるべからず」
見上げると、サコッシュ片手の灰田さんが連絡ボードに向かってます。
「おでかけですか?」
「うん。営業部の会議。瑞稀ちゃんはランディングページを進めといて」
出て行く背中にいってらっしゃいの声を掛けます。
釘、刺されちゃった。思わず苦笑い。でもホント、よく見てるよなあ。あんな風に周りを見て仕事するとか、いつか私にもできるようになるんでしょうか。
*
水曜日の帰り際にLINEが届きました。
********************************************
瑞稀、ヒマやろ。
明日休みだから、ひさしぶりに飲みに行かん?
六時半にはPL行ってるから。
さかえ
********************************************
なんですかね、この決めつけ。まあ確かに予定は無いですけど。
灰田さんとは会社で毎日顔合わせてるけど、栄さんの方は結婚報告以来のひさしぶり。少しは変わったのかな?
ちらりと室長席を窺ってみましたが、とくに変化はないですね。相変わらずお忙しそう。考えてみれば、ご一緒に暮らしてるかどうかも聞いてなかった。今夜私と飲もうって話も聞いてるんでしょうか? ちょっとカマかけてみちゃおっかな。
「灰田さん、プライベートのお誘いがあったんで、今日は定時であがってもいいですか?」
顔をあげた灰田さん、なんでわざわざそんなことをって顔してます。
「いいも悪いも、終業時間過ぎたら瑞稀ちゃんの自由でしょ。今日中に片付けなきゃいけないのが無いんなら、僕が文句言う筋合いじゃないよ」
これは聞いてないな。
「了解です。今夜はちょっと奥様をお借りしますね」
一瞬だけ間をおいてから、灰田さんはにやりと笑います。
「なるほど、そういうことね。当たり前のことをわざわざ尋ねてくるからなにかと思った。こっちも了解。今夜はどっかで飲んで帰ることにしよう」
「へんなとこ行っちゃ駄目ですよ」
はいはい、と二度返事して、灰田さんは仕事に戻りました。




