――笠地蔵六140字小説(八月七日~八月十三日)「三十日間のペアリング」13
笠地蔵六 @kasajizorock
全身の震えが止まらない。
視界から消え行こうとする男たちの背中を見つめながら、サトルはちさとの言葉を反芻していた。
「自分から攻撃しては駄目」
今やり過ごせば、確かに一件は落着する。元凶の元義父は今度こそ捕えられ、二度と目の前に現れることはないだろう。
でもそれでいいのか。本当に?
―――――午後7:47 · 2023年8月7日
「まてっ!!」
声変わり前の甲高い声が夜の帳に響いた。
「お前たちは僕の大事なひとを汚した!」
ナイフを握りしめて仁王立ちするサトルは、もう震えていなかった。壊れた木戸を出ようとしていた男たちが振り返る。
「それを忘れてやるとでも思ってるのか! お前たちのことは、僕が絶対に許さない!」
―――――午後10:37 · 2023年8月8日
「聞き分けの悪い小僧だ」
「馬鹿なガキには教育してやらんとな」
口々に脅し文句を吐きながら男たちが戻ってきた。口調は舐めているが、刃物への準備は怠らない。そんな目付だ。こいつらにしても、只のアルバイトではないということか。
睨み合う目線を切らず、サトルはゆっくりと横移動していった。
―――――午後10:27 · 2023年8月9日
片や標準的十歳男子。片や荒事に慣れた成人男子ふたり。彼我の力の差は歴然としている。こちらのアドバンテージは、使ったことのないコンバットナイフとよく知ってる庭しかない。
格闘になったらナイフは使えない。むしろ自分が怪我する。勝機は庭の方だな。
サトルは意外にも冷静な自分に驚いていた。
―――――午後10:14 · 2023年8月10日
そうだ。ちさとさんは死んじゃったわけじゃない。今は寝ているだけ。ただ、抵抗できないときに、あいつらに汚された……。
「私たちの場合、身体にさほどの意味はないんです」
たぶんその通りなんだろう。でも、僕は嫌だ。僕が赦したくないんだ。姉さんを汚したようにちさとさんを扱う奴らを、絶対に。
―――――午後10:34 · 2023年8月11日
子どもとはいえ手にしたナイフは本物だ。万が一にも怪我するのは馬鹿々々しい。そう考えた男たちは左右に分かれて近寄っていく。少年は腕を下げているからナイフが見えない。ガキのくせに生意気な。
少年が片方に向けてアンダースローで何か投げた。蹲る男。刺さったのか?
反対から飛びつくもう一人。
―――――午後9:00 · 2023年8月12日




