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ボクの名は  作者: 深海くじら
卯月

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七十六話 笠司、清明(六)

 社会人二週目はいきなり忙しく過ぎた。実務研修《OJT》と言えば聞こえはいいが、要は小間使いである。それもあんまり手際の良く無い。

 そりゃまあそうだ。カッターの替え刃ひとつ取ったって在庫がどこにあるのか知らないのだから、使う方もストレスが溜まることだろう。作業してる先輩たちの笑顔が引き攣っていくのを何度も見たし。

 でも仕方ない。そういうことは、おいおい覚えていくしかないのだから。

 営業兼業務管理(つまり僕の部署)の人たちは年配のベテラン揃いなので、その辺はかなり辛抱強いから助かる。トップの中込(サンタ)さんは言わずもがなだが、二番手の森下さんと大島さんも四十代三十代だし、嘱託の佐久間さんに至っては還暦を越えている。しばしば入れ替わりのある制作部門と違い、こちらの部署の新卒は大島さん以来だそうだから、それなりに大事にはされているのだ。

 当面の僕が期待されているのは、昨年定年退職された松木さんという方の穴埋め。でもこの業界で四十年やってきた方の代わりを、多少齧ったことがあるとは言えポッと出の新人が務まるはずもない。なので、今まで松木さんが担当してきた仕事は先輩方三人に割り振られ、僕はその全てにサブで入るという形を取っているのだ。おかげで、覚えなきゃいけないことが多い多い。毎日朝から晩まで、他のことを考える余裕など無い。それどころか、二日前の昼夜に何を食べたかすら思い出せない。朝の短いジョギングだって、シャワーを浴びるという理由が無ければ続いてないだろう。


          *


 この土日も、大島さんが担当する展示会の撤去と森下さんのショッピングセンター装飾差し替えが入っていた。連日の昼過ぎから夜遅くまでの仕事で、身体の方はボロボロに疲れ切っている。試しに今週の残業と休日出勤を合わせてみたら、三十時間を超えていた。

 さすがに明日の月曜は代休を貰えたから、七日ぶりの完全休養。事務所のシャワーで汗を流し、コンビニに寄って部屋に帰る。弁当とビールと缶チューハイ、ツマミ用のビーフジャーキーやポテチなどをずらり並べ、座椅子にもたれて録り溜めしていたアニメを観る至福もひさしぶりだ。


 今季は豊作で、観ておかなきゃいけないタイトルが目白押しだ。新作だと『推しの子』『天国大魔境』『僕の心のヤバイやつ』『スキップとローファー』『君は放課後インソムニア』といったマンガ原作モノが並び、二期以降では『水星の魔女』『キンカム』『鬼滅』『トニカクカワイイ』『魔法使いの嫁』などが続く。その上、見てなかった再放送組の『青ブタ』や『タイバニ2』まで入ってくるのだから、とても見切れたもんじゃない。

 今日配信開始のロードトゥザトップでのナリタトップロード(トプロ)の走りをTVの大画面で観ながら、僕は嬉しい悲鳴をあげている。今夜は朝まで視聴三昧といくか。



 沈丁花の足下で、舞い戻ってきた義理の父親に押さえ込まれて独白を聞かされたままのサトル少年のことを、その頃の僕はすっかり忘れていた。

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