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ボクの名は  作者: 深海くじら
長月

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百八十二話 笠司、白露(五)

 今朝は三日ぶりに走った。丸二日空けただけで身体が(なま)った気がする。ちょっと上り坂が続くと蹴り脚に重みが加わり、息があがった。こういうのはやっぱり継続が命なんだな、と改めて思う。


 デスクにつくのも月曜以来なんだけど、こちらの方は不調もなければ感慨もない。淡々とメールを流し読みして粛々と予定を埋める。現場も仕込みも無い一日はこんなもんだ。

 波照間さんたちのギフトショーは今日が中日(なかび)。とくにお呼びが無いということは、少なくとも僕らのつくりものやえりかさんのMCに関してのトラブルは無いって理解でいい。無事()れ名馬。良きかな。


 次に波照間さんに会えるのは明日の夕方。店仕舞いまで待機して、終了後から速攻で解体撤去に取り掛かる。額装は、捨てることも無いだろう。記念のお土産として持って帰ってもらうか、そうでなきゃ会社宛に送るんでもいい。ただ・・・・・・


 頭の中で走らせてるスケジュールが一旦停止した。


 ・・・・・・今回の現場、打ち上げは無しだな。

 はしくらのふたりは明日(あす)の金曜、二十時発の最終便で福岡に帰ると言っていた。最終日の閉場は午後五時。そこからすぐに作業に入れたとしても、ブースの解体に一時間はかかるだろう。廃材の運び出しや原状復帰まで見届けるとすると、どうしたって六時半、いや七時近くになる。とてもじゃないが宴会やってる時間の余裕は無い。

 火曜日の設営後に新橋で開いたという懇親会も、仕上げの立ち会いがあった僕は参加できなかった。作業が終わったのは九時前だったけど、社有車を会社まで戻し終えた頃には十時を回っていたのだ。


 とことん、タイミングが合わないや。


 思えば奇跡みたいな偶然で出会えた夏の羽田にしても、ゆかりんに邪魔されて気不味い終わり方になっちゃったし。あのときの誤解だって、まだ釈明できてない。

 六月にチームとなって三ヶ月、けっこうがっつりタッグを組んできたつもりだったけど、プロジェクトが終わってしまえば接点もすっぱり無くなる。


 自然消滅(フェイドアウト)ってやつか。


 気晴らしにスマホを開くと新作ゲームのニュースが流れてた。ファイナルファンタジー7エバークライシス。今日から配信開始らしい。そういえば二ヶ月くらい前にベータテストやってたって話があったっけ。

 子どもの頃に親のゲーム機を見つけだし、龍児(おとうと)とふたりでがっつりのめり込んだ。そんなFF7ファンとしては見逃せない話題のはずなのに、どうにも気持ちが乗ってこない。(エックス)を開いてみても、気晴らしになるようなポストは見当たらない。月波さんの書き込みも。


 ちょっとまて。

 どうしてそこに月波さんが出てくるんだよ。打ち上げができなくて残念だってとこから、なんで彼女に辿りつくんだ。意味わかんねー。

 いったいどうなっちゃってんだよ、僕は。


 机に積み上げた書類の山の、一番上に置いてある薄い本に目が止まった。小竹さんが描いた例のパースから額入り写真の部分だけをトリミングしてデザインされた表紙。昨日、開会直前に届いた会場限定の冊子だ。見本として僕も一冊もらったのだ。

 田中夫妻のリビングを舞台に妻のすみれがひとり語りするショートストーリー。ありがちと言えばありがちな小説仕立てのプロモーションなのだが、出来がいたって良い。しかしそれ以上に驚いたのは、その内容がリビングルームとオルタとを繋ぐ見事なブリッジになっていたこと。まるで、小竹さんがサプライズでつくってきたあの写真のことをあらかじめわかってた、みたいな。

 この短い小説は、はたして誰が書いたのか。奥付にクレジットは無かった。届けに来た星野さんってひとだろうか。オルタペストリーをデザインしたのもあのひとだって聞いてるし。

 我ながら順当な解釈だと思う。デザインを生業にしてるわけだから、コピーを書くことくらいあるだろう。この程度の短編はお手のモノ、なのかもしれない。でもなにか違和感がある。

 書かれていた病室前でのなれそめ話は、僕とふたりでやったペルソナづくりのZOOM会議(ミーティング)で波照間さんが思いついたエピソードだ。画面の向こうで、自分で言った言葉に照れまくっていた素の波照間さんを思いだす。

 まさか!? もしかして、この小説を書いたのって波照間さんご自身だったりして?


          *


 夕方六時過ぎ、来年度の大規模ショッピングモール販促計画を立案する代理店の担当者が提示してきた事前打ち合わせの日程案に返事のメールを書いていたら、新着が届いた。波照間さんから。

 途中だった下書きを保存するのももどかしく、メールリストの一番上にあがっている太字のタイトルを大急ぎでクリックした。



―――――

エムディスプレイ 皆川様


お疲れさまです、はしくらの波照間です。

急のお願いで恐縮ですが、明日十六時のご来場予定を早めていただくことはできませんでしょうか。

できれば、朝一番から丸一日。


いきなりの話なので無理なお願いとは存じておりますが、もしもご対応いただけるようであれば、たいへんたいへん助かります。

むろんですが、ご予定が詰まっているようならあきらめます。

何卒ご検討を。


波照間瑞稀

―――――



 なにが起こったかをいぶかしむより先に、朝から波照間さんに会える正当な理由を得られたことに歓喜している僕がいた。

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