――月波140字小説(八月十四日~八月二十日)「エミールの旅」15
月波 @tsukiandnami
アジマエ。あの日の夜に開かれたボクのミナーシュ祝いの席で、村の爺たちがいつもとは違う変ににやついた顔で盛んに発した単語。
「エミールもこれでアジマエるようになった」
「はよアジマエってややここさえろ」
「儂がもう五十若ければ今夜にでもアジマエってやるものを」
あれは子づくりのことなのか。
―――――午後6:01 · 2023年8月14日
「エミリー、お前はアガとアグリコラ、村の爺どもから祝福されて送り出されたのだよ」
理解が追いつかない。
様々な街に着く度に世界の広さと多様性を感じ、ボク自身が今までのルールから自由になる予感を感じてはいた。それは心地良い想像だった。
でもボクには救うべき人がいて帰るべき村があった。
―――――午後6:34 · 2023年8月15日
そう思っていたのはどうやらボクだけだったみたいだ。
木造りのベンチに腰掛けて満開のモモを見上げる。流れる雲にもモモのピンクが混ざり込んでるみたいだ。視界がぼやけ、滲んでくる。
そうか。ボクにはもう、あそこに戻る帰り道は無いんだ。
声も出せずに震えるボクの背中を大きな手が優しく叩く。
―――――午後6:37 · 2023年8月16日
「エミリー、エミール。泣くのはいい。だが見捨てられたと思うのなら、それは大間違いだ。お前はアガにもアグリコラにも、村の下衆爺どもみんなにも愛されて、彼らみんなが身を斬る思いで俺に託した希望なんだよ」
ヤヒラが空を仰ぐ気配がした。
「あの村は、お前の弟か妹が最後の子どもになるだろう」
―――――午後9:15 · 2023年8月17日
「エミリー。エミールだったお前の旅はここが終点だ。この街で、お前はレイディになる。理を知り、世界を知り、人の未来を共に考え、動くことができる素晴らしいレイディに」
夕暮れが迫る蒼天の下で、ボクはただ涙を流しながらリヒラの話を聞いていた。初めて聞くレイディという単語を想像しながら。
―――――午後8:21 · 2023年8月18日
一夜明け、朝方から雲が広がってきていた空は、朝食を待たずに雨に変わった。全ての音を吸い込んでしまう雨を見ながら、ボクは窓辺で外を眺める。リヒラは午前中少しだけ出かけた後は、ずっと部屋でなにか書き物をしていた。
ひと段落ついたのか、リヒラはボクをお茶に呼び、一通の手紙を差し出した。
―――――午後8:08 · 2023年8月20日




