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ボクの名は  作者: 深海くじら
水無月
158/167

百二十三話 瑞稀、夏至(一)

「こんにちは。はじめまして。ブランド推進室の波照間です。よろしくお願いします。本日はお忙しい中、お時間を割いてくださりありがとうございます。すでにメールはお読みいただいてると思いますが、今回は上沢さんの普段のお仕事の内容やどんなことに気を使っておられるかとかを三十分くらいでお聞きする予定です。よろしいですか? ……はい。ではさっそく始めさせていただきます。まずは所属とお名前、勤続年数を教えてください」


「はい。えと、上沢秀美と申します。所属は福島営業所の販売課勤務で、入社して八年になります」


          *


 今週はインタビュー祭りです。

 月末からウェルネスターミナルのサイトで公開開始予定の連載企画「はしくらスタッフのナマの声」は、全国各地の支社・事業所の若手社員のインタビュー動画。お話しをしていただく方々は主に二十代(一部三十代前半の方も数名)の三十人で、男女比はほぼ半々。日常のお仕事がどんなものかをご自身の言葉で紹介していただく動画をひとり三十秒にまとめて、三人ずつ十週間で公開する予定です。

 お相手は、北は北海道から南は鹿児島まで。まさにリモート環境があればこその企画ですね。

 問題は、そのインタビューを私ひとりが(おこな)って、しかもそのすべてを今週来週で録ってしまうというとんでもないスケジュール。でもオルタペストリー(オルタ)の制作進行チェックや展示会の準備とかを考えたら、上半期で私が動ける時期は今月しかないのです。だからもう、やるしかない。


 とはいえ、インタビューなんてやったことありません。なので昨日は予定していた壁(よじ)りを中止して、がっつりと取材技術の個人レクチャーを受けてきました。むろんですが、講師は栄さん。灰田さんの許可も取れていたので、お昼も夜も取材費で落とせます。だからお昼の講義はジョイフルで、夜はちょっと贅沢に鮨懐石なんか行っちゃったりして。

 おかげで取材の基本や聞き取りのコツ、忘れがちなポイントなんかをきっちり教わることができました。自分用の虎の巻もつくれたし。


「瑞稀は覚えがいいっちゃね。あとは回数重ねりゃすぐ上手うなるけん。三十人? そげんこなしゃあ、うちなんか軽う超ゆるとよ」


 もちろんそんなはずはありませんが、栄さんの言葉に後押しされて、私はインタビューに臨みます。


          *


「じゃあやっぱり上沢さんのお家でも置いてないんですね」


「置くとこないから、母には悪かったけど持ってきちゃ駄目って釘刺しちゃいました。ただでさえ狭いうえに収納が少ないのに、母の分まで荷物が増えたから、どうしようもなくって。位牌だけで勘弁して貰ってますけど、亡父(ちち)にはちょっと申し訳ないかな、とは思ってます」


 福島営業所の上沢さんは、ディスプレイの向こう側で目を伏せました。はしくらの社員なのにって思ってしまっているのでしょう。



 実は、せっかくお話が聞けるのだからと、展示の企画の資料になる質問もついでにしたりしています。これは全員に聞くつもり。

 お尋ねするのは次の三つ。同居人数と年齢構成、お住まいの広さと形態、御仏壇の有り無しとお祀りする頻度。

 仏具を扱ってる会社の社員三十人ですから偏りがあるのはわかってますが、若い生活者から直接聞けるチャンスを逃す手はないでしょう。それに私の予想が合っていれば、仏具販売の担い手であってもこのレベル、みたいなデータがとれるんじゃないかな、なんて思ってたり。


 先週スタートした展示会ブースの話といい、来週上がってくるオルタの初号試作といい、なんか最近調子いいかも、私。

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