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ボクの名は  作者: 深海くじら
葉月

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百六十二話 笠司、立秋(五)

 金曜の朝、実家に向かう京浜東北線の中でスマホのFF7をやっていたらメールが届いた。序盤の工場内のバトルにも飽きてきていたので、ゲームを離脱してメール画面を開いた。差出人は原町田由香里。見慣れない名前に一瞬思考が止まる。

 あ、ゆかりんか。

 半年前まで同じゼミだった同期生。杜陸(もりおか)最後の夜の打ち上げでともに飲み、彼氏の車で東京行き深夜バスの停留所まで送ってもらった・・・・・・。


―――――

ご無沙汰!

東京でのお仕事は順調ですか。

こっちはだいぶ軌道に乗ってきた感じです。勝手がわからずぐだぐだだった窓口業務もそれなりにこなせるようになっちゃったりして。

リュウジくんは前からやってた仕事の延長線上って言ってたから、もう少し早くからうまいことやれてるかもしれませんね。


とまあ前振りはそのあたりにして、来週の土曜に東京に出る用があるんだけど、ちょっと旧交をあたためたりしませんか。

学生時代の知り合いとかって、あんだけ毎日のように会って空気みたいに普通にいる感じだったのに、道が別れるとぱったりってなってそのまま疎遠どころか完全に切れちゃったりするじゃないですか。そういうの、なんかもったいない気がするのよね。

何年とか何十年とか経った同窓会で顔合わせてあんときのままじゃん、みたいなお話はよく聞くけど、それって要するにそんだけ理解が深かったリソースを無駄に何十年もほっぽらかしてたってことじゃない。毎週とか毎月とか、ってのじゃないけど、もうちょっと大事にしてやれよって思いませんか。ていうかあたしはそう思うの。

いや、そんなふうに考えるようになったのはここ数年なんだけどね。前はそれこそ、来る者拒まず去る者追わず、友だちなんて環境みたいなもんだって豪語してたんだけど。


いや、そんな自分語りはどうでもいい。

とにかく、縁もゆかりもないからほぼ行くことのない東京なんぞに別件あって出張ることになったんだから、この機会に逢える人には会っときたいって思ったの。コスパ的にも。


連れがいるけど、リュウジくんも前にあったことがある彼だから、いろんな意味でなぁんにも気にせず出てきてくれればいいかな、って思います。

こっち側の都合ばっかりで申し訳ないけど、十九日のお昼前に羽田空港って感じでよろしく。

アメリカから帰ってくる先生(リュウジくんは憶えてるかな? あたしたちが一年の時に一年間だけ発達心理学教えてた超美人の先生!)が十四時前の便で到着するから、そのお迎えついでってことで一緒にお昼でも食べられたらいいかな、なんてね。


むろんだけど、なんか予定が入ってるんなら、そっち優先で構いません。あたしのは、言ってみれば思いつきみたいなもんなので。

一応、連絡用にLINEのコードつけときます。登録できたらなんかテキトーなスタンプでも送って。


それじゃ、来週末に。


ゆかりんこと原町田由香里

―――――



 なんだかすぐそばで喋べられてる感じだ。懐かしいというより、いきなりゼロ距離で話しかけられた、みたいな。

 あいつ、文章の調子もそのまんまなんだな。てか、発達心理学とか一般教養(パンキョー)に無かったから知らないし。

 十九日か。

 真っ青な海を背景(バック)にした水着の女の子が憂いの欠片も無い笑顔を振りまいている中吊り広告を見上げながら、ぼうっと考えた。四日しかない夏休みの三日め。どっか出掛ける予定を組むのなら最悪の日程だけど、悲しいことにその予定も無いし、乗せられてみるのも悪くないかもしれない。単純に、美人の先生ってのも見てみたいし。


 メールのURLから飛んだ先のLINEコードの画面はめちゃめちゃ怪しい匂いがした。が、いくらなんでもゆかりんそのものにしか見えないメールをあそこまで見事に精製できるAIがあるとも思えない。そもそも、こんな貧乏社会人を引っかけるためにそこまでする奴もいないだろう。

 タップすると、逡巡する暇も無いくらいあっさりと新しいアイコンがリストに加わった。血の色の背景に黒い眼帯の男。僕でも知ってる。これは真島吾朗だ。間違いない。このアカウントはゆかりんだ。

 思わず漏れてしまった含み笑いに電車内を見回したが、そんな些末を気にする都会人などいない。気を取り直した僕は、ぽちぽちとトークを打ち込む。


********************************************

羽田の件、了承。

てかこのLINE勧誘は悪手だよ。

なんちゃら詐欺の手口みたいだ。

********************************************


 実家の駅まであと十五分。着くまでの暇つぶしにはなりそうだ。そう思ってたら、すぐに返信のスタンプが返ってきた。

 絵柄は、釣り竿を振り上げる桐生一馬。

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