表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクの名は  作者: 深海くじら
霜月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

302/305

――月波・蔵六140字リレー小説(十一月二十日~十一月二十六日)「うれしぐすくぬー」8

第八節『破戒神』


♥月波 @tsukiandnami


〈最近はめっきり入れ替りが減ったな〉

風呂上がりでだらけ切った格好のボクも気づいてた。ここ数日は一度もない。その所為で、今も含めて緊張の糸が切れかかってる。

スマホを見ると、大濠からのトークが届いてた。明日の時間毎予定。入れ替った際の目安だとか。律儀な奴。こっちはいつも通りと返す。

―――――午前8:53 · 2023年11月20日



これで彼氏彼女とかいたらラブコメみたいで面倒なんだけど、幸か不幸かお互いそういうのは無縁。ボクはともかく、大濠なんかモテそうな気もするんだけど。

ふと思い出し、引き出しから名刺を取り出してみた。中司大。この人もマブイ落としたのかな?

〈おそらく。展示室におったのはその証拠じゃろう〉

―――――午前8:55 · 2023年11月20日



「ねえニジリ、シネリキョのマブイルリにはあんたたちと同じように誰か入ってたりするのかな?」

〈はて、どうなんじゃろ。儂らがアマミキョ様にあたっておる最中に封印したとの知らせは受けたが、人柱を立てたかどうかは聞いちょらん。なにせこちとらはアマミキョ様への祈祷で手一杯じゃったからな〉

―――――午前8:56 · 2023年11月20日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


コミュニケーションを取れる気がしない。

福岡での初日、突如脳内に現れた彼(?)は、あの地震以降その存在感をどんどん大きくしている。なにか、たぶん邪悪な何かを指向してるようなのだが、その行動の理念がまるで想像できない。

彼が目覚めたのは、眼鏡の少女が手持ちの瑠璃を取り出したあのとき。

―――――午後7:55 · 2023年11月20日



発掘中の比嘉森洞窟の隠し祠で偶然見つけた蒼く光る瑠璃。あれを手にした瞬間から、俺は俺でなくなってしまった。離れると幽体離脱した肉体のように植物状態になってしまうこの身体の所為で、俺は瑠璃の展示にフルタイムで帯同しなければならない。

だが、俺だけだと思ってた瑠璃を少女も持っていた。

―――――午後7:57 · 2023年11月20日




♥月波 @tsukiandnami


「最近、具合はどうなの?」

発掘での事故以来、具志堅教授の電話はいつもこのひと言からなので、俺も定型で応じる。

「はあ。身体の方は健康そのものです。頭の中のご仁は変わらず居座ってますが」


福岡のカフェで教授はこう言った。君の頭に同居してるのはたぶん沖縄の創造神アマミキョだろう、と。

―――――午前7:56 · 2023年11月21日



アマミキョ。

二百年前の文献にあった琉球大過で猛威を振るった沖縄の主神。元は沖縄諸島を独力で創り出し、繁栄に導いた豊穣の女神だ。だが長い歴史の中で稀に大過を呼び起こすという。

中でも二百年前のそれの被害は甚大だったらしい。ときのノロやユタが総出で出動し、なんとか封じ込めに成功した。

―――――午前7:58 · 2023年11月21日



君が見つけた瑠璃は、そのときアマミキョを封じ込めたマブイルリだと思うのよ。その瑠璃が君の心や身体とどうリンクしてるのかについては、まだ想像の域を出ないけど。


教授の意味深な台詞の記憶に、電話の声が重なった。

「例の娘から連絡はまだ?彼女の持ってた瑠璃、あれはシネリキョだと思うの」

―――――午前7:59 · 2023年11月21日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


まだ学部生だった頃に教授の講義で教わったシネリキョの解説を、俺は思い出した。


「島に恵みをもたらす女神アマミキョに対し、その身体の一部からつくられた男神シネリキョは主に破壊を司る神様。いわゆる破戒神ね。繫栄し、ぬるま湯に浸かった琉球世界に冷や水を浴びせ、新たな創造を促すのが役目」

