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ボクの名は  作者: 深海くじら
霜月

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二百三十五話 瑞稀、立冬(八)

 車のエンジンの例えかぁ。蔵六さん、うまいこと言うなぁ。


 昨夜アップされた蔵六さんの『うれすく』を読み返しながら、私は感心してます。四人の登場人物が収納されたマブイルリが真っ二つに割れてふたつのペアになってる状態を大元の神様も込みで説明するのに、こんな短い記述でわかりやすく可視化させる手腕はたいしたものです。あらためて、蔵六さんにお願いして良かったなって思います。これなら読んでくれてるひとにも『和合』をイメージさせられるかな。


 金曜の朝の食卓でグラノーラをひとすくい口に入れた私は、今仕上げた今朝の分をざっと読んでから送信します。ポチっと。


          *


「なんかさあ。ミズキっち、ここんとこ垢抜けてない?」


 いつものランチの席で涌井さんの私いじりが始まりました。対する私は、さして気にするそぶりも見せずに若鶏のみぞれがけを口に運びます。どうです。慣れたもんでしょ。


「言われてみればたしかにそうですね。目元の辺りの手入れも前より行き届いてますし。瑞稀先輩、もしかして東京でなんかありました?」


 身を乗り出してひとの顔を覗き込んできた水晶ちゃんが、また要らんことを付け足してきます。もう。誰でもいいからこの子を取り締まって!


「ちょっとお化粧を変えたから、じゃないかな。ほら、この前のインタビューの準備で制作会社の女の子にお化粧の仕方を教えてもらって、そのとき薦められた化粧品がまだ残ってるから……」


「え? 瑞稀さん、スタイリストさんがついたんですか?」


 ブリのお刺身をつまむ手を止めて、天童さんが勢い込んできました。


「いや、そんな大層なもんじゃないけど……」


 語尾が濁っちゃいます。あのときの鏑木さんのは、たしかにスタイリストのお仕事だったから。そういうところ、やっぱり水晶ちゃんは見逃してくれません。


「ヤバいですね。瑞稀先輩、芸能界デビューじゃないですか。来年ブレイクするのはこの子だ、みたいな」


 もう、勘弁して。


「でもさ、ホントいいよね。このファンデの乗り」


 隣から指伸ばして私の頬を撫でる涌井さん。

 頼むから落ち着いて食事させて!



「再来週だっけ、室長の披露宴」


 食後のハーブティーをソーサーに戻した涌井さんが口火を切りました。

 そうなんです。次の次の日曜日には、灰田さんと栄さんのお披露目があるんです。ハーバービレッジのレストランを貸し切っての会費制パーティー。しょうがないから総務女子の三人にも招待状を送ったよって、灰田さんが苦笑いしながら言ってましたっけ。


「再来週っつっても、あと十日も無いですよぉ。知り合いの結婚式なんてはじめてだから、私なに着てけばいいのか……」


「あんたは若さで押してけば、なに着てったっていいのよ」


 水晶ちゃんと涌井さんの掛け合いをよそに、天童さんが俯いているのが目に入りました。天童さん、灰田さんにガチ恋だったからなぁ。

 見つめていた私に、横から声が飛んできました。


「ミズキっちは前から知ってたの、相手の山科(やましな)さんってひと」


「え? ああ、そうですね。そんなに前からってワケじゃ無いけど、一年くらい前から……」


 急に話を振られ、つい口篭っちゃいました。マズイ。これは突っ込まれる。


「どんなひと、どんなひと?」

「なにもんなん、そんひと」


 正面と隣から同時に攻められました。まるっきりの予定調和。まあ、今のは私が悪いですよね。油断してましたよ。


「元気のいいひとですよ。メインはフリーライターですけど、居酒屋バルで接客とかもしてらして」


「九大の一年後輩っていう話よね。ってことは、もう四十も近かろうもん。ミズキっち、そんなひととどこで知り合うたと?」


 涌井さん、のめり込みすぎて博多弁でちゃってますよ。


 気圧されつつも、私は考えます。

 栄さんのこと、いったいどう説明すればいいんでしょ。普通に考えたら接点なんてなにもないし、共通項って言ったら、彼女の借りてるシェアオフィスとうちの会社が近いことと、住んでるとこが歩いて行き来できる距離ってことくらい。それにしたって、最寄りの駅は別々だし。年末のコンビニで泣いてるところを見られてからのお付き合いです、なんて答えられるワケない。


「その……たまたま入った近所の居酒屋さんのカウンターで内側にいた彼女から声をかけられたのが最初、だったかなぁ」


「え? そんなんでプライベートの知り合いになったりする? ミズキっち、そんなに軽いオンナだったの?!」


 瑞稀先輩あぶなーい、と囃し立てるのは水晶ちゃん。もう、どうにでもして。


「うーん。ミズキを骨抜きにしたのに飽き足らず、うちの桜子が大事に大事に育てあげた灰田室長までかっさらって行こうとは。山科栄、とんでもない輩。あたしの手で、その吠え面を引っ剥がしてやらんと」


 握りこぶしで虚空を見上げる涌井さんが要らない決意を表明してます。向かいで水晶ちゃんも、おーっとか言ってるし。

 いつもならなだめ役に入ってくれる天童さんも、この件に関しては深ーく沈降してるだけ。

 もう、言わしたいだけ言わしとくしかないですね。

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