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ボクの名は  作者: 深海くじら
卯月

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八十一話 瑞稀、穀雨(三)

 土日をすっかり家事&休養に充てた私の月曜午前中は、ブランド推進室全体会議です。といっても会場はまた例のお蕎麦、川端やさんなんですけど。うちの会議費予算ってどうなってるんでしょ?


「今日のは僕のポケットだよ。流石に毎回毎回じゃ、三木原さんに睨まれちゃうしね。ま、ポケットって言っても席料が掛かるわけじゃないし、日頃からお世話になってる瑞稀ちゃんにお昼をご馳走するってだけだから」


 そう軽~く受け流す灰田さんですが、私だって知ってます。ここのお昼の蕎麦天セットが税別千八百円もするのは。女子会で行くあの居酒屋ランチが七百円だってのに、会議の度にその二食半分の食事を奢っていただくなんて恐れ多い。ていうか、見返りとか言われたってなんにも支払えるものないですよ、私。


「瑞稀ちゃんは気にしないくていいよ。僕が好きでここ使わせてもらってるんだから。だって雨の日でもないのに殺風景な会議室で打合せなんかしたって、無駄に時間食うばかりで飛び抜けたアイディアなんて出やしないじゃん」


 おしぼりを使いながらにこにこ笑う灰田さんを見てると、前の課長とはまるっきり別の人種だなあって思う。うちの会社のプロパーじゃ、こうは成長しないだろうな。

 とは言え、やっぱり奢られてばかりじゃ気になっちゃう。税込み二千円は痛いけど、やっぱり


「たまには自分の分くらい……」


「無理しないの」


 被せてきた灰田さんがバッサリ切り捨てます。


「月に二、三回の食事くらいでビビらない。それにただ奢られてるワケじゃないでしょ。瑞稀ちゃんはちゃあんとチームの戦力になってるし、今回なんて結果も出した。胸張って奢られときゃいいんだよ」


 真剣な顔を見せてから笑顔に移る灰田さんの顔芸。ドラマでも見てるみたい。


「それに、どう考えても僕は瑞稀ちゃんの倍以上お給料貰ってるだろうしね。それより仕事仕事。今日は大事なことを決めなきゃいけない」


 そうです。

 今日は灰田さんがつくって会社に承認された『オルタペストリー』のロードマップに、具体的な外注スタッフ(プレイヤー)さんを嵌め込んでいく打合せをするのです。私の思いつきだった壁掛け二次元仏壇(オルタペストリー)が、いよいよ形になるための工程(ステージ)に上がります。


          *


 その日は結局一度も会社に戻らずに、灰田さんがアポ取っていた外部プロダクションを数軒伺って挨拶やら概要説明して回りました。こんなに名刺配ったのは初めて。

 でもまた、総務ガールズにはなんか言われちゃうんだろうなぁ。


 プロダクションのディレクターさんたちと話をしてると気づかされることばかり出てきます。宗教団体からの反発の可能性やメイン偶像の権利関係や宗派バリエーションのラインナップだとか。材質や印刷の仕方と価格帯の折り合いなんてのも知らなかったし。私、もっと勉強しなくっちゃ。


          *


「瑞稀ちゃん、肩に力が入り過ぎ」


 姪浜(めいのはま)にあるお洒落なデザインスタジオでの打合せを終え、まばらに建物が並ぶ一本道を二人並んで駅に向ってる途中、灰田さんがアドバイスをくれました。夕暮れに近くなって急に重さを増した雲を眺めていた私は、慌てて耳を(そばだ)てます。


「そんなに焦ることないよ。ここからは共同作業だから、餅は餅屋に任せる度量が持てるといい。瑞稀ちゃんがやらなきゃいけない最も重要な仕事は、ユーザー目線での最終イメージを外さないよう管理すること。そこがブレたら企画自体が壊れちゃう。原価や法務関係の調整は僕がみるから、瑞稀ちゃんは気兼ねしないでクリエイターたちの水先案内に専念して」


 そう言われて肩を上下してみると、たしかに首の周りが固くなっていました。ホントよく気が回るひとですよ、灰田さんは。全国にいる中間管理職の中でも、上司にしたい人ランキング百位以内には余裕で入るんじゃないでしょうか。天童さんや水晶ちゃんが入れ込むのもわかります。ていうか、栄さんとなら絶対お似合いなんだからさっさと復縁すればいいのに。



 空港行きの地下鉄は、夕方の上りの所為かけっこう空いています。一人分空けて隣に座る灰田さんは、ひと仕事終えてリラックスしてるご様子。手持無沙汰でスマートフォンを眺めていると声が掛かりました。


「終業にはちょっとだけ早いけど、今日はこれでお仕舞にしとこう。今日行った協力会社の評価リストは明日つくればいいから、今夜はゆっくり休んで」


 台詞が終わるか終わらないかのタイミングで、車輛が大濠公園駅に滑り込みました。完全に停止したのを見計らって立ち上がる灰田さん。


「僕はここだから。じゃ、瑞稀ちゃん、お先に失礼。また明日ね」


 片手を軽く上げてホームに出た灰田さんは後ろを振り返ることも無く、エスカレーターを使わずに階段で上がっていきました。

 なんというか、スマートなおじさまだこと。ちょっと呆れちゃうくらい。

 私はリヒラを思い出しました。月波(わたし)の物語『エミールの旅』に出てくる旅するイケオジ。そういえば、ツイッター小説も随分書いてないなあ。どのシーンで止まっちゃってるのかもはっきり覚えてない。

 ツイッターアプリを開き自分のツイートを探していたら、赤坂を乗り過ごしてしまった。いつもとは逆方向だからと自分に言い訳しつつ、早い時間だから天神で降りるのもいいかなっていう、まるで最初から計画してたみたいな思いつきにちょっと笑いました。

 ひさしぶりにてんちかでも歩いてみようっと。

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