―――――午後8:48 · 2023年11月21日



「アマミキョの伴侶としてのシネリキョは基本奔放に暮らしてるけど、最終的にはアマミキョに頭が上がらないの。『沖縄は女がよく働く』の故事通りね」


現実の教授の声が回想から俺を呼び戻す。

「地震は破戒神シネリキョの仕業に違いない。地揺れと沈下は文献にもある。眼鏡っ娘の瑠璃がトリガーよ」

―――――午後8:50 · 2023年11月21日




♥月波 @tsukiandnami


「ヨーコ。お前は儂の血を一族で一番濃く宿しておるから、さぞかし立派なユタになるだろうよ」

幼きころ聞かされたおばあの琉球言葉は難しかったが、意味だけは解った。石垣島で育った幼女時代の耀子の記憶には、さまざまな人外との交流がある。

「ようやくおばあの血を人のために役立てるときが来た」

―――――午前7:45 · 2023年11月22日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


毎朝弁当持参で県立図書館に向かい、夕方遅く腹が減るまで勉強する。合間にときどき外に出て、駅ビルの本屋で立ち読みする。

判で押したような日々を淡々と過ごすうちに、マブイのことも地震のことも真夏の夢だったのかと思うようになる。

たまにLINEする契とも、入れ替わりのない今は只の友だち。

―――――午後7:52 · 2023年11月22日



「なんか平和だっけ」

遠く岩手山を臨む駅前広場の植え込みに腰をかけ弁当を広げる僕に、ミギリが話しかけてきた。

〈ダンよ。お主、このままでもいいとか思うてはおらぬか〉

え?あ、ちょっとそう思ってるとこあるかも。ミギリが居るのも慣れちゃったし、事件が起こる様子もとくにないし。

(うつ)けが〉

―――――午後7:54 · 2023年11月22日



〈お主が勉強という名の現実逃避をしとる間に、吾はひと潜りして探ってきたぞ〉

唐揚げをお茶で飲み込んで僕は尋ねてみる。

探るって、何を?

〈お主ら若い男子が大好きな『和合』のことじゃ〉

茶を噴いた。

べ、別に僕はそんなの考えてないよ。

〈ほれ。額に汗が浮いておるぞ〉

ミギリが煽ってきた。

―――――午後7:55 · 2023年11月22日




♥月波 @tsukiandnami


「大濠はさぁ、ボクのことどう思ってんのかな」

予備校の宿題がひと段落したところで、不覚にもボクは独り言してしまう。むろんだが、それを見逃してくれるニジリではない。

〈お、お。色気づいたかこの童が〉

ち、違う!そーゆーんじゃなくて。

誰もいないのに手を振って否定する姿は、我ながら痛い。

―――――午前7:25 · 2023年11月23日



ほら、今月アタマまでは入れ替わりとかして、隠し事も何もあったもんじゃなかったじゃん。自分の境界線とかソーシャルディスタンスとかぐちゃぐちゃだったワケで。それがすっぱり無くなってる今、どんな気持ちでいるのかなぁって。

それだけだから!

最後のひと言に力を込めるボクに、ニジリは薄笑い。

―――――午前7:27 · 2023年11月23日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


〈たしかに和合と聞けば、(ねや)の睦言を思い浮かべるのは道理じゃ。まして年頃の男子(おのこ)、そのように考えん方がむしろ怖いわ。(われ)の時代の男衆なんぞ……まあそれはええ〉

ミギリさん、何が言いたい。

〈要は、じゃ。ここでの和合は斯様(かよう)なえちぃことを指しておる訳ではない、ということじゃ〉

えちぃって……

―――――午後9:04 · 2023年11月23日



〈身体を重ねるのも和合には違いないが、そもそも吾らには重ねるものがない。ここで言う和合の儀は精神の同調。お主とマドカ、吾とニジリの全員のマブイが全き同調に達すれば完遂できる、ということじゃ〉

変に想像した分なんか拍子抜けしてしまった。

〈別に、マドカと(しとね)を共に、でもええんじゃがな〉

―――――午後9:06 · 2023年11月23日




♥月波 @tsukiandnami


平穏な日々は、しかし長くは続かなかった。夏休みの最終盤でその報は届く。

待ち受け画面に浮き上がった速報は、広島市内の地震を伝えてきた。震度五の直下型。ただ幸いなことに、市内最大の百貨店で怪我人三名が出たものの、人的被害はそこまでだった。

