百九十九話 瑞稀、秋分(二)
月波@tsukiandnami
頭の中で繋がったエミールの生家の話を、通勤途上で文字にしています。
今朝の分はもうアップしちゃったから、これは夕方にポストしますね。
アグリコラとアガの二人は、こんなふうにして15年を過ごしたんだ、って話。
連載小説『エミールの旅』も、いよいよ本気でラストスパートです。お楽しみに。
―――――午前8:22 · 2023年9月22日
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笠地蔵六@kasajizorock
お疲れさまです。
いつも楽しみに読んでますよ。
児童文学の体で始まった『エミールの旅』でしたが、隠されていたものを晒し、収まるべきピースを収め、復路を辿ってきた叙事詩が終わってしまうんですね。
エミールの両親の話は楽しみですが、もうじき終わるのは少し寂しい。
―――――午前8:45 · 2023年9月22日
疲れが溜まってる金曜日ですが、朝からこんなやりとりができたからけっこう元気が湧いてきてます。
よし。今日も一日ガンバローっと。
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「私、報告を受けてないんですけど。向こうでどんな話をされてきたのか」
地下鉄空港線上り電車の空いてる席で揺られながら、私は隣に座る灰田さんに詰め寄ってます。
週の終わりの金曜夕方。姪浜にある星野さんのデザイン事務所、ヴィルトシュテルンに伺って、展示会成功の報告と今後のシリーズ展開の打ち合わせをしてきた帰り道です。出掛けるときから今日は直帰って言われてたので、終業時間には少し早いけど、私の頭はすっかりプライベートモードになってます。
「栄さんはLINEでひと言、実家行ってきたよ、だけでしたし、灰田さんに至っては、なんの用で出掛けたかの説明も一切無しに、ただボンタンアメを配っておしまい。だいたいにして、おふたりの仲人である私になんの報告もないってのはちょっとマズいんじゃないんですかね。今日だってお昼の女子会で、室長が連休中に鹿児島行ってなにしてきたのかって追究されちゃったんですから。口止めさせられてる身にもなってください!」
すまんすまん、と頭を掻く灰田さん。苦笑いなんかしてます。ホントにもう。
「でもそんな話題、電車の中でするものか? いくら空いてるって言っても」
「会社ではできないからこんなとこになってるんです。それとも、防音設備バッチリの第四会議室でも押さえて重箱の隅の隅まで追究した方がよろしかったでしょうか」
それはそれでマズいよね、と灰田さんは笑います。
「しかし、瑞稀ちゃんがこんなに強気で詰めてくるようになるとは思わなかったよ」
灰田さん。いまのひと言で、私の尋問レベルは二段くらい上がりましたよ。
*
雨上がりの遊歩道を灰田さんの先導で大濠公園内のスターバックスに場所を移した私たちは、そのあとみっちり一時間、灰田さん栄さんペア鹿児島行脚の報告会を開催しました。
琵琶湖の東側にある灰田さんのご実家とはリモートで済ませたそうなのですが、鹿児島の栄さんのご実家にはどうしてもご挨拶しに行きたいと灰田さんが切望されたとのことで、先日の三連休を利用しておふたりで行かれたという話。栄さんのご実家はご両親、お兄さん夫婦、そのお子さんのほかに、お父様方のお祖母さままでいらっしゃるという大家族で、お近くに住んでおられるという栄さんの弟さんも交えて、丸二日間宴会があったそうです。酒量にはそこそこ自信があった灰田さんも、さすがに全員から杯を受け続けてはたまらなかったんだとか。
「ありゃあ絶対恨み節が入ってたね」
と灰田さん。
でも、それだけ栄さんがご家族に愛されてたってことですよね。十六年も待たせたんだから、そのくらいの禊ぎは我慢しなくっちゃ。
大濠公園駅の向こう側にお住まいの灰田さんとはそこで別れて、私は大名の私のマンションまでゆっくり歩いて帰りました。陽が落ちたばかりの暗くなった夜道を進む足取りは軽く、なんとも幸せな気分でした。私の大好きなひとたちが、もっとも望む形で新しい道を広げている。ごろごろの石の大地を整地して、誰もが立ち寄れるようにきちんと舗装して、この先の未来に続く未開の大地に踏み出そうとしている。この姿を、もっとも近いところからリアルタイムで見守ることができる贅沢さたるや。
月も星も見えないけれど、秋を感じさせる夜道の風は本当に心地よいものでした。
いつか私に相手ができて、そのひととふたりで筑紫野に行ったら、うちの両親はどんな顔をするのかな。どんなふうにそのひとを歓待するのかな。
思いついたので、私は歩きながらエミールの更新をしました。といってもスマートフォンにメールしておいた文章をツイッターに貼るだけですけど。今宵のエミールは、彼女の両親が苦難の日々を超えて明るい未来に辿りついたところ。なんとなくリンクしてるみたいで嬉しい。
なぜか突然、私はこの平穏を誰かと分かち合いたい、と思いました。
浮かんでくるのはふたり。栄さんと灰田さんの復縁への道のりを共有している皆川さんと、エミールの旅を最初からずっと見守り続けてくれている蔵六さん。
でもふたりとも遠い地にいる。片方は、もう終わってしまった仕事だけで繋がっていたひとで、もう片方は、顔も名前も知らないネット上だけのひと。
「なんだかなぁ」
溜息交じりのそんなつぶやきがこぼれ落ちる。明日は秋分。




