二百三十三話 瑞稀、立冬(七)
笠地蔵六@kasajizorock
おお!
今朝の月波さんはいつになく挑戦的。
マドカ視点の新キャラ紹介も自由度高そうだし。
僕も頑張らねば。
―――――午前8:51 · 2023年11月13日
オフィスの席でノートパソコンが立ち上がるのを待つ間、スマートフォンに上がってきた蔵六さんのポストを見て私はうふふと笑いました。さっき地下鉄の車内で上げた『うれすく』三連投の感想ですね。挑戦的って言われると素直に嬉しい。
さ、夕方の蔵六さんはどんなふうに打ち返してくれるのかな。
ウィンドウズの背景画面にデスクトップのアイコンが整列したので私はスマートフォンを仕舞います。
それにしても、杜陸のソウルフード、じゃじゃ麺っていったいどんな食べ物なんだろ? 先週最後の入れ替わり場面で使うためにネットで調べただけなんだけど、蔵六さんも普通に拾ってくれてたから、やっぱり有名なんでしょうね。美味しいのかな?
「瑞稀ちゃん、オルタのランディングページの画面は今週って言ってたけど、あれ、いつになりそう?」
はい、と返事して予定表のアイコンをクリックします。
灰田さんは週明けも快調みたいですね。
*
木曜の通勤電車で朝の『うれすく』投稿を済ませた私は、さっき読み返した昨日の分のことを考えていました。ダンとのビデオ通話を終えたあとの場面。高揚してるマドカに、脳内同居してる老ユタが煽り文句をひと言告げます。
「告ってみるも一興」
高校生らしい甘酸っぱい場面を書いてみたわけなのですが、正直言って未体験ゾーンすぎて私自身の場違い感が半端ない。
私の高校時代。
東京の公立高校に入って三か月、ようやく級友の顔と名前を覚え、仲良くなれそうな友だちもできたところでの福岡への引っ越しは、私の青春時代にくっきりと影を落しました。新居から近い公立高校の編入試験に受かったところまではよかったんだけど、そのころの、いまの百倍引っ込み思案だった私にとって夏休み明けからの転入は致命的でした。最初の数日こそ東京者の物珍しさもあって何人かの陽キャ女子が話しかけてくれましたが、こちとらまともに狛江からでたこともない東京田舎者。彼女らが望んでる渋谷や新宿の話なんてできるはずもなく、早々に興味の対象から外されて。
スタートダッシュなんて、周回遅れの身ではなんの効果もありません。言葉も話題も勢いもぜんぜん違う同級生たちの会話に馴染めきれず初年度を終え、そのまま卒業まで一度も浮上することのない凪の高校生活となったのです。
絵鈴たちが構ってくれなかったら、三年間一度も会話せずに終わったんじゃないかってくらい。告白だとか男女交際だとかなんて、雲の上の出来事だったし。
だからマドカは、私の願望のあらわれなのかも。
私と同じく学校では陰キャの彼女だけど、修学旅行という特別なステージで、まったく接点の無かったちょっといい感じの異性と特殊な体験を共有し、同じ目標という名目から心を通わせはじめる。ああ、いいなあ。私だってこんな出会いがあったなら、もう少し豊かな青春時代が送れただろうにって。
いつだったか、たしかパークライフの従業員控え室で栄さんが言ってた言葉が唐突に思い出されました。
「恋は欲しがったり探したりして見つかるもんじゃない。普通に歩いてて急に躓いてしまう道のでっぱりだったり、いきなり足が嵌って抜けられなくなる穴みたいなもの」
たぶんその通りなんだと思う。
あーって思いながら惰性でタイムライン流してたら、見逃していたポストが目に飛び込んできました。
笠地蔵六@kasajizorock
月波さんと書いてる『うれしぐすくぬー』は、数えてみたらもう120回を超えていた。月波さんの『エミールの旅』も僕の『三十日間のペアリング』も余裕で抜かす長編。
物語はまだ折り返し点で、明かされてない設定や新たな登場人物も出てくる(はず)
年末の最終回まで、ちゃんと辿り着けるといいなあ。
―――――午前9:45 · 2023年11月15日
蔵六さんのアイコンを見つけると、なんだかどきっとする。それは嫌な感じじゃなくて、心が波立つっていうか期待が高まるっていうか。うん、そうだ。「予感」を感じるんだ。なにがどうとかって具体的なものじゃないんだけど、なにか特別なものの予感。
立っている身体の重心が片脚にかかり、暗かった窓に降りる駅のホームが流れ始めました。車内があわただしくなってきた中、短い言葉を添えて、丸一日遅れのリプライを送ります。
今週もあと二日。頑張るぞ。