百貨店の最上階で開催されていたのは大沖縄展。

―――――午前10:57 · 2023年11月24日



「ニジリ、ニジリ!どうしよう。また始まっちゃったよ!」

昼休みにそのニュースを知ったボクは、そのあとの講義に出ることができなかった。手の震えが止まらなくなってる。

〈落ち着けマドカ。ゆっくりと息を吸え。今のうぬは大丈夫じゃ〉

言われた通り呼吸して少し落ち着いた。

〈今夜、ダンと話せ〉

―――――午前10:58 · 2023年11月24日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


「ごめん大濠。顔色悪くって」

解像度の低い動画通話では言うほど顔色の蒼さは目立たなかったが、憔悴してるのは見てとれた。

「大丈夫。いつもの偉そうな顔してるっけ」

なにそれと返す契は弱々しく笑った。なんだよ。今日の契、妙に可愛いくね。

〈なんじゃ。やる気になったか?〉

「そうじゃない」

―――――午後6:14 · 2023年11月24日



「ねえ契」

しばらく話を聴いて契の表情が多少戻ってきたのを見計らい、僕はひとつ提案を始めた。なにかを感じ取ったのか、カメラ越しの契も真っ直ぐ僕を見据える。

「中司さんと連絡を取ろう」

契の瞳に光が灯った気がした。

「シネリキョを止められるのは僕らだけだ。でも僕らは相手を知らな過ぎる」

―――――午後6:16 · 2023年11月24日




♥月波 @tsukiandnami


新学期が始まっても、ボクは電話できずにいた。

怖かったのだ。連絡しても何も出来ないことを思い知ってしまう未来が。そうなったら、もう何も手は無くなってしまう。

大濠は催促しなかった。それだけが救いだった。


次の大津市では公開五日目で地震があった。震度は四。その三日後に、今度は震度三。

―――――午前9:12 · 2023年11月25日



大津で二度目の地震があった夜、ボクは独りで考えた。中司さんの身を自分に置き換えて。

彼はボクらとは違う。案内役の巫女も、一緒に悩んでくれる同胞もいない。一瞬の印象だけだけど、たぶん善良で普通の青年。でも地震の原因が自分の石にあることは気づいてる。

心細い筈。きっと、何処の誰よりも。

―――――午前9:14 · 2023年11月25日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


深夜の展示室で枕元が震えた。室内用テントのマットの上で、俺はスマホを手にとる。午前一時、知らない番号。

逡巡していると振動は切れた。

殆ど使わぬ名刺の番号に非常識な時間の着信。思い当たる節はひとつしかない。

決心して折り返す。通話はすぐに繋がった。

(ちぎり)(まどか)です。福岡で石を出した……」

―――――午後6:47 · 2023年11月25日



中司(なかつかさ)(ひろし)です。不躾(ぶしつけ)な名刺に連絡をくれて本当にありがとう。福岡の展示では……」

今まで吐き出せないでいた不安が堰を切ったようで、思わず早口になる。

「あの」

電話口の眼鏡っ娘が割り込むように言葉を差し込んできた。

「あなたもマブイを落として石に、マブイルリに取り込まれているんですか?」

―――――午後6:49 · 2023年11月25日




♥月波 @tsukiandnami


中司さんは別の解釈をしていたけど、やはりボクらと同じくマブイを石に取り込まれていた。だから今も展示室で寝泊まりしてる。

案内役の巫女はいない。

代わりに野生動物のような何かが常に一緒にいて、時折悪意のような力を放出して地震を起こす。止めさせたいが、意思が通じてる気配はまったくない。

―――――午前9:35 · 2023年11月26日



深夜の電話でニジリのサポートを受けながら聞き出した中司さんの話を、五月雨トークと翌日夜のビデオ通話で大濠たちと共有した。

こちらからは同じくマブイを石に取り込まれたことと連携の有効距離だけで、割れたことや大濠とミギリ、アマミキョなどはまだ伏せている。

今後の展開を協議してかなきゃ。

―――――午前9:36 · 2023年11月26日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


【地震♦︎♢大沖縄展♦︎♢ヤバイ】

福岡市/初日に震度六の直下型。死者二、傷者十八。

広島市/会期終盤に震度五の直下型。死者無し、傷者三。

大津市/会期中に震度四〜三の群発地震。被害無し。

静岡市/初日にいきなり震度五の直下型。死傷者無し。展示物一部破損で公開中断。


絶対なんかある!

―――――午後11:07 · 2023年11月26日



所狭しと沖縄文献が並ぶ研究室。

執務机のデスクトップPCでまとめサイトの投稿を見つめながら、アフロ髪の具志堅耀子は深い溜息をついた。

「中司くんが拾った瑠璃。私あれをアマミキョの封印石と思ってた。でもどうやら間違ってたみたいね。彼の石に封じられてるのはたぶん、破戒神シネリキョの方」

―――――午後11:08 · 2023年11月26日



具志堅は『大沖縄展東京開催』のフライヤー校正紙に目をやった。東京ビッグサイトを背景に、さまざまな展示物の画像が散らしてある。むろん、蒼い瑠璃も真ん中に。

「いまさら中止になんて……」

横に置いたスマホが鳴りだした。表示は『中司大』

「どうしました?」

「例の少女たちと連携がとれます」

―――――午後11:08 · 2023年11月26日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